クリパ企画 「同じセリフでお話を書こう」から 一条の階(きざはし)

ここでは、「クリパ企画 「同じセリフでお話を書こう」から 一条の階(きざはし)」 に関する記事を紹介しています。
「あ、そうだ。テホグンたち、今日夕方に戻ってくるらしいぜ」
スリバンのシウルが、隣の卓でクッパを食べていたウンスにそう告げた。
シウルは、王宮まで使いに出ていて、先ほど戻ってきたところだった。
ウダルチテジャンのチュンソクから言伝を預かってきており、それをマンボたちに
伝えたあとで、ようやくそのことを思い出したようにだった。
「それを早く言いな」
クッパを食べていた匙を宙で止めたままのウンスを横目に見ながら、マンボ姐は
シウルの頭をベシッと叩く。
「痛っ!なんだよぉ。言伝は真っ先に伝えろっていつも怒るくせに」
シウルは、避ける間もなく叩かれて大げさに痛がる。ふと我に返ったウンスは、
匙を再び口に運ぶ。次いで、残っていたクッパを大急ぎで胃に流し込むと、
「ごちそうさま」と告げて席を立った。
『帰って来る』
ウンスは、居てもたってもいられず、店の外へ出た。一歩踏み出した途端、
冷たい雪混じりの風に風防けが煽られて大きくはためく。クッパで暖まった身体に
たちまち震えが走る。
『王宮があそこだから、北の門はえっと・・・』
ウンスは風防けを合わせてぎゅっと掴むと、方角の見当をつけて走り出す。
そんなウンスの傍を、さっと誰かが走り抜ける。
「こっちだぜ」
シウルがニヤリと笑って、北の門へとウンスを先導する。

ヨンは、十日前からウダルチ数名を連れて紅巾軍の斥候(せっこう)に出ていた。
北門に辿り着くと、思った通り出迎えのウダルチが数名待機していた。
「奥様!」
シウルに目を留め、その背後から現れたウンスに驚いてウダルチらが一礼する。
ウンスは、「こんにちは」と通り過ぎざまに挨拶を返しながら、ソジャン(組長)を目で探す。
と、頭上から「奥様」と呼ぶ声がした。見上げると、城門の上にある見張り場からミョンホが
身を乗り出してこちらを見ていた。
「ソジャン、上がってもいい?」、そう問う間も惜しかった。ウンスは、さっさと見張り場へと
上る階段を上る。登りきったところで城門の警備兵二人が押しのけようと槍の柄を交差させる。
すかさずミョンホが「お通ししろ。テホグンの奥方様だ」と、助け船を出してくれた。
「ありがとう」
ニコッと笑ってミョンホと警備兵たちに礼を言い、すぐに門の外の街道へと目をやる。それらしき
人影を探して必死で目を凝らすウンスの背後から、「あそこです」と、ミョンホが気を利かせて指し示す。
そこには、米粒ほどの集団が見えた。皆が風防けのマントを被って馬に乗っているが、ウンスには
どの人影がヨンなのかすぐに見分けがついた。ヨンは頭巾を深く被っていて、表情は全く見えない。
項垂れているようにも見えた。
『疲れているのだろうか?それとも・・・誰かを喪ったのだろうか』
ウンスの心に緊張が走る。
集団はゆっくりとこちらに近づいてくる。冷たい風に当たり続けた身体はとっくに芯まで冷えていた。
それでも、その場所から動けなかった。

そのとき、曇天の空から、一条の階(きざはし)が地上に架けられた。

光は見る間に広がり、やがてヨンたちの頭上にも降り注ぐ。光の温もりを受けたヨンは、ゆっくりと頭を
もたげると、頭巾を外して空を見上げる。出かけたときと変わらぬ夫の顔がそこにはあった。
『よかった』
安堵の息が漏れる。同時に身体の緊張が一気にほぐれた。と、ヨンがに気づいたのか、こちらに視線を
定めてきた。ウンスはすうっと息を吸うと、
「おーい!おっかえりぃ~!!」
と声を張り上げて、大きく手を振る。
ヨンが驚いているのが、遠くからでもわかった。もうすぐ会えるのだと思うと、嬉しくてクスクスと笑いが
込み上げる。
「こんな寒い日に、ここで何をしているのか」
『あなたは、開口一番にそんなわかりきったことを聞いて、私を叱るのよね』
それでもいいの。構わない。
「おかえりなさい」
苦い表情をしているだろう夫を、笑顔で出迎える準備はとっくにできていた。

スポンサーサイト
コメント
この記事へのコメント
コメントを投稿する
URL:
Comment:
Pass:
秘密: 管理者にだけ表示を許可する