紅楼夢 31

ここでは、「紅楼夢 31」 に関する記事を紹介しています。

ヨンスは、その日の朝、プジャンの許しを得て王宮の門外へと出た。
常ならば、その日に向かうことを遠慮していた場所に、今は歩みを
進めている。今日。朔日(ついたち:新月の日)は、自宅にホンイが
やって来る日だった。

入隊を数日後に控えたある日、母が「月に一度、ホンイにカヤグムを
教えることにした」と言い出した。気づけば、直ぐさま問いかけていた。
「何ゆえに?」と。藪から棒に飛び出した話に対する驚きと、己に断りも
相談もなく決まったことに対する反発。それらがない交ぜになって不機
嫌な声音になった。
「師妹に頼まれたからですよ」
母は、こちらの機嫌など全く意に介さず、平然と答える。「師妹」という
言葉に、そもそも双方の母親が姉弟子と妹弟子という縁があったから
結ばれた婚約だったことを思い出す。
「なぜ母上が?あちらの母上様もカヤグムはお出来になるはず」
「もちろん、日々の稽古は師妹がつけていきます。けれど、師妹も長らく
カヤグムから離れていた身。そのことを不安に思っているらしく、私の元
にも月に一度稽古に来させて欲しいと頼まれたのす。それで、「そういう
理由であれば」と、引き受けたのです」
「母上。私たちは仮初めの許婚なのです。私が帰宅した際に鉢合わせし
てしまえば、互いに気まずい思いをするのは必至。いずれ縁が切れる
間柄なのですから、疎遠なままでいるほうが両家のためではないですか」
先方にも既に「諾」と返事をしたことを、己が「否」と覆すことは難しい。
それを承知の上で、重ねて言った。己と顔を合わせれば、ホンイは居心
地の悪い思いをするに違いない。気を遣わせる存在になどなりたくなかった。
「そうかしらね。お前の顔を見れば喜ぶと思うのだけれど。それに、入隊
すれば、お前は若い頃のお父様と同じように、月に二、三度帰ってくるか
来ないかでしょう?鉢合わせすることはありませんよ」
「母上、戯れ言は結構です」
こちらが懸命になればなるほど、母はなぜか面白そうな顔つきをする。
それも歯がゆかった。
「わかりました。では、朔日をホンイの稽古日とします。会いたくなければ、
お前が心を配りなさい」
母がニコリと笑ってそう言ったとき、それもまた決まっていたことだったのだと
悟った。

それ以後朔日には家に寄らぬよう、心に留めていた。もっとも、母の言葉通り
月に二度も帰ればいいほうで、下手をすれば一度も家に戻らぬ月もあったため、
その取り決めは己にとって、さして負担に思うものではなかった。

そんな母とのやりとりを思い出しながら、ヨンスは通りを黙々と歩く。大通りから
小路へ入り、しばらく歩くと、ようやく家の石塀が見えてきた。と、ヨンスの足音が
ピタリと止まった。
カヤグムの音色がかすかに聞こえる。頭を巡らせて音色が聞こえる方角を見定
める。やはりそれは、家の方から聞こえてくるようだ。
『母が弾いているのだろうか?それとも・・・』
石塀の角まで来ると、音色はより鮮やかに、幅をもって耳に届く。それは、今まで
聞いたことのない旋律だった。ヨンスはその場で身じろぎもせず聞き入る。
どれくらいの間そうしていたのか。背後からガタガタと騒々しい音が聞こえ始め、
その音は段々と大きくなると、遂にカヤグムの音をかき消してしまった。惜しい気
持ちで振り向くと、半分だけ荷を積んだ荷車がゆっくりと傍を通り過ぎていくところ
だった。荷車を目で追った先に、家の門口が見える。
カヤグムの旋律が再び聞こえてくると、ヨンスはゆっくりと歩きだした。けれど、その
足は家の門口には向かわず、石塀沿いの細い脇道へと入っていく。胸丈ほどの塀の
向こう側の庭にある四阿に音色の正体を見る。
果たして、四阿には母と若い娘がいた。二人は向かい合って座り、若い娘がカヤグ
ムを弾いていた。こちらからは横顔しか見えないが、その娘の面差しに覚えがあった。
ヨンスは瞠目する。
『もう「あの子」とは呼べぬ』
すらりとした背に、腕に、伸びた髪に、カヤグムの弦を押す細く長い指に、そう思った。

<つづく>

そうです。
続くのですヨン。

あ、ちなみに今回は企画の看板をちょっと下ろしております。
【シンイで年越し企画2015】
この看板を年末に掲げるといろいろややこしいかと思いまして^_^;

来年も「紅楼夢」をどうぞよろしくお願い致します。
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コメント
この記事へのコメント
しんさん

おはヨンございます♪

むふふふ、年末に紛れ込むように滑り込ませた記事。
【年越し企画】の看板も、ややこしいので外して更新しました(笑)
去年の今ごろ、紅楼夢をせっせと書いていた私に言いたい。
「それ、もっと話のスケールを小さくしたほうがいいよ」と(-"-)

一応ラストまでの大まかなストーリーはできているんですが、
なにぶん、文字を綴る手が遅い遅い(笑)
今年中に無事完結を迎えられたらいいな。

このリコメを来年の私が読んで
「そうそう。こんなときがあったな」
と完結させた余裕の心でしみじみと振り返れますように・・・

ヨンもウンスもいませんが(⇒なんかもうこの環境に慣れた私がいる)
楽しんで頂けたら幸いです。

コメありがとう♪

2017/01/18(水) 04:54 | URL | しんさん #-[ 編集]
年末のご挨拶をしたので記事は全部読んでいたつもり。。だったのですが。。紅楼夢の更新に後から気づきました(汗)
ヨンもウンスもいないのに読んでいてスッと胸に入ってきて、綺麗な文章に心が洗われます。。
荷車の場面では特にヨンスの心の声無しにその思いが伝わってきて引き込まれました。
読ませていただいてありがとうございました。
おりーぶさんのペースで、次回も楽しみにしています。
2017/01/16(月) 12:13 | URL | しん #-[ 編集]
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