【シンイで年越し企画2015】紅楼夢 17  6/26追記あり

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 トルベたちは、案内された部屋で静かに待っていた。

 最初は、丸茣蓙(ござ)にきちんと座っていた五人だったが、そのうち足を組
んだり、立膝になったりと、思い思いに楽な体勢に換える。トルベは、目を閉じ
て胡坐に組んだ足の上に拳を置いていた。
「お連れ様を後程こちらにご案内致しますので、しばらくお待ちくださいませ」
 部屋まで案内してきた女が、その言葉を残して去ったのはかなり前のことで、
五人は、いささか気詰まりになっている。
「腹が減ったな」
 目を閉じたままでトルベがぽつりとつぶやくと、腹の虫がキュルルと誰よりも
早く哀しげな相槌を打った。兵舎にいたなら、とっくに飯にありついている頃合
だった。
「全くだ」
 ウンソプが、目を閉じたままポツリとつぶやく。
 客が部屋に入るとすぐに酒が運ばれてきて、それで喉を潤しながら肴をつつ
いているうちに、お待ちかねの蝶たちがヒラヒラと登場する。それがトルベの知
る妓楼というものだが、今自分たちが座っている前には膳の影も形もない。見
目麗しい蝶たちも一向に来る気配がなかった。
「妓楼であって、妓楼ではない」
 テジャンが言った禅問答にも似た言葉を思い出して、トルベは納得していた。

 テジャンが師叔と呼ぶスリバンの親爺と会った直ぐ後のことだった。
「お前たち」
「はっ」
「スリバンからの報せだ。「医仙の無事を確かめた」と」
「おおっ」
 トルベたちは、安堵で顔がほころぶ。
 医仙は、店に晴れ着を取りにいったまま戻らず、その後「妓楼にいるから遊
びに来てくれ」とテジャンに文を寄こしたそうだ。医仙は、徳城府院君に狙われ
ている御身。それ故、さては奴がまた奸計を弄してテジャンと医仙を苦しめよう
としているのではないかと気が気でなかった。
『テジャンもさぞご安心だろう』
 そう思ったトルベが顔色を窺うが、テジャンの顔色はさほど変わっていなかった。
『ご自身で確かめぬ限りは落ち着かぬか』
 トルベが「うんうん。そのお気持ち、わかります。わかりますよ。テジャン」と
一人頷いていると、テジャンと視線が合う。拳が来るかと思わず身をすくめたトル
ベだったが、拳は飛んで来ない。
「報せがもう一つある」
「はい」
 チョモやトクマンたちは、キリッと顔を引き締めて姿勢を正す。トルベもすくめ
た身を慌てて伸ばした。
「目当てはお前たちだ」
「・・・!」
 ヨンは、自分を取り囲んでいるトルベたちの動きを、さっと目を走らせて確か
めるが、身に覚えのある者や後ろめたさに目を逸らすような者はいなかった。
「妓楼の主は、まず医仙が自分の店に来るように仕向け、その上で医仙にお
前たちを呼び出してくれと請うた。これが、お前たちが医仙に呼ばれた理由だ」
「テジャン、そいつは一体なぜ我らを?」
 一転して険しい顔つきになったトルベが問う。
「オレもお前たちに問おう。この顔ぶれに心当たりはあるか?」
 五人がお互いに顔を見合わせる。
 家門、歳、階級、属している組、得物、どれとして五人とも同じものはない。非
番の日に余暇を過ごす面子でも勿論なかった。見た目で考えれば、皆同じ背
格好と言いたいところだが、トルベだけが他の四人よりも背が低かったのでそ
れも当てはまらない。
「わかった」
 直ぐに思い当たらない。つまり、それが答えなのだ。
『なぜ?』
 狙いが見えない相手への不安がトルベたちの胸にたちまち広がり、重い空気
に包まれる。
「用向きはオレにもわからない。だが、ユ・ウンスはお前たちと同じウダルチだ。
お前たちに害が及ぶ話であれば、端から手を貸したりなどしない。それだけは
確かだ」
 組んでいた腕を解き、チェ・ヨンがフッと笑みを漏らす。
『そうだろう?』
 期せずして漏れた、そんなテジャンの同意を求める表情に、トルベたちはよう
やく覇気を取り戻す。
「はい!」
「それと、今から行く妓楼は、妓楼であって妓楼ではないゆえ、慎むように」
「・・・はい」
 皆が頷いたのを見届けたヨンは振り返って歩き出す。その後ろ姿について歩
きながらトルベは隣を歩くウンソプに小声で囁く。
「なあ、さっきテジャンはオレを見て言ったのか?」

<つづく>
一日遅れのアップとなりました。
申し訳ありません。
あと前半の内容も少しアレンジしています。
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