ムカデにまつわるエトセトラ 07

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「失礼」
 その言葉と同時に、ウンスは抱き上げられていた。
「わっ!」
 びっくりして思わず首にしがみつく。以前ヨンにお姫様抱っこされたことを、
不意に思い出す。
『あのときより・・・安定感が悪いかも』
 比べてみて初めてわかったことだった。
「傷口を洗い流して、毒を出します」
 作業場では咬まれた傷口が見えにくい。そういう理由から、典醫寺の井戸端
まで運ばれた。先導していたウォルが水を汲む間、ウンスを井戸の脇に下ろす
と、盥(たらい)をひっくり返して椅子代わりにする。そこにウンスを座らせ
て靴を脱がせた。
 足の甲は、全体的に赤くなっていた。ウォルが汲んだ桶の水をザッと傷口に
かけてくれた。ウンスは、念のため手で毒を絞りだしておこうとしたが、その
甲にいきなり頭が覆い被さってくる。
「わ、わっ!!」
 慌てたウンスが足を引っ込めようとするのを察して、ガッとふくらはぎを掴
んで阻止する。
「じっとして下さい」
 叱り口調で言われて、ウンスは仕方なく動きを止める。

「何て言えばいいのかな・・・天界では、「口で毒を吸い出す」。この民間療法
にはあんまり効果がないとも言われているわ。手や、器具を使って毒を絞り出
すことは、少なくとも効果があると言われているけれど。毒は、咬まれたり刺
されたりした瞬間に、血や組織を通じて身体中に回るから、傷口を吸っても遅
いのよ。逆に、応急処置をしている人が口の中を怪我したり、虫歯を持ってい
たりしたら、身体に毒が回る危険もあるわ」
 効果があると信じている者には、毒を吸い出す行為は気休めになる。でも、
医者の自分には、それが効果のないことだとわかっている。だから、ただ単に
甲にキスをされている状況と捉えて見てしまい、かなり恥ずかしかった。
 ウンスが、ぬるくなったお茶をこくりと飲んで喉を潤す。ヨンはその様子を
黙って見つめていた。気遣う視線を感じたウンスは、重く沈んだ雰囲気を変え
ようと明るい声を出す。
「もう平気よ。言ったでしょ?そういえば、パートナー、あなたはムカデに咬
まれたことがなかったのよね?」

「ええ」
「あなたなら大丈夫よ。麻酔なしで傷口を縫ったのに、声ひとつあげなかった
人だもの。この先、もしもムカデに咬まれても、蚊が刺したぐらいにしか感じ
ないはずよ、保証する。だから、安心して」
 ウンスは真面目な顔つきをして、神妙に頷いて見せる。
『目が笑っているではないか。それに、人を何だと思っている。オレは痛みな
ど感じぬ、人外の鬼だとでも言うのか?』
 ヨンはウンスの軽口に、「面白くない」と表情で答える。自分が思った通りの
顔つきをするヨンが可笑しくて、ウンスは吹き出す。
「笑ってごめん。前にも言ったけど、天界の人たちは痛みに慣れてないし、辛
抱強くもないの。私もそうよ。だから、びっくりしただけよ。すぐ手当しても
らったから痛みも治まってるわ。心配してくれてありがとう」
 わざわざ典醫寺まで様子を見に来てくれたんだもの。ありがたくって浮かれ
ちゃう。ニコニコと笑顔を浮かべるウンスに、ヨンも口の端がほころぶ。二人
の間に、しばらく心地のいい沈黙が訪れる。

