二次_ムカデにまつわるエトセトラ

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『とりあえず様子は見たからって、帰ったりしないわよね?ううん、そんなこ
とない。何も言わずに、勝手に帰ったりしない人よ。でも、万が一ってことが
あるわ』
 思い始めた途端歩みが早くなり、ほとんど小走りでウンスが部屋へと向かう。

 ヨンは、足音に耳を澄ませる。聞き慣れたヨインの足音だったが、やはり咬
まれたほうの右脚を、多少かばっているような感を受けた。戸口に立っている
自分が邪魔になる。緩慢な動作でヨンは戸口から一歩退く。
 日没から時間が経っていて、典醫寺の廊下は薄暗かった。明かりを灯す当番
は、まだ廊下まで来ていない。ウンスは部屋に到着すると、そのまま両開きの
扉の取っ手を掴み、一気に開けて飛び込むようにして中に入る。
「わっ!」
 ヨンが待っているのならテーブルの近くに、帰ろうとしているのなら玄関の
扉の近くにいると、ウンスは思い込んでいた。それなのに、ヨンが典醫寺の内
廊下へと続く出入り口、つまり自分の眼の前に立っていたので、驚いたウンス
が大声を上げる。
 その拍子に持っていた茶葉入りの紙を落としてしまい、茶葉が床に散らばる。
茶葉を包んだ紙を折り畳まずに、大雑把にくるんだのが失敗だった。ウンスが
反射的に茶葉を拾い始める。
 ヨンも、しゃがんで一緒に茶葉を拾う。薄暗い部屋で、頭を突き合わせて、
黙々と落ちた茶葉を拾っている自分たちが何だか滑稽で、ウンスは笑いがこみ
あげてくる。
「ふふっ」
「・・・何が可笑しいのですか?」
「別に何がおかしいってわけじゃないんだけど、何だかおかしくて。意味は別
にないわ」
 楽しそうなウンスとは反対に、意味がわからず、顔をしかめるヨンの表情が
薄暗い中でもぼんやりと確認できる。思った通りの反応に、ウンスは余計に楽
しくなってくる。
 目が利くヨンには、ウンスのはしゃいだ表情がはっきりと見てとれた。その
顔を見ているうち、先ほどからずっと強張っていた表情が、段々とほぐれて柔
和になるのが自分でもわかった。
「それにしても、どうしてあんな所に立っていたの?驚くじゃない」
 その問いかけに、ふとヨンの手が止まる。後を追いかけて、先ほどの話を問
い質そうとしたとは言えず、すぐに返事ができない。ヨンが返事をしないのは
よくあることなのでウンスが話を続ける。
「もう帰ったのかもしれないって、ちょっと思ったから、あんな所に立ってて
余計に驚いたわ・・・もしかして、遅いから様子を見に来てくれたの?」
 床の上の茶葉をつまみ上げながら尋ねるウンスに、拾う手を止めたヨンが、
しばらくして答える。
「すぐに戻るから待っていろと、仰ったのでは?」
 帰るわけがない。あのまま帰ってしまえば、眠れない夜を過ごすことになる。
いっそのこと、仔細を聞いて仕方のないことだったのだと自分を納得させたい。
狼狽したが、聞く覚悟はできた。ただ、仕方のないことで済まされない話、つ
まり自分が納得できなければ、それもまた眠れぬことになるのだが・・・
 ヨンの答えにウンスが微笑む。
「そうね、そうだった。「待ってて」って私が言ったのよね。私ったら、余計な
心配しちゃった」
 他意のない笑顔を向けられて、ヨンはたじろぐ。
『オレが帰ってしまうかと心配で、この方は慌てて戻ってきたのだ』
 まだ、痛みが残っているだろう脚で駆けてきたのかと思うと、申し訳ない気
持ちもあるが、それを凌駕する気持ちが沸き起こる。
 大方の茶葉を拾い終えて、二人は立ち上がる。茶葉をさっと湯で洗ったあと、
