開京想曲(紅楼夢番外)08 スリバンとチフ

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ムン・チフが、通りを一人で歩いていた。

そのチフから離れること二丈(約六メートル)。マンボとコンジャが、チフの後ろを歩いている。
先ほどマンボからソルソンの話を聞いたチフは、
「・・・そうか」
と、呟くと、踵を返して門を出ていってしまった。
様子が気になった二人は顔を見合わせたあと、すぐにチフの後を追いかけてきたのだが、
その背中に声をかけることをためらい、結果後ろをついて歩いているという状態だった。
「ねえ、兄さん」
コンジャが隣を歩く兄に話しかけると、マンボが「何だ」と、視線を前に向けたまま応じる。
「チフ兄さん、大丈夫かな?」
「・・・どうだろうな」
前を歩く師兄は、傍を行き過ぎる者と時折肩がぶつかっていた。
らしくない。
そんな姿を目にしたら、「大丈夫」とは到底言えなかった。

「これを頼む」
妹のコンジャとスリバンを立ち上げて間もなくの頃、マンボは師兄チフからある紙を受け取った。
妹と一緒にざっと目を通したあとで、師兄に尋ねた。
「カンファドの?」
「そうだ。その人物の近況を教えて欲しい。お前の手が空いたときで構わない」
つまり、急ぎの用件ではないから、他の者には任せて欲しくないということだと、マンボは理解した。
「わかった。ニ、三日のうちに発つよ。ところで、ヒョン。このソルソンっていう女、何なんだ?」
「ヌイ(누이<妹>だ」
「え?」
「妹だ」
マンボと、その場に居合わせたコンジャが顔を見合わせる。今まで師兄から妹の話を、ただの
一度も聞いたことはない。故に、師兄は一人息子だとばかり思っていた。
と、マンボがあることに気づく。
「それでも、ヒョン。ここにカンファドの宿屋の娘って・・・」
紙を指し示してマンボが問い返す。
「故あって、そうなった」
師兄の表情は暗い。けれど、口調は淡々としていた。努めて平静に振る舞っている。マンボには
そんな風に見えた。詳しいことは訊かず、マンボはひとまずカンファドへ向かった。そして、数日後に
戻ってくると、チフにいくつか見聞きしたことを報告した。
 ソルソンは、カンファド一のカヤグムの腕前らしい。
 請われて、近所の娘たちにカヤグムを教えることもあるそうだ。
 夫婦仲はめっぽういい。オレも見たけど、仲睦まじいもんだった。
 子供がまだできないもんで、願掛けをやってるそうだ。
チフが既知の事柄も、中に含まれていたようだ。マンボはチフの表情からそれを読み取った。
「ヒョン、知ってたのか?」
「幾つかは、父から聞いていた」
「親父さんから?」
「ああ。父は、ソルソンのことを気にかけて、時々人をやって調べさせていた」
師兄の親父さんは去年亡くなっている。親父さんの役割を、師兄が引き継いだということか。
チフが自分たちに頼んできた理由が判ったところで、マンボはふと思い出す。
「ヒョンと妹御。似てるな」
マンボがそういうと、チフは少し驚いた顔をした。
「カヤグムを手入れする妹御と、鬼剣を手入れしているヒョンが重なって見えたんだ。身体つきも
面差しも違う。一見すると兄妹ってわからないもんだけど、ちょっとした拍子に似てるなって思う
ときがあるんだ。妙なもんだな、兄妹っていうのは」
チラリとコンジャを見ると、妹は露骨に顔をしかめていた。男らしい顔の自分と似ているというのが
心外だったらしい。
『オレが言ったわけじゃないぜ』
マンボは首をひょいとすくめて妹の睨みを避ける。
「母に・・・」
と、チフが呟くように口を開く。マンボとコンジャは小競り合いを止めてチフを見た。
「妹は、母によく似ていた」
「ヒョン、会ったことがあるのか?」
「いや。ずっと昔、一度見かけただけだ。亡くなった母によく似ていた」
心に浮かべた妹と母は己の傍に居ない。父も昨年身罷った。詮無いことを考えても仕方ない。
チフは腹に力を込める。
「サジェ(師弟)、ご苦労だった」
「カンファドなんて、すぐそこだ。ヒョン、いつでも言ってくれよ」
マンボが歯を見せてニカッと笑うと、
「飲もう。お前の新しい商売の話を聞かせてくれ」
チフはそう言って、マンボの肩を抱いた。
赤月隊に身を置いたチフと、身を置かなかったマンボ。
「性に合わない」というマンボの考えをチフは尊重してくれた。が、その後会う機会が減り、二人の
間には妙な遠慮が生まれた。
『この一件が、それを消し去ってくれた』
マンボは、そう思っていた。

<つづく>

≪このお話の主な登場人物≫
 ★マークは「信義」のドラマか小説に登場していたキャラ
 〇マークは私が設定したキャラ

○ソルソン(雪松)
「紅楼夢」では、妓楼ソガン亭の主メヒャン(梅香)として登場。
 カンファドの宿屋を営む夫婦の一人娘。
 八歳でサンホと婚姻した。

○サンホ
 ホンサム(紅参:高麗人参)を取り扱う問屋の長男。
 十二歳でソルソンを娶る。

○ミヨン
 ソルソンの母。

○タンジ
 ソルソンの父。
 カンファドで宿屋をいくつか営んでいる。

★マンボ
 表向きは「マンボの薬売り」。裏の顔は、ケギョンの情報を掌握しているという
 噂の手裏房(スリバン)の頭目。

★コンジャ(→名前は私が勝手につけています)
 マンボの妹。
 兄の右腕としてスリバンを支える。

★コサ(白い人)→名前だけは台本に載っていた。
 スリバンの一味。
 幼少の頃からスリバンに属していた(という私が考えた設定)

★ムン・チフ

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