開京想曲(紅楼夢番外) 06 変転

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陽も中天を過ぎ、カンファドの波止場は賑わいの中にも落ち着きを見せていた。
陽が昇る前から働いていた水夫(かこ)たちが一休みする頃合いで、男たちの腹を
満たす飯屋の女たちは先ほどまでくるくると忙しく立ち働いていた。
それが一段落すると、給仕の女たちは片づけがてらの噂話に興じる。
「宿屋のタンジの娘さん、離縁されたんだって?」
「そうらしいよ」
「その子、この間旦那が死んだんだろ?まだ若いのに、気の毒な話だよ」
「だけどさ、あの問屋には、旦那の弟がいたはずだろ?弟は兄嫁をもらわないのかい?」
婚姻で一度結ばれた家同士の絆は、簡単に断ち切るべきではない。そんな考えから、
妻が早逝した場合は夫が妻の姉妹を娶り、夫が早逝した場合は夫の兄弟が兄弟の嫁を
娶って、結びつきを維持していく。それは遺された者へ、救いの手を差し伸べるという
ことも担っていたはず。
すると、問屋の近所に住んでいる女が、待ってましたと言わんばかりに「それがだよ」と
他の女たちの注意を引く。
「どうやら曰くつきの娘で、それで離縁されたらしいんだよ。あそこの大奥さんが、
『嫁のせいで息子が死んだ』って言いだしてさ」
「それ、どういうことだい?」
通りいっぺんの噂話ではなくなった。洗いものの手を止めて、皆は話に聞き入る。
「あそこの息子、雷が落ちて死んだだろ?そんな死にざまをしたのは、何か因縁か
祟りがあったんじゃないかって、大奥さんが卦の有名な先生にみてもらったらしいんだよ。
そしたらなんと」
「なんと?」
そこでようやく声を潜める。
「いや、詳しくは知らないんだけどね。嫁にもらっちゃいけない娘だったらしいんだ。
そのせいで旦那が死んだんだって話だよ」
「ええっ!?」
「嫁の報いを旦那が受けたってことかい?死んだほうはたまったもんじゃないねぇ」
自分に置き換えて考えてから身震いする。旦那のせいで自分が死ぬなんて
まっぴらごめんだ。
「とにかくさ、もうカンファドでは嫁に行けないんじゃないかねえ。曰くつきの女に
なっちまったからね。この先はないね」
「タンジの宿屋があるじゃないか。あれ全部自分のものになるんなら、婿に入りたい奴は
いるんじゃないかい?あの子、まだ若いだろ?」
「いくら若くったって、財が入るからって、代わりに命取られるんだよ。うちの息子が
一緒になりたいって言ったって絶対に承知しないね」
要らぬ心配をして身をよじる女に、『それは向こうが断るだろう。』と、他の女たちが
呆れた目をする。
「じゃあ、もしもあの子が婿をもらったら、そいつは心底惚れて死んでもいいから
一緒になりたいって思ったか、欲に目が眩んだかのどっちかだね」
「あははは。そりゃ、そうなるね」
「違いない」
「まあ、どっちでもいいさ。あたしたちには関係ない」
「それもそうだ。さあ、片づけよう」
ひとしきり話し終わって気が済んだのか、女たちはそれから無言で手を動かした。

<つづく>
私が書く話は、どうも「起承転結」の「起」が長すぎる気がします。
「これぐらいかな?」と思って話の風呂敷を広げるのですが、サイズ感覚が未だにわからず(^_^;)
風呂敷(話の展開)が大きくなりすぎて、畳み方がわからなくなる前になんとかしたい。
「麗」や「ジャクギ」で学んだ「歩歩驚心」という言葉。
意味は、<一歩一歩慎重に>というものらしい。
私の心境は今まさにそんな感じ。
それとも、「策士、策に溺れる」かしらん。(自分が設定した内容に溺れるワタシ)

遊牧民族は、婚姻によって出来た資産が減ることを防ぐために、ソロレート婚やレビラト婚の
習慣があったそうです。
朝鮮時代に入ると儒教の影響でこのような習慣は悪しきものとされて禁止されたでしょうが、
高麗時代は末期とはいえ、民間ではそういう習慣がまだ残っていたのかなぁという設定で
つけてみました。

ソロレート婚:妻が死んだ後、夫が妻の姉妹と結婚する習慣
レビラト婚:寡婦が死亡した夫の兄弟と結婚する習慣

 ※私が愛読している「乙嫁語り」というマンガにはどちらの習慣も出てきます。
  (地中海寄りの、ロシアに支配される前の中央アジアが舞台のマンガ)

あ、私信をひとつ。
 K様、私はあのマダムのことを「コンジャ」と名付けようと思います♪
 孔雀のコンジャッから思いつきました。
 だけど羽根が派手なのは雄なんですよね。まあいいか(笑)
 スリバンの人たちって、通り名の設定なのかなと思いました。
 なので、コンジャも通り名ってことで。(本名は多分べつにある・・・はずな設定)


≪このお話の主な登場人物≫
 ★マークは「信義」のドラマか小説に登場していたキャラ
 〇マークは私が設定したキャラ

○ソルソン(雪松)
「紅楼夢」では、妓楼ソガン亭の主メヒャン(梅香)として登場。
 カンファドの宿屋を営む夫婦の一人娘。
 八歳でサンホと婚姻した。

○サンホ
 ホンサム(紅参:高麗人参)を取り扱う問屋の長男。
 十二歳でソルソンを娶る。

○ミヨン
 ソルソンの母。

○タンジ
 ソルソンの父。
 カンファドで宿屋をいくつか営んでいる。
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