それを急須に入れて、ヨンが鉄瓶から新しい湯を注ぐ。急須の中の茶葉が開く
のを待つ間、ヨンが先ほど茶葉を包んでいた紙をぎゅっとねじる。
 細くねじり上げた紙を、火鉢で熾る炭にあてて火を貰い受ける。その火で卓
の上の秉燭(ひょうそく)に火を灯すと、次は部屋の隅の行燈へと移動して、
同じように火を灯す。
 部屋が柔らかい光に包まれる。行燈の前でしゃがんだヨンは、ねじった紙が
勢いよく燃え出す前に息を吹きかけて消すと、火が安定するのをしばらく見守る。
 ウンスは、ヨンを見つめていた。薄暗い中にあっても、その無駄のない身の
こなしと手際の良さがわかり、改めて感嘆する。火が灯ると、ヨンの顔がはっ
きりと見えて安心する。
 口調がぶっきらぼうなのはいつものことだが、何だか怒っているような雰囲
気も感じていた。
『遅くなったから怒ってるのかな?』
 心当たりと言えばそれぐらいだったが、明かりに照らし出された表情には、
怒っているような様子は窺えない。安堵したウンスはゆっくりとヨンを観察す
る。広い肩、長い指先、喉仏、やがて黒耀石のような瞳に視線が移っていく。
 チェ・ヨンがウンスの視線に気づいてこちらを向くと、
「あ、明かりが灯ると、何だかほっとするわね」
 取ってつけたようで、不自然極まりないと慌てているウンスをよそに、ヨン
は別段反応するわけでもなく、作業を終えて立ち上がる。ウンスは、急須と碗
を盆に載せるとテーブルに持っていき、
「座って」
 と、ヨンを促す。ヨンが座ると、ウンスも座って碗に茶を注ぐ。注ぎながら
「ん?」という顔をするウンスを見逃さず、ヨンが尋ねる。
「何か?」
「あ、ううん。チャン先生がプーアル茶だって言ってたから」
 プーアル茶と言えば、濃い茶色のイメージがあったが、碗のお茶はそうじゃ
ないみたいだ。灯りの下で見る色だからよくわからないけれど、どちらかとい
うと緑茶に近い色だろうか。
『時代が違えば、お茶の色も違うのかしら?それとも、チャン先生が間違えた?』
 自分の知識と違う茶の色に関心が涌いて、不思議そうに碗の中を見ているウ
ンスだが、ヨンは茶の色など、どうでもよかった。
 灯りに照らし出されたヨインの髪は、陽の光の下で見る赤銅色ではなく、栗
色に見えた。白磁のように白い肌も、その滑らかさに変わりはないが、灯りの
下で見ると温もりの色を帯びて・・・手を伸ばせば届くところにある髪に、頬
に触れたくてたまらない衝動にかられる。
 ヨンは卓の下でグッと拳を握って、衝動を断ち切る。
「どこで咬まれたのですか?」
 と、唐突に話を切り出す。ウンスは碗から顔を上げると、
「ああ、えーっと・・・違うわ。その前によ」
 ウンスが、「どうぞ」と手を差し出すので、ヨンは目の前に置かれた茶をガブ
リと一口飲む。チャン・ビンの茶はいつもうまかった。だが、今日は茶を味わ
うどころではない。
 ウンスも一口飲む。王妃様のところで飲むお茶もおいしいけれど、このお茶
も負けず劣らずおいしい。
『ということは・・・これって高い茶葉なのね、きっと。チャン先生って、実
はお金持ちだとか?それとも裕福な家柄とか?』
 違う物思いにふけってしまいそうになるが、じっと見つめる目に促されて、
ウンスはようやく語り始める。

<続く>

ぎゃー、ごめんなさい。ごめんなさい。
昨日のアップが間に合いませんでした(汗)
卓の上にあるあの灯りが何なのか気になって調べていたんですが
ヒットしなくて・・・やっと見つけました。
秉燭(ひょうそく)で合ってるかとは思うんですが、間違っていたらゴメンなさい。
秉燭(ひょうそく)

