【シンイで年越し企画2015】紅楼夢 5

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「手を貸して頂きたいのです」
 メヒャンにそう言われたウンスは、「ハーッ」と大仰にため息をつく。それ
見たことか。イムジャ一人で出かけさせたら、早速面倒に巻き込まれたではな
いか。ヨンの叱責が今にも聞こえてきそうだ。
「面倒があっちから歩いてきたんだから、私のせいじゃないわよ」
 ウンスは、ぶつぶつと独り言を言うと、椅子に浅く腰掛け直して椅子の背に
もたれかかり、腕を組む。卓の下で足を組んで、短刀にすぐ手が伸びるように
しておくのも忘れない。
「イヤだと言ったら?」
 怯えを隠しつつ、虚勢を張るウンスを見ていたメヒャンがスッと立ち上がる。
そうして、クルリと振り返ると部屋の隅にある棚から何かを取り出す。ウンス
は、目でその動きを追いかけながら身構える。こちらに向き直ったメヒャンは、
風呂敷包みを持って卓のほうに戻ってきた。
「先ずは、こちらをお返し致します」
 メヒャンがウンスの傍に立ったまま包みを解くと、緋色の生地が目に飛び込
んできた。
「これ・・・」
 それは、自分が注文していた晴れ着だった。ウンスが見上げると、すまなそ
うな顔をしたメヒャンと目が合う。
「こちらに来るよう仕向けましたこと、深くお詫び致します。それと、医仙と
称される方が、どのような御方なのか。それを知りたくて、先ほどわざと無礼
を働きました。重ねがさね申し訳ございません」
 そう言って頭を下げた。人質だった晴れ着は手元に戻り、詫びの言葉も聞いた。
「これまでのことはチャラにして、話を聞いて欲しいってわけね」
 察しのいいウンスの言葉に、メヒャンはふふっと笑う。
「見目麗しいだけでなく、お心の強い、頼もしいお方ですこと」
『歯の浮くようなお世辞言っちゃって』
 喜んだりしないわよと口元を引き締めるウンスとは逆に、メヒャンは幸せそ
うな心地に包まれているかのように、自然な笑みを口元に浮かべる。
『あらっ?この人、本気で思ってるのかな?』
 メヒャンの態度にウンスが揺れていると、
「ウンス様、どうか私の話を聞いては頂けませんか?」
 と、メヒャンが本題を持ち出す。
「聞いたあと、手を貸せないと言ったら?」
「お引き留めは致しません。そのままお帰りになって下さって結構です。ただ、
私が話した事柄については、口外なさらないとお約束して下さいませ」
 ウンスはしばし考える。
 話を聞かないで、このまま席を立つという手段もある。ヨンがいたら、間違
いなくそうしていたはずだ。ウンスが面倒なことに巻き込まれないためには、
それが最善の手段と考えるからだ。けれど、今ヨンはウンスの傍にいない。
『あの人は傍にいない。危険な匂いは・・・なさそう』
 ウンスの中で、好奇心がムクムクと芽生えてくる。
『妓楼の女主が私に何の用があるのだろう?』
「イムジャ、自分から面倒に首を突っ込んでいるではないか」
 隣にヨンがいれば、そう言って止め立てしただろう。けれど、あいにくと今
はウンスを止める者などいない。
「じゃあ、聞くだけ聞くわ。私に何をして欲しいの?」
 いつの間にか、卓に肘をついて前のめりで話を聞いているという自覚が、ウ
ンスにはない。
「はい。ウダルチ丙組のキム・ヨンス様を、今夜ソガン亭に呼び出して頂きた
いのです」
「キム・ヨンス、キム・ヨンス・・・」
 ウンスは、ウダルチ全員の組や顔、名前を、まだ覚えきれていない。組のシ
フトによっては、顔を合わせる機会が少ない者もいる。キム・ヨンスという名
前から、ウンスの脳裏にようやく一人のウダルチが思い浮かんでくる。
 もっとも、記憶にあるのは、背が高くて、物静かだという印象ぐらいで、あ
とは、よく兵舎の片隅で本を読んでいたことぐらいだ。若い子たちが兵法の内
容について彼に尋ねていたぐらいだから、きっと頭がいいのだろう。
「彼に何の用?」
 途端に用心深くなって低い声が出る。あの人が大切にしている子たちだ。
呼び出して何をするつもりなのか。
「話したいことがございます」
「話?」
『男女関係のもつれ?それとも金銭トラブル?』
 心配な表情を浮かべるウンスに、メヒャンが慌てて言う。
「ウンス様、用があるのは私ではございません」
「じゃあ・・・」
 ウンスが問い返すと、メヒャンが頷く。そして、内廊下の戸口に向かって
「お入りなさい」と声をかける。すると、扉の向こうから「はい」と返事がか
えってきた。
 扉が開いて一人の少女が部屋に入って来る。長い黒髪を後ろで一つに束ね、
生成り色のチマチョゴリを着ていた。
「ホンイ(紅伊홍이)と申します。私の知人の娘で、歳は十五になります」
 顔を上げたホンイは、緊張しているらしく、顔が強張っていた。そうして可
愛らしい大きな目でウンスをじっと見つめた。
「医仙様、どうかお願いです。兄様(あにさま)に会わせて下さいませ」

<つづく>
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