【シンイで年越し企画2015】紅楼夢 19

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「チョジャン(組長:조장)殿、ちょっと」
 兵舎に戻る途中で、ムガクシのウォルに声をかけられた。トルベは手にして
いた槍を預けると、乙組の一団から抜けてウォルのもとに歩いていく。トルベが
若いムガクシにちょっかいを出したりすると、中堅ムガクシのウォルが出張って
きて年上のトルベを叱る。乙組では、見慣れた光景だった。
 乙組のウダルチの中にはその場で一緒だった者も数名居て、トルベ一人を
犠牲にすることを胸の中で合掌しつつ、そそくさと兵舎へと向かう。
『やれやれ』
 トルベが重い足取りでウォルに近づくと、
「ついてきて」
 とだけ言って、ウォルが歩き出す。常ならば、こちらの体面などお構いなしに
、呼び出したその場で懇々(こんこん)と叱りだすはずで、「おや?」と思いつつ
トルベが後をついていく。

「ヨンスとミョンファ(명화:明花)が!?」
 仰天して大声になったトルベに、ウォルがすかさず「しっ!」と指を立てる。王
宮の片隅に移動したとはいえ、そこかしこに歩哨に立っている禁軍の兵士が目
につく。聞こえでもしたら大事だ。
「婚姻を約束した仲だというのは本当なのか?」
 慌てて声を潜めて尋ねるトルベに、
「ええ」
 と、焦りを滲ませた顔色でウォルが答える。

「安くて、いい小物を扱っている店を教えて欲しい」
 ミョンファにそう尋ねられて、ウォルはいくつか店の場所を教えた。後日チェ尚
宮の遣いで市街に出かけていたウォルは、ミョンファとヨンスが連れだってその
店から出てくるのを見かけた。いぶかしんだウォルが、後で店主に二人のこと
を尋ねると、「男は女の許婚で、女の小物や婚書を入れる箱を買っていった」と
いうではないか。
「店主の間違いではないのか?」
 一縷(いちる)の望みを託して尋ねるトルベに、
「二人が店をでてすぐに聞いたことだし、元国訛りの高麗語を話す切れ長の目
をした顔立ちのいい女が他にいるか?」
 と、ウォルがにべなく言う。
 ミョンファは、ワンビママの侍女だ。それも故国からお連れになった、たった一
人の侍女だった。元国を発ったとき、侍女を三人付き従えておられたワンビマ
マだったが、一人は入り江の宿屋で敵の刃に斃(たお)れ、もう一人はワンビマ
マの御命を狙った刺客が侍女として潜り込んでいた。結局高麗の地を踏んだ
のはミョンファだけとなった。
『そういえば』
 ヨンスは元国の言葉を流暢に話せる。ワンビママとは違い、ミョンファは高麗
語がたどたどしく、帰途の際ヨンスに度々助けを求めていたことを思い出す。王
宮の中ではあまり顔を合わせることのない二人だが、あの道中に親しくなって、
心を寄せ合ったとするならば、ウォルの話は頷ける。
「近すぎる。まずいな」
 トルベのつぶやきに、ウォルも頷く。
「ええ、近すぎる」

<つづく>
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