卓の上にあるのが秉燭(ひょうそく)、ウンスの奥にあるのが行燈ですね(多分)

ちなににヨンがボーっと立っていたのはこっち。
典醫寺の廊下
 チャン・ビンは薬材の調合場にいた。医員たちが、十数種類の薬材の干し具
合を一つ一つ確かめていて、チャン・ビンはその作業を傍で見守っていた。
「チャン先生」
 ウンスが声をかけると、チャン・ビンが振り向く。
「茶葉を少しわけてもらえませんか?あの人、チェ・ヨンさんが来たから、お
茶を淹れてあげようと思ったんですが、茶葉が見当たらなくて。この前買った
ばかりで確かにあったはずなのに・・・」
 チャン・ビンは、ウンスの話を聞いてふと思い当たった。
「以前、こちらで何か作る際に茶葉を使われていたのでは?」
「あっ!そうだわ。やだ、すっかり忘れてた」
 言われてようやくウンスも思い出す。前に、緑茶入りの石鹸をここで試作し
ていて、買った茶葉を全部使い切ったのだった。どうりで、探しても見つから
ないはずだ。納得しているウンスに、チャン・ビンが尋ねる。
「茶葉は用意致します。それから、医仙、後ほど部屋のほうにお伺いしても宜
しいですか?テジャンに申し上げることがありますので」
「ありがとう。あ、でも、あのことだったらもう・・・」
 茶葉の礼を言ったあと、話の内容を察したウンスが「もうそのことはいいの
では?」と言いかけるのをチャン・ビンが制する。
「私の責任です。テジャンも事の次第を知りたいはずですし、必ずお尋ねにな
るでしょう。その前に、私から経緯を説明させてください」
 この件について、チャン・ビンは折れるつもりはないようだ。まっすぐな目
でじっと見つめられて、ウンスはあっさりと降参する。
「わかったわ」
 チャン・ビンは頷くと、「こちらへ」とウンスを促す。ウンスを連れて書斎
に行ったチャン・ビンは、書物が積まれている背の高い棚の一番上の段に手を
伸ばすと、紙の包みを下ろす。
 幾重にも包まれた紙を一つ一つ丁寧に広げると、中には20cmほどの円盤状
の茶葉が現れた。ウンスが興味津々で覗き込む。チャン・ビンは、棚に置いて
いた柄の短い錐(きり)を持ち出すと、円盤の側面に錐を差しこんで、ゆっく
りと上下に動かす。
 てこの原理で、やがてある程度の茶葉の塊が剥がれ落ちると、今度はそれを
丁寧にほぐし、傍にあった紙にそれを包んでウンスに渡す。
「普洱茶(プーアル茶)です」
 差し出された包みを受け取ると、
「ありがとう」
 と礼を言って、書斎を出る。
『少し時間がかかったかしら?まさか、帰ったりしてないわよね?』
 不安に思った途端、ウンスは小走りになって部屋へと急ぐ。

