【シンイで年越し企画2015】紅楼夢 15

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「きれいだ」
『ない』
「可愛い」
『ない』
「美しい」
『・・・ない』
「色っぽい」
『・・・この時代には、そんな形容詞は、まだ存在しないとか?』
 眉根を寄せて、記憶の引き出しをひっくり返す。探しているのは、ヨンに褒め
てもらった記憶だが、それがどこにも見当たらないのだ。
 正確には、先ほど挙げた形容詞を使って褒めてもらった記憶なのだが、どこ
を探してもそれが見当たらない。代わりにあったのは、
「よく食べますね」
「どこに入るのか・・・」
 という、微妙な感想だけが、記憶の引き出しからにいくつか転がり出てきただけ。
『わかってる』
『あの人は、言葉じゃなくて、行動や態度で語る人だってことはわかっているけど・・・』
 今日は、どうしても褒めてもらいたかった。オンニたちが、総掛かりで妓生に
してくれたことを思うと、賛辞の言葉は是非とも欲しい。
 ヨンの口から甘いセリフを吐かせる。(一言褒めてもらうだけだけど)。それは
かなりハイレベルなミッションだ。喩えるなら、虎に「ニャー」と鳴かせるようなも
の。けれども、不可能なわけではない。
『だって・・・虎はネコ科なのよ』
 あの無骨な虎にも、「ニャー」と可愛い鳴き声を出すツボがあるはず。まずは、
この格好でいきなり目の前に登場して意表を突き、きっと多分見惚れてくれる
はずだから、その雰囲気に乗って彼の口から甘い言葉を引き出すのだ。
「彼をうまくリードする方法も考えなくちゃ!」

 ウンスの計画がほぼ固まったころ、マンボが妓楼を訪ねて来た。様子を見に
来たというマンボに、ウンスはこれまでの経緯を簡単に説明する。
「なるほどね。ところでよ、えらくめかしこんで、どうしたんでぇ?」
 いつもの簡素な装いとは正反対の、華やかな妓生の格好(上着は着用中)に、
マンボが目を丸くする。ヨンを驚かせるつもり(甘い言葉をおねだりするのはナ
イショ)だとウンスが話すと、
「へぇええ・・・ヨンの慌てる顔が目に浮かぶぜ」
 合点がいったマンボが豪快にガハハと笑う。
「あんたが無事だってことだけは、先にヨンに伝えておいてやるよ。それじゃあ、
頑張れよ。天女さん」

「少しだけ二人きりにさせて下さい」
 ウンスからそう言われていたこともあって、ウンスが口上を終えたのを合図に、
介添えのオンニと共に部屋を下がる。卓の上には酒器が、椅子の背にはチョ
ゴリが掛けてあった。
 あとに残されたのはヨンとウンス、二人だけ。
 部屋の外に出たメヒャンが、後ろに向かって声をかける。
「少し離れて待機しましょう」
 その声に、三人は室内の話し声が届かない位置まで下がる。メヒャンも同じ
ように下がると、ウンスからお呼びがかかるのをじっと待つ。待ちながら、去来
する様々な想いがあふれて、つとメヒャンの口を開かせる。
「ヨン、ごめんなさい」
 漏れ出した懺悔のつぶやきは、誰の耳にも拾われることなく、ほの暗い内廊
下の冷気に吸い込まれて溶ける。

 こうして、「ヨンから甘い一言を!」作戦は決行された。が、ウンスの作戦は初
っ端からつまづきを見せる。

 ヨンが、妓生姿のウンスにあまり動揺した様子を見せないのだ。いつもなら慌
てて顔を背けるはずなのに、今日は真っ直ぐ視線を向けたままなのだ。予測が
外れたウンスは、自分のほうが慌て出す。
『あれ?おかしい・・・腕どころか、肩や背中まで出してるのに・・・』
 盛夏の頃、暑さに参って腕や脚を露出させようものなら、半刻(一時間ほど)
もしないうちにヨンが典醫寺へ飛んできて、
「みだりに肌を露わにしてはならぬと言ったはず」
 と決まって叱られたものだ。ヨンは、その際になるべく自分から目を逸らして
いたので、露出に免疫がない彼が今の自分を目にしたら、きっと狼狽えるに違
いないと踏んでこの作戦を思いついたのだった。
「驚いてないの?」
「・・・何を?」
 視線を外さないままで、ヨンが言葉少なに尋ね返す。
「私、けっこう肌を出してるんだけど・・・」
「・・・確かに」
 実のところ、ヨンには全く余裕がなく、それだけを答えるのが精一杯だった。

 隠すには理由がある。
 ヨンは、ある程度心を構えていた。それでも、目に飛び込んできた妓生姿の
ウンスを一目見た瞬間、否応なくあっという間に目を奪われた。細く白い首筋
から続く肩の稜線、柔らかな心地を漂わせる二の腕。
 カリゲに覆われた豊かな乳房が、灯りの下で丸みを帯びた曲線を作り出して
いる。今、僅かでも動こうものなら、その膨らみを掴んでしまいそうだ。
 ヨンは完全に・・・ぶっ飛んでいた。

