ムカデにまつわるエトセトラ 06

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-ウンスの回想。

 昼過ぎ。ウンスは薬材の作業場にいた。暑い日々を乗り切るための策として、
ペパーミント(薄荷)を使ってなにか工夫できないかと思いついたのだ。カン
ファドで見かけたから、もしかしてここ典醫寺にも植えてあるのではないかと
薬草園を見回してみたが、それらしき葉っぱは見当たらなかった。ちょうど今
がシーズンなので、ないのかもしれない。それでも諦めきれずにトギに、あれ
これと薄荷の特徴を説明して、どこかで見たことがないかと聞いてみた。
 すると、トギは「ある」と手振りで答えた。薄荷はお腹をこわしたときや、
風邪の初期に用いる薬として利用しているとのことだった。漢方用の薬草とし
ては、随分と育てやすいが、雑草よりも繁殖力が強いので典醫寺の薬草園では
育てずに、別に場所を設けて植えているらしい。
 そこでウンスは、朝からさっそくその場所に行って、ペパーミントの葉をせ
っせと摘んだ。ムガクシのヨンシとウォルが作業を手伝ってくれたので、陽が
高くなるまえに、大きなざる一杯に収穫できた。
 作業の途中、何度となくウンスが葉っぱを手でちぎっては香りを楽しむので、
ヨンシとウォルも、ウンスの真似をして葉っぱに鼻を近づける。スーッとする
香りに小首を傾げるウォルと、鼻を抜ける感覚に驚いて顔を背けたヨンシにウ
ンスが微笑む。
「前に教えた歯磨きがあったでしょ?あの歯磨きのときにこの葉っぱを使うと、
口の中がさっぱりするし、抗菌作用もあるのよ。虫歯予防にもいいかな?あな
たたちは歯を丈夫に保つことが大事だから」
 歯は大きな力を出すときに重要な役割を果たす。虫歯があると、力を出そう
と食いしばった際に力が充分に出せず、運動能力が落ちるのだ。組長やプジャ
ンからも、歯の手入れを怠らぬようにと日頃から言われているムガクシとウダ
ルチだが、手入れのやり方は人によってさまざまだった。そんな自分たちに、
丈夫な歯を保つ術を、医仙が指南して下さったのだった。
 ウンスは典醫寺に戻ると、薬材を調合する作業場の卓の上にざるを置いた。
天日干しにしてドライハーブにトライするもの、フレッシュなまま使うものと、
小ぶりなざるに適当に分けた。
「まずは、フレッシュな葉でハーブティを作って、お風呂にも入れて。アロマ
オイルは精油だから・・・蒸留ってここでもできる?・・・」
 顎に手をやって、ウンスが考えごとにふける。

 その卓の下で蠢く黒い物体。それは先ほどからずいぶんと慌てていた。己の
嫌う臭いが、先ほどから強烈にするのだ。居心地のいい場所を先ほどから探し
て這い回ったが、格好の場所は見つからず、おまけにおぞましい臭いがひしひ
しと押し寄せてくる。
 たまらずに幾分か明るいほうへと方向を変える。そうして土の匂いを嗅ぎつ
けた。今度は、湿った土の匂いがする方へと、感覚をたよりに這っていく。お
かしなことにその匂いを辿っていくうちに、おぞましい臭いも強くなる。
 上体を持ち上げて、やはり方向を変えようと思ったそのとき、脚が湿った土
を感じた。しめた。この土を辿れば、あとは暗く湿った場所に行ける。黒い物
体は、触覚を振るわせて喜ぶと、傾斜を登り始めた。

 腕を組んで考えごとをしていたウンスだったが、先ほどからこそばゆい感覚
が強くなって、ふと顔を上げる。
『服の裾でもほつれたかしら?』
 ほどけた糸が足の甲に触れている。ウンスはそう思い込んで、足元に目をや
った。先ほどから自分の甲を、さわさわとくすぐるもの、それは糸ではなく、
黒い大きなムカデだった。
『!!』
 むやみに動かず、じっとしたまま通り過ぎるのを待つ、そんな知識はもちろ
ん頭に入っている。でも実際に体験すると、そんな知識など彼方へとぶっ飛ぶ。
反射的に足を引っ込め、その拍子にムカデがウンスの甲を咬む。
「痛っ!」
 直後に、太い注射針でブスリと刺されたような痛みが走り、ウンスが声をあ
げる。立ち働く医員たちの邪魔にならぬよう、少し離れたところに控えていた
ムガクシたちが飛んで来る。
「そこに、ムカデが・・・」
 痛くてたまらないが、ムカデを先に退治しないと、また誰かが咬まれる。ウ
ンスは机に片手をつきながらも、ムカデが逃げた方向を指で示す。ヨンシが素
早く反応し、物陰に隠れようとしたムカデをさっと踏みつける。つぶれて動か
なくなったムカデが、間違いなく死んだことを確かめる。
 ウォルが切迫した声で、騒ぎを聞きつけて集まった医員らに声をかける。
「御医を呼べ」
「は、はいっ!」
 ウォルと目が合った医員は、弾かれたように答えると、集まった輪の中から
慌てて出ていく。

<続く>

話に出てくる作業場はここです。
作業場

肝心なところまで到達せず(汗)
次回までしばしお待ちを~

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