 ウンスが部屋から出ていってしばらくのこと。彫像のように固まっていたヨ
ンが、弾かれたように動き出して、そのままウンスが出ていった戸口へと向かう。
自分が戸口の前に立っていることに気づくと、今度は唐突に立ち止まる。
『どこに行くのだ?』
 どうかすると、足が勝手に動いて、部屋から出て行ってしまいそうになる。
それを理性でどうにか押さえつける。今出て行けば、あの方を捕らえに行って
しまう。掴まえたら、むやみに肩を掴んで揺さぶって、先ほどの話を聞き出し
てしまいそうで、それが怖かった。
 完全に混乱していた。ヨンは拳を固く握りしめて、荒ぶる感情を鎮めようと
試みる。まずは落ち着いて、それから考えるべきなのだが、心がうまくついて
こない。
 あの白い甲にチャン・ビンが口をつけて吸った。天界の言葉の意味は、正確
にはわからなかったが、恐らくはあの華奢な身体をチャン・ビンが軽々と持ち
上げて運んだのだろう。
 理性が「よせ!」と声を張り上げるが、昂ぶる感情がその声を打ち消して、
まるでいかにも見ていたように、そのときの光景を思い浮かべさせる。頭に描
いてしまうと、もうだめだった。腹の底から激しい感情が沸き起こって、その
感情をぶつける対象を、目が無意識に探し始めてしまう。
 ヨンは目をぎゅっとつぶる。拳が出ないように、腕を身体の脇にぴたりと押
し付ける。足が出ないように、両足の指にぐっと力を込める。そうやって、己
の中で吹き荒れる嵐にじっと耳を澄ませていると、やがて風は少しずつ凪いで、
ようやくのことで落ち着きを手に入れる。
 こんな自分は自分ではない。ヨインのこととなると、我を忘れて感情の抑制
が難しくなる。
『これは、オレなのか?』
 そうだ、こんな風にじたばたして狼狽えているのが、今のオレだ。そんな感
覚にも、とうに慣れたのに、何をいまさら自分に問うのか。
『往生際が悪い』
 自嘲の笑みが浮かべたあと、きゅっと顔を引き締める。
「オレは・・・ムサ(武士)だ」
 そうだ。オレはムサで、チャン・ビンは医員なのだ。チャン・ビンは医員と
して手当てをしただけのこと。手当てを受けなければ、あの方は今も痛みに苦
しんでいたはず。そのことを思えば、仕方のないことだと割り切れるのだが・・・
 割り切れないもやもやとした気持ちに折り合いがつかず、ヨンは深いため息
を漏らす。

<続く>

話に登場するプーアル茶はこれです。

ぎゅっと押し固めることにより、持ち運びがしやすく、茶の熟成がいいとか。
ちなみにこの形状のプーアル茶は私がよく飲む茶色のものではなく、
どちらかといえば日本茶に近い色だとか。

餅茶

コッソリ職場でのアップにつき、これにて御免!

 ヨンが典醫寺に到着したとき、ウンスは部屋の前でムガクシと話を交わして
いた。ムガクシたちも、ちょうど交代の頃合いだった。
「今日はありがとう。ヨンシさん、ウォルさん」
 名を呼ばれて二人が一礼する。顔を上げたウォルが、典醫寺の入口で佇んで
いるヨンに気づく。
「医仙、ウダルチテジャン殿です」
 その言葉に、ウンスがすぐにそちらを向く。
「あ!」
 と、声を上げて手を振る。典醫寺まで来たものの、陽が落ちてから女人のも
とを訪ねるのは、やはり失礼だったかもしれない。躊躇していたヨンだったが、
ウンスが大きく手を振って寄越す姿に安堵する。
「来たのね。今日はもう来ないのかと思った」
「文を受け取りました故」
「叔母様、ううんチェ尚宮様から?」
「はい」
「私がムカデに咬まれたって?」
「はい」
「わ~、何だか申し訳ないわ。わざわざ様子を見にきてくれたの?」
「・・・」
 ウンスの背後に控えていたムガクシたちが、会話を耳にしてピクリと動く。
ヨンはその動きが目に入って居たたまれないのだが、ウンスはお構いなしに言
葉を続ける。
「私たち、パートナーだもんね。来てくれて嬉しいわ。さあ、入って。お茶を
ごちそうするわ」
 周囲の様子に頓着しないウンスが戸を開けて、部屋にヨンを招く。
「初めまして、これからよろしくね。それじゃ、また明日」
 これから警備につく初対面のムガクシの二人に声をかけて、朝から警護して
くれたヨンシとウォルに手を振る。ヨンを部屋に通して扉を閉めるまでに、ウ
ンスはそうやって慌ただしく歓迎と別れの挨拶をする。
 ヨンシとウォルは、ウンスの天界式の挨拶(バイバイ)に慣れていて、さっ
と一礼する。交代でやってきた二人は、それが先だって聞いていた天界式の別
れの挨拶なのだとわかり、先の二人に倣って慌てて一礼していた。