 ウンスは、ようやくヨンの異変に気づく。こちらを向いているけれど、焦点はど
こかぼんやりしている。
『ああ、この人。私に・・・見惚れているんだわ』
 願ったり叶ったりの結果なのに、当のウンスはといえば、自分を見つめるヨン
の熱い視線に魅入られて、同じように身動きがとれず、彼をリードするどころで
はなかった。
 ヨンの喉仏がゆっくりと嚥下するのを食い入るように見つめていると、呼吸を
するのも忘れて息を詰める。やがて、自分の喉も張り付いたようにカラカラだと
いうことに気づく。
 ウンスは唾を飲みこむと、自分を奮い立たせる。
「あの・・・教えて・・・」
「・・・何を?」
 ウンスの問いかけに、夢うつつから半ば抜け出したヨンが尋ね返す。
「どうかしら?えっと・・・この姿」
「・・・」
 質問の意図に、ようやくヨンの焦点が定まる。そして、返答に窮する。自分の
思いを言葉で表すには、適当なものがない。そんな気がしていた。ヨンが固ま
っていると、ウンスが口を開く。
「じゃあ、この中から選んで」
 そう言うと、少しおどけた様子で片手を挙げる。
「えっとね。一、きれいだ。二、かわいい。三、美しい。四、色っぽい。さあ、ナウ
リの感想を教えて」
 指を折りながら、四つの選択肢を出してみる。多少強引だとは思うけれど、そ
うでもしない限り、ヨンの口から甘い言葉は聞けないのではないか。ウンスは
漠然とそう思っていた。
 ヨンはしばらく沈黙したあと、おもむろに口を開く。
「五で」
「五番・・・色っぽいってこと?」
 問いを出しておいて忘れているウンスに、「違う」とは言わず、代わりにヨンは
何かつぶやく。
「・・・」
「え?何て?もう一度言って」
 問いの内容を思い出そうと集中していたウンスはそれを聞き逃した。
「もう言いません。さあ、戻りましょう」
 答えたのだから、この話はこれで終わり。我を取り戻したヨンは、椅子にかけ
てあったチョゴリを掴むとウンスに向かって突き出す。無理やり着せるという選
択肢はない。今、ウンスに触れたらどうなるかわからない。うっかり肌が触れた
ら・・・邪念を振り払うように、上着を掴んだ手に力を込める。
「ま、待って」
 ウンスは、慌てて両手でガードする。すると、ヨンの視線がふと腕へと動く。視
線の先にあるものに気づいて、
「ああ、これ?包帯じゃ興ざめするから布を巻いたのよ。アクセントにもなるでし
ょ?」
 左腕をヒラヒラさせながら、何でもないようにウンスが説明する。
「大事ないですか?」
「ええ、大丈夫よ」
 熱が出なければ大丈夫。そのことを表情で教える。
「他に痛いところは?」
「ないわ・・・えっと・・・迎えに来てくれてありがとう」
 ウンスの姿態に目を奪われて、確かめるのが遅くなった。ヨンをびっくりさせ
るのが先で、来てくれて嬉しかったと伝えるのが遅くなった。お互いに、まず一
番に口にしようと思っていた言葉をようやく思い出して口にする。
 二人の間に和やかな雰囲気が流れる。見つめ合って微笑み合うと、ウンスが
おもむろに人差し指を立てる。
「ね、ナウリ。さっきの、もう一回だけ言って」
 ウンスは、諦めてなかった。ヨンはその様子をじっと見つめていたが、ふと何
かを思い出したように瞳を動かす。
「もう一度」
「え?」
 ヨンがウンスに顔を近づける。
「先ほどのを、もう一度」
「・・・もう一回(ハンボンマン한번만)?」
 ヨンが軽く首を振る。違ったらしい。
「ナウリ?」
 合っていたようだ。その証拠に、ヨンの顔が一段と近づく。
「もう一度」
「ナーリ」
 リクエストにお応えして、愛嬌たっぷりに呼ぶ。ヨンの息が頬に当たるところま
で来て・・・ウンスは、はたとする。
『こんなこと、前にもあった』
 ウンスは思わず戸口に顔を向ける。前は副長のチュンソクさんがいきなり入
ってきたけれど・・・何の気配もないことにほっとする。気づけば、ヨンも戸口に
顔を向けていて、ウンスの視線に気づいたヨンがフッと笑う。
 同じことを考えていた。それが嬉しくてウンスもフフと笑いを零す。ヨンがその
笑みに誘われるように、再び口唇を近づける。あと少しで唇が触れるというとこ
ろで、ヨンが不意に止まる。目を閉じていたウンスが「あれっ?」と怪訝な顔で
片目を開けると、
「愛(いと)おしい。それが答えです」
 ヨンは言い終わると同時にウンスに口づけた。

<つづく>

ドラマが好きで、ドラマで出ていたエピを再現したい気持ちが出ました。
「こんなのニャーと鳴いたうちには入らない」
と、仰る方もいらっしゃるでしょうが・・・これが私の限界でした(笑)

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