開京想曲(紅楼夢番外)09 再会

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チフは、ソルソンがケギョンにいる経緯を聞いて言葉を失くした。

マンボは、毎年カンファドへ渡り、妹ソルソンの消息を知らせてくれていた。
数日前、一年振りにマンボがカンファドへ行くと、ソルソンの姿がなかった。急いで周辺に聞き込んだマン
ボは、ソルソンがケギョンに行ったことを突き止めると、すぐに碧瀾渡(ピョンナンド)行きの船に乗り込
んで、渡って来たばかりの海を再び取って返した。船が港に着くと今度は一目散にケギョンを目指し、訪ね
た先でようやくソルソンを探し当てた。

昨年の秋、ソルソンの夫サンホが落雷により非業の死を遂げた。衝撃を受けた姑は次第に心を病んでいった。
雷が落ちた場所には、サンホ以外にも何人か立っていたが、皆身体の痺れや軽い火傷などで済んでおり、
サンホだけが命を落とすこととなった。
なぜサンホだけが死んだのか。姑は、その理由を追い求め、執着した。
そんな折、姑は一人の女と出会う。姑が「先生」と呼んだその女は、貰い子のソルソンを娶ったが故にサンホは
天誅(てんちゅう)を下されたのだと告げた。喪失の淵に共に立ち、苦しみを分かち合っているソルソンこそが
根源だったと知った姑は激昂し、ソルソンとその両親であるタンジたちを一方的に責めたてて、騒ぎを起こした。
曰(いわ)くつきの女。
ソルソンを貶める噂は一気に広まり、耐えかねたソルソンはカンファドを離れ、知己を頼ってケギョンへと
出てきた。

話を聞き終えたチフはその場を後にした。
狭い路地を何度か曲がりながら歩を進める。その歩みは常よりも大きな歩幅で、身の内から荒ぶる気が、考
えるよりも先に、脚を前へと運ばせる。路地がもう少し広ければ、チフはとっくに走り出していただろう。
が、あと数歩で大通りへ出るという地点で、勢いに乗ったはずのチフの足が唐突に止まった。
そして、打って変わってゆっくりとした足取りで大通りまで出ると、左右に分かれた通りのうち、右手の通
りへと目をやった。その道を行けば、ソルソンが身を寄せているというカヤグムの指導者イェリムの家があった。
チフは俯いたまま、沓の先を左の方向に向けると、ようやっと一歩踏み出した。そうして歩き始めると、歩幅を
大きめに取りながら足を運ぶ。
だが、辻をいくらも行かぬうちに、その歩みは鈍くなった。

ソルソンのことを思わずにはいられなかった。夫との夫婦仲は大層睦まじいと聞いていただけに、その喪失
の大きさは、想像するに難(かた)くない。慣れぬ地で暮らすことになった経緯もまた憂うべきもので、此の地で
暮らすソルソンのことが気がかりだった。

だが・・・
「あの娘の幸せを願うなら、会わぬことだ」
亡き父のその言葉は、チフの脳裏に強く焼き付いていた。

父と己は、捨てられた妹を見つけた。
けれど、連れて帰ることはしなかった。
己もまた、父の言葉が正しいのだと、そのときに悟った。

その言葉は、長らくチフの重い足枷となり、カンファドへ足が向くことはなかった。
だが、今日だけはその足枷が、無いに等しい程軽く思えた。

「ヒョン」
マンボが呼ぶ声がすぐ傍で聞こえ、チフは物思いから覚める。師弟のほうに視線を向けると、気遣わしげな
目とぶつかる。
「どうした?」
一定の距離を保ちながらマンボ兄妹がついて来ていることはわかっていた。チフの問いかけに、マンボは声
を潜めてあごをしゃくる。
「ソルソンが、こっちへ歩いてくる」
反射的に前を見る。通りを歩いている女は数人。子供連れが一人、もう一人の若い女は夫婦だった。チフが
目を走らせたその先に、ソルソンと思しき若い女が歩いていた。
チフは身体が凍りついたように動けなくなった。
目が逸らせない。
すらりとした首筋、整った顔立ちに母の面影を探してみたが、妹と母がうまく重ならない。

ソルソンは凝視するチフに一瞥もくれることなく、その傍を通り過ぎた。

チフは振り返り、妹の後ろ姿を見つめた。
その姿が、雑踏の中に消えていくまで。

ソルソン。
チフと同じ日に生を受けた妹との、十数年振りの再会だった。

<つづく>

二か月以上ぶりに更新(-_-;)
設定忘れすぎて、思い出すのに四苦八苦でした。
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