【シンイで年越し企画2015】紅楼夢 32

ここでは、「【シンイで年越し企画2015】紅楼夢 32 」 に関する記事を紹介しています。
曲が終わると、母とホンイは一言二言言葉を交わす。稽古が終わったのか、
しばらくして二人が四阿から出てくる。ヨンスは、母とホンイが家に入るのを
見送って、小路に戻るつもりでいた。けれど、二人はヨンスの予想に反して、
庭を散策し始めた。
ホンイと会う。その為に備えていたはずの心を、急に心もとなく感じたヨンスは、
塀と庭木に一旦その身を潜めることにした。ゆっくりとした足取りで話をしながら
庭を歩く二人が、やがてヨンスが潜んでいる辺りを通りかかったとき、ホンイが
足を止める。
「お義母様は、ソルソン様をご存じなのですか?」
幾分か驚いたようにホンイが尋ねるのと同時に、緊張で息を止めていたヨンスが
そっと息を吐く。
「ええ。私とソルソン(雪松:설송)は、師は違いましたが、互いに切磋琢磨し合う
輩(ともがら)でした」
二人に背を向ける格好で、その会話を聞くともなしに聞いていたヨンスは、ソルソンと
いう名が心に留まった。確か、入隊する半年ほど前に母を訪ねてきた方だ。ちょうど
帰宅と重なって、己が母に取り次いだ覚えがある。
「<双曲>の由来については、前に話したことがありましたね」
「はい。伽耶国の旋律と異国の曲調。二つの国の音色から成ることから、<双曲>と
名付けられたと」
「伽耶国の古い文献を紐解き、古の旋律を今に甦らせる。そのような試みの中で、
ソルソンはあの曲を世に生み出したのです」
『先ほどの聞き慣れない曲は、あの方が作ったものだったのか』
ヨンスは、ソルソンと会ったときのことを思い出す。母に取り次いだ際の思い詰めた
彼女の表情も。
「謂れを伺っているからでしょうか。初めて聴いたとき、どこか懐かしい心地が身体に
広がりました」
「ホンイ」
母が優しく名を呼ぶ。
「はい」
「先ほどの演奏、とてもよかったですよ」
「ありがとうございます」
「貴女が想いを込めた調べは、風に乗ってソンアク山の麓まで届いたでしょう」
ヨンスには母の言葉がすぐには飲みこめず、振り向いて二人を窺う。母とホンイの横
顔が見えた。ホンイは少し狼狽した色を見せる。
「『<双曲쌍곡>は、<想曲상곡>でもある。』いつかの、ソルソンの言葉です。貴女の
音色に込められた、<想い>を感じました」
「双曲は想曲・・・」
『双曲は想曲』
ヨンスも心の中で呟く。
「私が出来ること。いろいろと考えました。私が男であれば、お傍で兄様をお護りする。
そのようなことができたのかもしれません」
しばらく間を開けて、ホンイがポツリポツリと話し出す。
「まあ、途方もないことを考えたものですね」
呆れた口調だが、母の声はどこまでも優しい色合いだった。
「私にできることを探してみました。それで、見つけました。私にはカヤグムがありました。
このカヤグムの音(ね)がいくばくかの慰めと安らぎになればと・・・」
母がゆっくりと頷く。
「・・・お義母様、兄様は大丈夫でしょうか?」
「ホンイ」
『ホンイ・・・』
ホンイが胸の前で合わせた両手を、母の両手が包み込む。
「祈りが込められた貴女の音色は、あの子の元まで飛んでいき、悪しき気を退けて、きっと
あの子を守ってくれます。そして、疲れた身体と痛む心を優しく包み込んで癒すでしょう。
大丈夫ですよ」
固く握りしめられていた指がゆっくりと解ける様子をヨンスは見守る。
「・・・はい」

家に入る二人を見送ったあとも、ヨンスはしばらくその場に佇んでいた。

強くなりたい。
強くなる。
聖上をお護りし、己も生きるために。

力強く一歩を踏み出したヨンスが、ふと立ち止まる。
今までは何とも思っていなかったはずの、己を過る柔らかい風に笑みが漏れる。
あの音色に包み込まれている。
そんなことを思い浮かべ、わけもなく幸せだった。

<つづく>

新しいキャラのソルソンは既出のキャラです。
そーなんです。
ソルソン=メ○○○というわけで。
スポンサーサイト
コメント
この記事へのコメント
コメントを投稿する
URL:
Comment:
Pass:
秘密: 管理者にだけ表示を許可する