 ウンスは医仙という称号を賜った際に、典醫寺の母屋の角部屋を与えられて
いた。陽当たりが良く、風も心地よく抜ける部屋で、部屋の中央にはテーブル
と椅子が置いてある。部屋の北側には納戸を兼ねたウォークインクローゼット
があり、部屋の一段高くなったスペースには、ベッドとお風呂が備え付けてあ
る。不便を言えばきりがないけれど、案外快適に暮らせている。
「座って」
 ヨンにそう促すと、ウンスは火鉢の方に行ってお茶の支度を始める。ヨンは
椅子には掛けず、立ったままウンスの所作を眺めていたが、すぐに歩み寄ると、
「私が」
 そう声をかけて、ウンスの手から鉄瓶をそっと取り上げる。鉄瓶が重いのか、
満杯まで湯が入っているせいなのか、鉄瓶を持ち上げて急須に湯を注ぐのでは
なく、鉄瓶を傾けて注ごうとしており、危なっかしくて見ていられなかった。
ヨンが片手で軽々と鉄瓶を持つと、ウンスはすんなり引き下がって横に立ち、
つと指を差す。
「ねえ、それ面白くない?」
 ヨンは、今自分が持っている鉄瓶を改めて眺める。形が面白いということな
のだろうか。鉄瓶は亀を象ったもので、甲羅の上には小亀を乗せていた。亀の
口が注ぎ口に、小亀は蓋の装飾になっていた。
「だって、亀の口からお湯が出てくるのよ。マーライオンみたいでウケる」
 天界の言葉混じりでヨインがクスクスと笑う。注ぎ口から湯が出る様が面白
いということらしい。ヨインの笑い声が耳に心地よく響いて、ヨンの口の端が
緩む。
 急須の蓋を開けたヨンが気づいてウンスを見る。
「何?」
「葉が入っておりません」
「あ~、そうね。葉っぱよ、葉っぱ。ちょっと待って!」
 ウンスが慌てて辺りの小さな壺の蓋を開けまわる。
『平時は、こちらでお茶を召し上がらないのだろうか・・・』
 茶葉を探して部屋中をウロウロし始めたウンスを見つめながらヨンは思う。
ウンスが、風呂の縁にある壺の中まで開けて確かめ始めたので、見かねたヨン
が声をかける。
「イムジャ、御医のところで茶葉を頂いてまいります」
 チャン・ビンとは、たまに二人で茶を飲む機会があったので、そこなら茶葉
があるはずだと考えた。
「いいわ。私が行くから」
 探すのを諦めたウンスがヨンの傍まで戻ってきて答える。
「いえ、ここでお待ちを。足を咬まれたのでしょう?」
 ヨンは、先ほどからウンスの足の甲が気になっていた。ポソン(靴下)を履
いていない右足の甲には白い布が巻かれていた。ウンスも足元を見下ろす。
「そうなの。咬まれたときはかなり痛かったわ」
 うげぇと顔をしかめてみせる。
「まだ、痛みますか?」
 ヨンがウンスを気遣う。自身は咬まれたことはなかったが、ウダルチの履物
の中にムカデが潜んでいて、そうとは知らずに足を突っ込んで咬まれた者がい
た。大の男が「痛い、痛い」と騒いでいたのを思い出す。
「あ~、もう大丈夫。ハニソンセン(漢医先生:チャン・ビン)が手当てして
くれたから。ムカデって蛇と一緒で、咬まれたらすぐに傷口の毒を吸い出すの
ね。ちょっと照れちゃった」
 ウンスはそのときのことを思い出しながらフフッと笑って話すが、ヨンは途
端に顔が強張る。
「そのあと、お姫様抱っこで運ばれたのよ。皆の注目を集めちゃって、それも
すごく恥ずかしかったわ」
 完全にヨンが固まる。ウンスは先ほどとは打って変わってヨンの反応が悪く
なったことには気づかないまま戸口の方へと向かう。まずは、茶葉をもらって
きて、お茶を淹れて、それを飲みながらゆっくり話がしたかった。
「それじゃ、ちょっと待っててね。すぐ戻るから」
 と、ヨンの返事を待たずに部屋を出て行く。

