ムカデにまつわるエトセトラ 08

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 ウンスは先ほどから隣に座るチャン・ビンとテーブルの向こうに座るヨンを
交互に見つめて様子を窺っていた。訪ねてきたチャン・ビンが席についた途端、
ヨンが睨みつけるような強い眼差しをチャン・ビンに向けてきたので戸惑って
いた。
 チャン・ビンは、チェ・ヨンに詫びるつもりで訪ねて来たものの、話を切り
出す前からヨンが怒気を放っているので戸惑っていた。もしや、医仙が既に仔
細をテジャンに説明したのかと思い、隣に座るウンスに視線を投げかける。
 視線を向けられたウンスは、ブンブンと頭を振って「私は何も言ってないわ」
とジェスチャーで答える。結果、二人で目を合わせて『?』と、首を傾げた途
端、大きな咳払いが聞こえて、ウンスが前を向く。
『何なのよ、もう』
 話す前から不機嫌そうなヨンに、ウンスも段々腹が立ってくる。
「ねえ、何を怒ってるの?」
「怒ってなどおりません」
「顔が怒ってるじゃない」
「もとからこのような顔です」
「嘘よ。「目は口ほどにものを言う」っていうでしょ?目が怒ってるじゃない」
「怒ってなどいないと申したはずです」
「だって、さっきから・・・」
 取りつく島のないヨンに、ウンスがなおも言及しようとしたそのとき、
「テジャン」
 と、チャン・ビンが声をかける。二人がこちらに視線を向けたところで、す
ぐさま話を切り出すことにする。あのまま話が続いていたら、痴話げんかに発
展する。そう察したチャン・ビンが、水を差す形で二人を止めたのだった。
 チャン・ビンによばれて、ヨンが不承不承視線を向ける。そもそも、部屋に
来たチャン・ビンを、自分の隣に座らせたヨインが悪い。ヨインは、チャン・
ビンに歓待の笑顔を向けると、片隅にあった予備の椅子をいそいそと持ってき
て自分の隣に置いたのだ。チャン・ビンもチャン・ビンで、何のためらいもな
く座った。それがまた癪に障った。
 チャン・ビンは、憮然とした表情で自分を見るヨンに戸惑いはしたものの、
ひるむことはない。ただ、自分の話を聞いたあと、ヨンが怒りを向けてくるな
らば、それは引き受けるつもりでこの場に臨んでいた。
 注意を引いたチャン・ビンは、おもむろに席を立つと、火鉢の横の台に置い
ていた木の盆を持ってくる。その盆は、チャン・ビンが部屋を訪ねたときに持
っていたもので、盆の上には拳ほどの蓋つきの器と、それよりは少しだけ背が
高い小さな壺が載せられていた。
 その二つの器を卓の上に置いた途端、ヨインが椅子を少し後ろにずらす様を
横目で見てから、ヨンがチャン・ビンに目で尋ねる。チャン・ビンは、浅いほ
うの蓋を開ける。
「ムカデを干したもの、これを漢方では蜈蚣(ごしょう)と呼びます。粉末に
して驚風症(ひきつけ)、淋巴腺炎(皮膚病性リンパ節炎)、腫れ物の治療などに
用います」
 ヨンは器を手にとって中を見る。なるほど、干からびたムカデがいくつか入
っていた。
「ですが、ムカデの持つ効能を引き出す方法が、もう一つございます」
 ヨンは器から顔を上げる。方法については心当たりがあった。けれど、場所
が王宮内のため、その可能性はないと自分の中で否定したのだった。
「まさか」
「ええ、その通りです」
「では、そのムカデが」
「はい。医仙を咬んだのです」
「しかし、それはあり得ないのでは?」
「それが・・・」
 そこで初めてチャン・ビンが言いよどむ。傍で聞いているウンスは途中まで
は話の内容が理解できたけれど、何があり得ないのかよくわからない。それで
チャン・ビンが再び口を開こうとした瞬間、
「ま、待って!」
 と、手を挙げる。二人はウンスに注目する。
「あの、最初から順番に話してくれない?あのムカデって典醫寺で飼ってたの
よね?でも、どうしてあり得ないの?」
 典醫寺で飼われていたムカデが、逃げ出してウンスを咬んだのだ。典醫寺で
起きたことの責任は全て自分にある。不手際でケガをさせてしまったことをテ
ジャンに詫びたいというのが、チャン・ビンの来訪の理由だった。
 手当してもらったし、大したことなかったから大丈夫、説明なんて必要ない
と、何度も断ったウンスに対して、チャン・ビンは一歩も譲らなかった。結局
ウンスが折れたのだが・・・
 ムカデを飼っていた理由は教えてもらったけれど、「あり得ない」とはどうい
うことなのか。順を追って説明してもらいたかった。ウンスのその問いかけに、
ヨンが先に口を開く。
「王宮内では、毒を持つものの、生きたままの保有を禁じられております」

