開京想曲(紅楼夢番外) 03 災厄

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秋の実りに湧いた人々の熱気も冷めて、そろそろ冬の支度に取りかかろうとした頃に、
それは起こった。
サンホが不慮の死を遂げたのだ。

その日、サンホは高麗山の麓に広がるホンサムの畑へ朝早くから出かけていた。ホン
サムの収穫が始まり、今年の出来を仕入れ先まで出向いて確かめるためだった。
頭上には雲が広がりつつあったものの、雨が降り出す気配はなく、所々に青天も見えていた。
それなのに、雷鳴が遠くで聞こえたかと思うと、突然どーんという大きな音がしてすぐ
近くで稲妻が走り、音がしたほうを見ると丘の上の木から煙が上がっていた。あっという
間の出来事だったと、居合わせた者たちは口々にそう語った。
雷が落ちたとき、サンホは畑の様子がよく見える小高い丘の木の傍に立っており、雷は
何の前触れもなくその木に落ちた。
一報がク家にもたらされたとき、ソルソンを始め、ク家の人々は皆その話を信じなかった。
家の前に広がる空はどこまでも青く澄みきっており、雷が落ちてサンホが死んだという
その報せは、荒唐無稽な話としか思えなかった。
けれど、その日サンホは戻って来なかった。
「行ってくるよ」
笑顔を浮かべ、自分の足で出かけって行ったサンホは、翌日の朝変わり果てた姿で
荷車に横たえられて帰宅した。

ソルソンは夫の突然の死に、毎日泣き暮らした。感情が昂ぶって眠ることなく、食べ物も
ろくに喉を通らない日々が続いた。
「このままではソルソンも・・・」
心配した周囲は、ソルソンをひとまず実家で静養させることにした。

ミヨンは、娘ソルソンの傍を離れなかった。娘は亡くなった婿の後を追って行きそうで
目を離せなかった。娘を叱咤し、慰め、共に泣き、見守った。
タンジは、妻と娘を見守ることしかできなかった。ソルソンが少しでも食事を摂れば、
大仰に褒めた。食べてくれることが、ただただ嬉しかった。
両親の慈しみの中で、ソルソンはサンホを喪った哀しみをゆっくりと癒していった。

サンホの死から間もなく二か月が経とうとした或る日、サンホの母が突然ソルソンの
実家を訪ねてきた。巫女らしき身なりの中年の女性を伴ったその様子に、ただならぬ
ものを感じ取ったソルソンの両親は、先ずは娘を呼ばずに二人で対応することにした。
サンホの母は部屋に通されるなり、興奮して立ち上がると、
「あんたたちのせいで息子のサンホは死んだのよっ!」
と、タンジとミヨンを指差して言い放った。
「落ち着いて下さい。一体全体どういうことですか?」
出し抜けにそんなことを言われても当惑するばかりだった。
それよりも二人は、サンホの母の態度の変貌ぶりに仰天していた。息子の突然の死に、
ソルソンと同じように魂が抜けたようだった様子から一転して、血走った目でギョロリと
睨むその様は、何かに憑りつかれているようにも見えた。
「あんたたちの娘よ!」
宥めようとする態度が、サンホの母には気に障ったようで余計に興奮し始めた。
「あの子、貰い子なんでしょ!?どうして黙ってたのよっ!」
ギョッとして絶句する夫婦の顔色を見て、サンホの母は胸がスッとしたのか、勝ち誇った
ような笑みを浮かべてみせた。
「やっぱり。そうだったのね」
「な、何をいきなり・・・」
「こちらの先生に、サンホとソルソンの相性を見て頂いのよ。うちのサンホがあんな風に
命を落とすなんて、絶対におかしいと思ったのよ。ねえ、先生」
水をむけられた「先生」と呼ばれる中年女が、鋭い目つきでソルソンの両親を見つめる。
「こちらの子息は、貰い子を娶ったことで災厄を招いた。故に天罰が下り、雷に打たれて
命を落としたのだ」
女と対峙したタンジは震えた。まるで心の中までも見通すような目つきに身体が凍りついた。
ミヨンもそれは同じだったが、娘のために動揺を素早く押し隠して虚勢を張った。
「変な言いがかりは止して下さい。あの子は正真正銘私たちの子です」
胸をグッと突き出してミヨンは断言する。
『そうだ。あの子は私たちが育てた娘だ。誰が何と言おうと私たちの娘なのだ』
「貴女、ケギョンであの子を産んだそうじゃない。出産して半年ほどしてからカンファドに
戻ってきたんですって?」
「・・・どこでそれを?」
身の周りを調べられていることを知って、探るような質問を返す。
『この人たち、どこまで知っているのか』
「あの娘は、貴人の相だ。それもかなり高い身分・・・恐らくは王族に連なる者。そして、
その娘は、婚姻を結ぶことが許されない宿命に生まれている。それなのに、婚姻を結ん
だ故、子息は命を落とした」
「やめて!!」
たまらず、ミヨンが大声を張り上げた。すると、どさっと何か鈍い音がした。戸口を見ると、
少しだけ扉が開いていて、そこにソルソンがへたり込んでいた。
「ソ、ソルソン、あなたどうしてここに?」
「お義母様の声が聞こえたような気がして・・・」
慌てる母の声に、ソルソンは呟くように答える。

あとのことはよく憶えていない。
上体が傾いで、目の前は真っ暗になった。
それなのにどうしてか、「先生」という女性の声だけが続けた言葉だけが、明瞭に聞こえた。
「お前・・・・・・・生まれた。故に、死・・・・・・・てはならぬ」

<続く>

途中まで書いていた内容を全部消してやり直しました。
姑にいびられる設定でしたが・・・なんか筆が進まず(-_-;)

≪このお話の主な登場人物≫
 ★マークは「信義」のドラマか小説に登場していたキャラ
 〇マークは私が設定したキャラ

○ソルソン(雪松)
「紅楼夢」では、妓楼ソガン亭の主メヒャン(梅香)として登場。
 カンファドの宿屋を営む夫婦の一人娘。
 八歳でサンホと婚姻した。

○サンホ
 ホンサム(紅参:高麗人参)を取り扱う問屋の長男。
 十二歳でソルソンを娶る。

○ミヨン
 ソルソンの母。

○タンジ
 ソルソンの父。
 カンファドで宿屋をいくつか営んでいる。
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