あとには石像のように固まったヨンだけが残された。

<つづく>

やっと書き上げました(フーッ)
この続きが一週間以内にアップできたら褒めて下さいな。
(追い風よ来い!!)⇒ノリ待ち状態

お話に出てくる火鉢と亀の鉄瓶はこれです。
(鉄瓶の注ぎ口が亀の口とか、蓋が子亀になっているというのは私の妄想です)
火鉢と鉄瓶

こっちがアップしたもの
鉄瓶アップ
何とか間に合いました(ふーっ)

ちなみに、このお話の設定はドラマでは13話あたりを想定しています。

・チルサル(七殺)との戦いは終わってて、ソヨン(書筵)の前。
 <ソヨンは、「高麗時代、国王の前で講義を行ったこと、またはその場」の意味>
・ウンスが悪夢を見ていることはまだ知らない。

こんな感じで設定していますが、徳興君のことは今回抜きで考えました。
「なんとなくこの辺りのお話かなぁ」ぐらいで見て頂けると幸いです。

 このお話のひとつ前に記事をアップしています。
 「番外編 トルベの持論」こちらもよろしくどうぞ♪
 (読む順番はどちらでもいいかな?)

********************
 陽が落ちてしばらくの後、チェ・ヨンが執務室から出てきた。康安殿の回廊
に姿を現したチェ・ヨンに、歩哨のウダルチが軽く頭を下げる。チェ・ヨンは、
チャンヒが控えている柱近くに差しかかったところで立ち止まる。
「用か?」
 チャンヒはその問いかけに応じるように、チェ・ヨンの前に進み出ると、
「チェ尚宮様からです」
 そう言って文を差し出すと、一歩下がってチェ・ヨンが読み終えるのを待つ。
その間に、ザッザッと集団で歩く足音が、回廊の向こうから聞こえてきた。
 やってきたのは、組長チュソクを先頭とした甲組のウダルチだった。日没と
なり、これから歩哨を乙組のトルベらと交代するチュソクたちだが、前方のテ
ジャンとムガクシを見止めて歩みを緩めると、やがて立ち止って遠巻きに二人
を見守る。
 チュソクが二人越しに、トルベに視線で問いかける。
『何かあったのか?』
 トルベは困った顔で首を振るしかない。(※)

<「医仙に何かあれば、僅かなことでも逐一報告しろ」
お前がそう命じておいたので、ムガクシが先ほど知らせを持ってきた。
医仙がムカデに咬まれたが、御医が直ちに手当にあたった故、至って
問題ないそうだ。
お前がこの文を読む頃には陽も暮れておろうから、明日にでもご様子を
伺うがよい>

 コモ(叔母)からの文は、簡潔なものだった。含みを持たせた文面だが、知
らせてくれたのだから有り難く受け取っておく。文を畳んで顔を上げると、文
を携えてきたムガクシと目が合う。
「返事を待っているのか?」
「あ、いえ」
 チャンヒはチェ・ヨンの顔色を窺っていた。どんな顔をしていたのか伝えよ
と命じられたこともあるが、文の内容が医仙に関することで、なにか重大な事
柄であるならば、雇い主にも一報を入れておくほうがよい。あわよくば、前に
いる男が動揺して、文の内容を漏らしでもすれば好都合と考えていた。
 だが、チェ・ヨンは文を読んで少し目を見張ったものの、それ以外にこれと
いって狼狽した様子を見せなかった。自分に問いかけた際の声の抑揚も、至極
落ち着いたものだった。どうやら文の内容は、雇い主に報せるほどの事柄では
ないらしい。
「『承知』。そう伝えてくれ」
「はい」
 チャンヒは一礼して坤成殿へと戻る。横目で見送ったチェ・ヨンがチュソク
たちを視線で促す。チュソクたち甲組の隊員らは弾かれたように、急いで引き
継ぎに入る。