 王宮内で、毒が保管されている場所は一箇所のみ。その場所の錠は、王と王
妃が管理している。典醫寺で用いる漢方の薬材の中で毒性があるものは、同じ
くこの場所で保管されている。中にある薬材を使う際には、王と王妃、お二人
の許可が必要となる。
 陰謀と策略が蠢いているのが王宮なのだ。毒はその場所以外に存在してはな
らない。でなければ、王も王妃も安心して食事に手をつけられず、下手に周り
にある調度品や、身の回りのものに手を触れることが出来ない。
 そのため、典醫寺では生きたままのムカデや毒蛇を調達することはない。
万が一毒蛇が逃げたとき、王宮内が上を下への大混乱となることは必至のうえ、
その毒で死人が出るようなことがあれば、典醫寺そのものが取り潰されることに
なりかねない。それは、毒を持つキノコや魚、虫、ありとあらゆるものに対して
も同じことだった。
 ヨンは、ウダルチとして王や王族を守る立場から、このことを知っていた。
「典醫寺では、ムカデもまた同じく毒があるものとして、久しく生きたまま扱
うことはありませんでした。ですが、ある事情から、生きたムカデが手元に
ありましたので、それで薬を作ろうと考えました」
 ヨンはようやくことの次第が見えてきて、顔を上げてチャン・ビンを見る。
ウンスはまださっぱり見えていなくて、耳に入る通りの内容を頭の中で整理し
ているところだった。
「では、あのムカデを?」
「・・・ええ」
 チャン・ビンには珍しく歯切れの悪い返事だった。
「あのムカデって、どのムカデ?」
 その問いかけに、二人が一斉にウンスの方を向く。
『そういえば、この方はご存じなかったか』
 チャン・ビンもそこまで考えが至らなかった。どこまで話していいものか、
考えてヨンを見つめる。ヨンはチャン・ビンの視線を受け止めると、やがて
静かに語り始める。
「チョナ、ワンビママ、そしてイムジャがケギョンに到着される前日、ソネ
ジョン(宣恵亭)で火事がありました」
 ヨンの静かな口調と固い表情に、ウンスはゴクリと唾を飲む。
 
<つづく>

甘い要素がほとんどないままに話は進んで行きます(苦笑)
ここ修正しました。
「典醫寺では、ムカデもまた同じく毒があるものとして、久しく生きたまま扱
うことはありませんでした。ですが、ある事情から、生きたムカデが手元に
ありましたので、それで薬を作ろうとチョナにお許しを頂いたのです

あと文末も直しています。
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コメント
この記事へのコメント
おはようございます。

先ほどご指定のアドレスにパスワード発行前の
メールを送信させて頂きました。

ご確認をお願い致します。
2015/12/01(火) 04:07 | URL | ayappeさん #-[ 編集]
このコメントは管理人のみ閲覧できます
2015/11/30(月) 12:49 | | #[ 編集]
おはようございます♪

少し書き直しておきまーす。
ありがとう(*^_^*)

2015/11/25(水) 03:32 | URL | おりーぶ #-[ 編集]
このコメントは管理人のみ閲覧できます
2015/11/24(火) 11:43 | | #[ 編集]
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