「薄荷の葉っぱには、虫が嫌うメントールっていう成分が含まれているのよ。
虫除けにも使えるかもしれないって思ったけど、まさかこんなに効くとは思わ
なかったわ」
 ウンスが、お茶のおかわりを淹れながらそんな話をすると、聞いていたヨン
がおもむろに口を開く。その顔つきは先ほどとは打って変わって厳しいものに
なっている。
「イムジャ」
 落ち着いた声で呼ばれる。場の空気が途端に変わったようで、ウンスは思わ
ず姿勢を正す。
「はい」
「イムジャは、典醫寺の裏庭、棗(なつめ)の木のそばに植えられている薄荷
を摘み、それを作業場に持ってきた際に、ムカデに咬まれたということですか?」
 場所までは話していなかった。それなのに、どうしてこの人は薄荷があった
場所を知っているんだろう。ウンスはビックリして目を丸くする。
「どうして薄荷が生えている場所を知ってるの?」
 そこに薄荷が植えられていることは、ヨンも近頃知ったことだが、その効能
については前から知っていた。トギやチャン・ビンには及ばないが、チェ・ヨ
ンもある程度は薬草についての知識を持ち合わせていた。多くはチョグォルテ
の頃に、ムン・チフや仲間に教わったものだ。薄荷は、蚊除けによく用いてい
たのを覚えている。葉に虫食いがないのがその最たる証しだった。
 ヨンは話を聞くうちに、ウンスがそこに薄荷があることを知らなったという
ことに却って驚かされたのだが、今はその理由を述べずに話を続ける。
「裏庭は、ムカデが好む幾分湿り気のある土壌ですが、薄荷は虫が嫌う葉です
から、ムカデがその葉に付いていた、或いは笊(ざる)に紛れ込んだとは思え
ません。そうなると、典醫寺の作業場に潜んでいたということになります」
 話が見えてきたウンスは、呆気にとられてヨンを見つめる。
「作業場は土間ではなく、こちらの部屋のように板敷きです。そのうえ、床板
には虫が嫌う木酢を、月に一度は塗ると御医から聞いたことがあります。尚言
えば、作業を終える際に一食(三十分)ほどかけて隅々まで掃除を行い、翌朝
作業を始める前にもやはり同じように簡単に掃除を行っております。そんな場
所に、降ってわいたようにムカデが出たことが解せません」
 ウンスの話を聞くうちに、ヨンの中では疑問が膨れ上がっていた。手当てに
ついては、チャン・ビンが医者として接した以上何も言うことはない。ただ、
「気にくわない」、それだけのことだが、自分の中で引っ掛かりを覚えた疑問に
ついては穏やかでいられない。
 何者かが、ヨインに対して意図的に行ったことであれば、典醫寺は安全な場
所とは言えなくなる。そのことを危惧して、何か不審なことがなかったか尋ね
るつもりだったが、その表情から見て、ヨインは何か知っているようだった。
「何者かが狙ったのではないか?」という自分の問いかけに対して、怯えた様
子も、驚いた様子も見せなかったからだ。
「あなた、名探偵ね」
「は?」
「すごいわ。やっぱり名将軍だけあって、鋭いところを突いてくるわねぇ」
 天界語混じりで感嘆するウンスを前にして、ヨンは焦れる。知っていること
があればさっさと教えて欲しいのに、ウンスは「うーん」と言うと、困ったよ
うな顔を浮かべる。
「あー・・・それは、チャン先生から説明してもらおうと思って。あっ!私、
先生がもうすぐここに来るって、さっき話したわよね?・・・言ってなかった?
やだっ、すっかり忘れてたわ。あははは」
 ウンスは喋りながら、言い忘れていたことを思い出す。終いには、ばつが悪
いのを隠すように笑ってごまかしたが、相手のムスッとした顔に、笑い声も消
え入る。
 しばらくは顔を見たくないと思っていたチャン・ビンが、もうすぐここに来
ると聞いて、ヨンは心が騒ぐ。
「ごめん、パートナー。チャン先生が、あなたに話があるんですって。だから
先生が来るまで、もう少し待ってね」
「来ました」
「え?」
 ヨンの耳には部屋に近づいてくる足音が聞こえていた。
「テジャン、いらっしゃいますか?」

<つづく>

えーっと・・・まとまるのかなぁ、これ(汗)
話がなにやら変な方向に行っちゃった感じですが、
「結局のところはそんな大したオチではないんですよ」
と、保険をかけておくワタシです(笑)

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2015/11/14(土) 18:07 | URL | おりーぶ #-[ 編集]
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2015/11/14(土) 08:55 | | #[ 編集]
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