クリパ企画 「同じセリフでお話を書こう」から 吊り灯篭に火が灯される。

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吊り灯篭に火が灯される。
澱みのない冷たい空気は生まれたばかりの光を真っ直ぐに辺りへと放つ。

坤成殿まで薬湯を届けた帰り道、トギは回廊の吊り灯篭に順番に火がともされるのを
横目に見ながら幾分か速足で典醫寺へと向かっていた。
『遅くなった』
王妃様は王様の元に行っていたらしく、かなりの間待たされてしまった。来る前に西へと
傾きかけていた陽は、今はすっかり姿を隠している。
陽はなかなか昇らず、もったいぶって昇ってきたかと思えば、中天を過ぎると役目は果た
したとばかりにいそいそと山の彼方に戻っていく。風が乾いているせいで、薬草を干せば
すぐに干からびて仕事がはかどる。それでも水の冷たさに手が切れる季節の到来に憂鬱
さは拭えない。しかも、夜の訪れが早いので、追い立てられるように用事をこなす日々で
何となく気忙しい。
そんな冬の始まりだったが、今日の典醫寺は急を要する患者も、重篤な患者もいないことも
あって、いくらかゆっくりとした気が流れていた。先生も、自室で書の整理をするといったまま
部屋にこもっていた。
典醫寺へと戻ってきたトギは、先生の部屋が暗いことを確かめると、『やっぱり』とため息をつく。
すぐに手蜀を持ってチャン・ビンの部屋へと向かう。扉を開けると、中は外とそう変わらない
ほど寒かった。案の定、薄闇の中で書を読んでいる先生の姿があった。
書を読み始めたら、他のことが疎かになる。凪いだ湖面のように感情の揺らぎが少ない人だが、
湖底ではこんこんと医学に対する探求心が涸れることなく湧き続けている。
『こんなに暗いところで読んで、どうして気がつかないんだろう?』
薬草を探しに出て夢中で山の奥まで分け入り、夜になっても戻らなかったせいでウンスとチャン・ビンを
随分と心配させた自分のことを棚に上げて、呆れているトギだった。
部屋に自分が入ってきたことにも気づかないチャン・ビンにトギが近づく。卓に座って書を読み
ふけるチャン・ビンの、その手元の書を手蜀で照らしてやる。
ようやく気付いたチャン・ビンがいくらかぎこちなく顔を上げてトギのほうを見た。明かりの下、首に
広がる引き攣れた傷跡が生々しい。
「もう夜か?」
チャン・ビンの傷跡から目をそらすと、トギは黙って頷く。
火を使う女と笛を吹く男は、医仙の居場所を聞き出そうとして先生を拷問した。居場所を吐くために、
首への拷問は手加減されたらしい。それが紙一重で先生を助けられた理由だと、医仙は後に教えてくれた。
知らぬ間に頬を伝うものがある。
『貴方が居てくれて嬉しい』
不意に想いがこみ上げた。チャン・ビンはそんなトギを見つめると、慌てる様子もなく傍にあった書を
手元に引き寄せて、それを開いてトギに見せる。
「トギや、この薬草を知っているか?」
優しい声に誘われて、トギがその書を覗き込む。書には特徴を差し示す挿画が添えられていた。
『何だろう?葉は濃い緑だけど、こんな形は・・・』
泣いていたカラスがもう薬草のことを考えている。チャン・ビンは声を立てないよう、クスッと笑った。

時折揺れる暖かい灯のした。
冬の夜はゆっくりと更けていく。

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字数制限に泣いた作品。(といっても途中までしか書けていなかったんですが)
チャン・ビンは今回は生きている設定にしました。
(その時々で設定を変えるワタシです)

裏設定ですが、ウンスとチャン・ビンに頼まれてトギを山奥深くまで探しに行ったのはテマン。
トギはちゃんと洞のような場所を見つけて火を焚いて、獣から身を守っていました。
迎えにきたテマンにびっくりしたトギに、焚き火の薪を投げつけられてヒョイと避けるテマン。
なーんてね。

乙パの際のセリフを少し使わせて頂きました。
「知らぬ間に頬を伝うものがある」by蒔絵さん
ありがとうございました♪

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