【シンイで年越し企画2015】紅楼夢 8

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 ヨンスはキム家の一人息子だった。

 家は代々武官の家柄で、ヨンスの父は禁軍の中郎将だった。ヨンスが、禁
軍とは犬猿の仲であるウダルチに入ると口にしたとき、父は反対しなかった。
「お前のやりたいようにしなさい。禁軍とウダルチ。互いに切磋琢磨する相
手がいなければ成長はない。それに、危急の際には手を組み、敵を跳ね退け
る必要がある。双方の橋渡しとして、父子がそれぞれの組織に属するのも悪
くない。互いの組織を外から見て、お前は私に、私はお前に、客観的な意見
が述べられるだろう」
 そう言ってあっさり許した父に反して、母は異を唱えた。
「なぜ、禁軍ではなく、ウダルチなのです?!」
 おっとりした貴族の品の良さが漂う父(馬に乗ると人が変わるらしい)を、
恰幅のよい母がぐいと押し退けて、息子に詰め寄る。
「チェ・ヨン様がいらっしゃいます」
 ヨンスが即答する。
「あのチョグォルテ(赤月隊)だったとか噂のある?」
「はい」
「他には?」
「ありません」
 ヨンスの母は、息子を惑わすチェ・ヨンとやらを思い浮かべて舌打ちする。
『なんと余計なことを・・・』
 禁軍であれば、王宮の警護や、ケギョンを防衛する役割を担うが、ウダル
チは常に王の傍近くで仕えることになるのだ。王との距離があまりにも近い。
近すぎて恐ろしいのだ。
 折しも御世は先代が亡くなり、幼い王が擁立されたばかり。先代の王(忠
恵王のこと)は大変な暴君で、王宮に仕える者たちが、身を縮めて息を殺し
ながら仕えていたことを、夫や知人から伝え聞いて、嫌というほど知っていた。
 幼い王はその暴君の嫡子だ。長じて政事を行うようになれば、元国との板
挟みに嫌気がさして、父と同じく遊興に逃避して民を苦しめる道を歩むかも
しれない。先代の王は、獣を狩るのに飽きて人を狩った。そんな、人の形
(なり)をした獣に成らぬと誰が言いきれる?
 今は今で、王が幼いが故に母が後ろ盾となって政を行っているが、それも
また争いの火種の一つだった。庶子(のちの慶昌君)を推して利を得ようと
する者たちが、不穏な動きを見せているとも聞いた。
 王宮は、奥に行けば行くほど魑魅魍魎が住まう場所なのだ。そんな棲み処
にたった一人の大事な息子を誰がやりたいものか。
「なりません」
 それだけ言うと、ヨンスの母は椅子を蹴立てて席を立つと、荒々しく扉を
開けて部屋を出ていった。
 その後、父が説得を試みたものの、母は頑として反対の姿勢を取り続けた。
ホンイの母が訪ねて来たのはその翌日だった。

 ホンイの母の訪問から数日後。ヨンスは、突如両親に呼ばれる。部屋に入
り、卓を挟んで向かい合わせに座る。
『考え直せと泣きつかれるだろうか。或いは、説き伏せられるか』
 厳しい目をした母を見つめながら、ヨンスはそんな風に考えていた。父の
賛同は既に得ている。反対を押し切って入隊するという手もあるが、それは
端(はな)から考えていなかった。強引な手段は禍根を残すことになる。
『とにかく、自分の気持ちを理解して頂くほかない』
 どう切り出せばよいのか、迷っていると母が先に話の口火を切る。
「お前がウダルチに入ることを許します」
 母が発した言葉を理解するのにしばらくかかった。間を置いてヨンスが、
「ありがとうございます」
 と礼を述べる。安堵したヨンスが口元をほころばせる。息子の喜ぶ顔を見
ても、母は表情を崩さない。
「但し、一つ条件があります」
 ヨンスが途端に身構える。
「条件・・・ですか?」
「私の知り合いの娘と九年間婚約すること。それが条件です」
「!?」
 驚いて父を見る。ヨンスの視線を受け止めた父はゆっくりと目を瞑る。そ
の態度から察するに、母に圧されて承諾したのだろう。いつもの如く。
「相手は、私のカヤグムの師妹の娘で、コ・ホンイという八歳の娘です。彼
女が十七になるまで九年の間婚約すること。これが条件です」
「・・・八歳」
 まだ子供ではないか。息子の顔にそう書いてあるのを承知しながらも、母
が話を続ける。
「お前がウダルチに入りたい理由はわかっています」
 ウダルチのテジャンであるチェ・ヨンという男、ヨンスより五つほどしか
違わぬのに、その実力は並外れたものらしい。加えて、かなりの変わり者だ
という。
 前任の隊長が失職した後、テジャンに任ぜられたチェ・ヨンだが、その直
後ウダルチの職を辞する者が後を絶たなかった。テジャンが指示した鍛錬の
内容が苛烈すぎて、辞める者は半数を超えたという。そのせいで、今では百
人いるかいないかの規模まで落ちたようだ。
 それでも、チェ・ヨンという男はやり方を変えるつもりは毛頭ない。隊員
を募る際にも、家柄は問わず、重臣からの推薦状はことごとく破り捨てると
も聞いた。
「実力のみを問う」
 チェ・ヨンの徹底した方針に、ヨンスは惹かれたのだ。禁軍に入れば、嫌
でも父親の影響を受ける。家門を後ろ盾に持たず、自分の力を試したいのだ
ろうと考えた。
「キム・ヨンス。お前の、身一つでやってみなさい。婚約は、九年後に破棄
することになっている。けれど、お前がウダルチから尻尾を巻いて戻って来
たら、その時はホンイと婚姻してもらいます」
「絶対に戻らないと誓います。ですから、そんな馬鹿げた仮初めの婚約など
要りません」
 心に定めた女がいるわけではない。だからといって、勝手に見も知らぬ子
供と婚約させられるのは、納得がいかない。自分が強く拒めば、母はそれ以
上薦めて来なかった。それが今までの定石だった。けれど、今回は違った。
「お前が婚約しなければ、その娘は補償金目当ての父親に、貢女として元国
に差し出されることになります」
「・・・」
「婚約が仮初めだということは、師妹も承知の上です。九年後には、ホンイ
は十七になります。貢女の条件は十六までですから、彼女が十七になったら
破談にすると約束してくれました。それまでの間、お前にホンイを守って欲
しいのです」
「そうまでして、その子を守りたい理由を教えて下さい」
 婚約を結んで破棄する。それは、口で言うほど容易いものではない。母が
人助けの為だけに、そこまでする理由が知りたかった。
「ホンイに、お前を守ってもらいます」
「・・・私を・・・ですか?」
 思ってもみない答えに、ヨンスは戸惑う。
「お前はこれからウダルチに入り、いずれチョナをお守りするために、その
身を危うくしてまでお役目を果たさねばならぬ時が来ます。
その時・・・お前は必ず・・・必ず生きて帰るのです。お前が戻らねば、婚
約はなくなってしまい、ホンイは貢女になります。お前は、あの子の運命を
その胸に抱いて生きていることを、努々(ゆめゆめ)忘れてはなりません」

<つづく>

お、終わらない(汗)
今回はヨンが名前だけ登場の回でした(笑)
これ・・・信義のお話だよね?
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