 チェ・ヨンは、その場で引継ぎが終わるのを待つ。陽が既に沈んでいるとは
いえ、辺りはまだ仄かに明るかった。出仕する前に典醫寺に立ち寄って、今日
はもうこれで来ないとあの方に断りを入れておいた。
 チョナは、この国の今ある姿を知りたいと望まれている。だが、各地からチ
ョナの元に寄せられる書状には、真実が記してあるわけではない。徳城府院君
の勢力下にいる貴族たちは、私腹を肥やすために、偽りの文字や数を並べ立て
て不正を働いているのだ。
 まずは書状の内容を検め、記述が怪しいものは片っ端から床に捨て置いた。
陽も暮れる頃、机の上に山積みだった書状のほとんどが、今度は床の上に山と
積まれた。
「これが、この国の今ある姿か・・・」
 共に朝から書状に目を通されていたチョナがぽつりと呟かれる。頭でわかっ
てはいても、目の当たりにするとさすがに幻滅して、気落ちなさったのではな
いか。そう思ってお顔を窺うと、それでも笑みを浮かべておいでだった。
 チョナの視線の先にあったもの、それは机の上に残った三巻の書状だった。
「それでも、ここに希みはある。そうでしょう?」
 チェ・ヨンも静かに笑って、頭を下げる。
「御意」
 そうだ。僅かでも希みがあるなら諦めない。たとえ、机の上に書状が1巻た
りとなかったとしても、そのことに目を背けたりなさらない。そんな御方だか
らオレはお傍にいるのだ。

 交代を終えたトルベらが、整列してチェ・ヨンの後ろに控える。暫くの間チ
ュンソクにチョナの護衛を任せている。一旦宿舎に戻り、用を済ませて再び夜
半過ぎに護衛を交代することにしている。ソヨン(書筵)までは、自分かチュ
ンソクが常にチョナをお守りする体勢にしていた。
 チェ・ヨンは振り返って、任務を終えた隊員たちをさっと見回す。どの顔に
も疲労の色が滲んでいる。内功を使う者達がいるせいで厳しく、密な配備をせ
ざるをえない状況で、歩哨も常以上に気の張る務めとなっていた。
「ご苦労」
「はっ」
「先に戻って休め」
「テジャンは?」
 トルベが尋ねる。
「後で行く」
 常であれば、自分たちと共に宿舎まで戻るテジャンだった。先ほどの文が関
係しているのか、それとも違うのか。いぶかしみつつそれ以上は聞かずに、一
礼したトルベと乙組の隊員たちが宿舎へと戻って行く。それを見送ってから、
チェ・ヨンが視線を甲組に向ける。配置についた甲組の隊員たちは、其々に気
力に満ちた目でテジャンを見つめ返す。チェ・ヨンは小さく頷くと、
「頼む」
 と声をかけて、康安殿をあとにする。

