開京想曲(紅楼夢番外) 05 親子になった日

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タンジとミヨン。
二人には長らく子が出来なかった。

タンジは、「子はそのうちできるものだ」と楽天的に構えていたのだが、
ミヨンのほうは切実だった。子が出来ないことで悩むあまり、塞ぎがちに
なることもしばしばだった。
そんな折、ケギョンに住むミヨンの従兄弟から「母が会いたがっている」と、
文が届いた。叔母には息子しかおらず、姪のミヨンを殊の外可愛がってくれて
いたが、タンジと一緒になってカンファドに移り住んでからは縁遠くなっていた。
少し前に、季節の変わり目で体調を崩したことがあり、今はよくなっているのだが、
気弱になっているという。
夫婦そろって早速会いに出かけると、叔母は大層喜んでくれた。従兄弟の厚意に
甘えて数日滞在したあと、朝早くに叔母の家から出立した。
歩き出して間もなく、近くに寺があることに気づいたミヨンが、折角だから無事に
帰路に着けるようにお詣りしようと夫を誘うと、タンジは二つ返事で頷いた。
松の木が立ち並ぶ参道を歩いていき、寺の門をくぐったそのとき、ミヨンがはたと止まった。
「ねえ、何か聞こえなかった?」
問われてタンジが歩みを止める。何も聞こえない。頭を振ろうとしたそのとき、鳴き声が
聞こえた。しばらく顔を見合わせる。
「猫・・・だよな?」
赤ん坊の声に似た鳴き声に、タンジは妻に問うた。辺りを見回したが、人の気配はない。
「ねえ、あそこ・・・」
やがてミヨンが気づいて指し示す。門をくぐった際には気づかなかったが、柱の陰に籠が
一つ置かれており、その中から声がしていた。
覗き込んだ二人は声を失う。
籠の中には、白い布でくるまれた赤ん坊がいた。
『・・・なんて小さい』
ミヨンは何も考えずに膝をつくと、か細い声で泣く赤ん坊をおずおずと抱き上げて胸に抱いた。
「お、おい。捨て子なのか?」
タンジの慌てた声は、ミヨンの耳には入っていない。
『・・・軽い』
赤ん坊を抱くのは初めてではないが、この子はとても軽かった。生まれたばかりの子、或いは
月足らずで生まれてきたのかもしれない。
「あなた、お坊様に早く知らせてきて」
とにかく誰かに知らせないと。泣き声の弱さに不安を覚え、自分の声が上擦っていることにも
ミヨンは気づかない。
「待ってろ!」
答えるなり、タンジが本堂へ駆けていく。
その場に残されたミヨンは、赤ん坊をあやすようにそっと揺すぶってみる。けれども、一向に
泣き止む様子はなかった。夫がいなくなり、何だか心細くなってしまったミヨンは辺りを見回す。
誰かに見られているような気がして、きょろきょろと視線を巡らせる。
カサリ。
胸元で音がした。ミヨンは慎重な手つきで赤ん坊のおくるみに手を入れてみる。すると、二つ折り
にされた小さな紙があった。片手で紙を開くと、「雪松」という文字が目に入った。女性の筆による
字のようだが、それ以外は何も書いていない。
「ソル(雪)・・・ソン(松)」
呟いてから気づく。赤ん坊はいつの間にか泣きやんでいた。
「赤ちゃん。貴女はソルソンっていう名前なの?」
「ソルソン」
ミヨンが優しくその名を呼ぶと、応えるように赤ん坊が拳を振り回した。
「さあ、行きましょう」
ソルソンの愛らしい様子にいくらか落ち着きを取り戻したミヨンは、タンジが
駆けていったほうへとソルソンを抱いて歩き出した。

その日から、ソルソンはタンジとミヨンの子になった。

<つづく>


≪このお話の主な登場人物≫
 ★マークは「信義」のドラマか小説に登場していたキャラ
 〇マークは私が設定したキャラ

○ソルソン(雪松)
「紅楼夢」では、妓楼ソガン亭の主メヒャン(梅香)として登場。
 カンファドの宿屋を営む夫婦の一人娘。
 八歳でサンホと婚姻した。

○サンホ
 ホンサム(紅参:高麗人参)を取り扱う問屋の長男。
 十二歳でソルソンを娶る。

○ミヨン
 ソルソンの母。

○タンジ
 ソルソンの父。
 カンファドで宿屋をいくつか営んでいる。
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