 角を曲がると、折から一陣の風が吹き渡る。陽はとうに落ちているのに、そ
の風はまだ陽のぬくもりをはらんで温かく、ヨンの頬を撫でる。
 ヨンは典醫寺へと向かっていた。以前の自分であれば、あの文を読んだ直後
に不安のあまり、典醫寺へと駆け出していただろう。自分を遠ざけようとする
ヨインの態度に不安を憶え、差し伸べる手を拒まれて、どうすればいいのか、
わからなくなった。
 目の前にいるのに、その距離は遥かに遠く、よく笑う方だったのに、笑顔を
見せることがなくなった。強張った顔で押し黙るヨインを見るのはもどかしく、
そして心が重かった。
 自分がキ・チョルと刺し違えれば、ヨインは無事に天界に戻ることができる。
それが自分にできる最善の策で、ヨインの一番の望みだと思っていた。ならば
それを叶えて差し上げようとした。
『だが、今は違う』
 ヨインの望みがわかった今、自分でも不思議なほどに落ち着いていた。自分
が「大丈夫だ」と言えば、その言葉を信じて「行って来い(いってらっしゃい)」
と笑みを浮かべて送り出してくれる。命を持ち帰ったことを「よくやった(お
かえりなさい)」と喜んでくれる。
『帰りを待つ人がいる』
 そう思った瞬間、ヨインと二人で見た川岸の家が脳裏に浮かびあがる。誰か
の帰りを待つ灯りは温かく、あの家を、あの灯りを目指して夜道を急いで帰る
者が目に浮かぶようだった。オレはその者と同じ心地なのだ。
『あの方は、オレを待っている』
 今日あったことをオレに話したくて待っていて下さる。そんな気がした。そ
んなことを考えているうちに、典醫寺が見えてきた。歩いていくうちに自然と
顔がほころぶ。思った通り、あの方の部屋の灯りは温かく灯っていた。

<続く>

ごめんなさい。
ウンスが登場しませんでした(汗)
書いてる私が「あれ?あれれ・・あれっ!(汗)」でした。
ムカデもウンスも次回は必ず登場しますゆえ・・・
(タイトルもまだちゃんと考えてないワタシ)
トルベのことをいろいろ書きすぎてしまい、このまま2話の内容に入れて
おくのはどうかなぁと思ってバッサリ省きました。
でもカットしたままではちょっと勿体ない気がして番外編ということでこの下
に書いておきますね。

/////////////////////

『トルベの持論』
 康安殿の扉の前に立つ自分たち甲組ウダルチの前に、一人のムガクシが
やってきた。
「お!」
 気が付いたトルベが、いつものように気さくに視線を投げかける。だが、
そのムガクシは、トルベから二十歩以上離れたところで立ち止まると、その
まま動かない。顔なじみのムガクシではないが、見知った顔だった。
『何の用だ?』
 眼でそう問うた。用向きを尋ねるためだけに、みだりに扉の前を動くわけ
にはいかないし、かといってその場から大声を出して「何用か?」と尋ねた
りしたら、殿にいらっしゃるチョナやテジャンの耳にまで届いてしまい、
大事なお話の邪魔になる。
 ムガクシは自分と目が合うと、苛ついた顔つきになってそっぽを向いた。
困ったトルベがそれでも諦めずに手招きすると、今度は柱の影に下がって、
トルベの視界に入らないようにする。それで困り果ててしまった。
 結局、諦めたトルベが両脇に立っていた隊員に目配せしてその場を任せ、
小声で「誰に用なのだ?」と尋ねながら、ムガクシの前に立つ。袂に文を
携えているのが先ほどから見えていた。
 するとムガクシは尖った声で、
「構いだては無用。テジャンに直に渡すようにとチェ尚宮から言付かった故」
と、つっけんどんに答えた。「お手上げ」だった。そんな風にけんもほろろに
言われても、トルベはそのムガクシに腹を立てることはなかった。
 女にはめっぽう弱いのが、トルベなのだ。トルベにとって、女というものは
いつも笑っていて、柔らかくていい匂いがして気持ちいいものなのだ。だから、
女が顔を曇らせたり、困っていたり、泣くようなことがあれば、何とかするの
が男というものだ。
 そんな持論のせいか、トルベの周りにはいつも女が寄ってくる。それが若い
女ではなく、玄人の姐さんや婆さん、年端もいかぬ娘っこというのが本人には
いささか不本意なようだが。
 用が済んだムガクシが帰る際、トルベはまた目配せをするだろう。
『よかったな。無事に渡せて』
 チャンヒはそれを見事に無視するだろう。それでも腹を立てることはない。
それがトルベなのだ。
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