中秋節 月明かりの下で 前篇

ここでは、「中秋節 月明かりの下で 前篇」 に関する記事を紹介しています。
今日は十五夜。
中国は中秋節、韓国は秋夕(チュソク)ですね。

ということで・・・チュソクネタを一つ書いてみました。
後篇は二、三日以内にアップできると思います(多分)

こっちを書いちゃったので毎週月曜更新のムカデにまつわるお話は
ちょっと遅れそうです。(アップは来週の月曜かなぁ・・・)

ヨンとウンスではなく、今回は王と王妃のお話で。
あの時の女性がワンビだったことを知っていたことを告白して、
二人の距離が縮まった頃のお話という設定です。
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 初めて迎えた高麗での中秋節。

 その日、王妃は王とともに朝早くから宮中の祭事に追われた。ようやく一息ついた
ころにはもう陽が落ちて、満月がその姿を東の空に見せていた。事前にチェ尚宮から祭事
についての様々なしきたりを教えてもらってから臨んだ祭事だった。
『元国から来た姫様ゆえ、高麗のしきたりなどご存じないのだ』
 臨席した者たちから、そんな風に思われて軽んじられるのは我慢ならなかった。自分を
ワンビ(王妃)として迎えたチョナのために、失敗は許されなかった。そんな風に気を張
って臨んだ祭事だった。
 それ故、滞りなく祭事を済ませた後は緊張の糸が切れてしまい、祭事の装いのまま椅子
に座りこむと、「ふうう」と長いため息を漏らす。祭事に次ぐ祭事で、朝からチョナとは一
言も言葉を交わさないままだった。それでも宮中を歩いて次の祭事の場所へと移動する際
には、微笑みを下さったり、祭事の手順にまごつく自分を温かい目で見守って下さったり
して気遣ってくださるのを感じるたびに、幸せな心地で過ごせた一日だった。
「ワンビママ、宜しいでしょうか?」
 チェ尚宮の言葉に、ハッと我に返る。
「何用か?」
 チェ尚宮が部屋に入ってくる。
「ママ、お召し替えを持って参りました」
 正装用の刺繍が施された重い服をようやっと脱げる。結い上げられた髪もようやく解く
ことができる。ワンビは安堵の息を漏らして、ゆっくりと立ちあがったが、チェ尚宮が持
ってきた着替えに怪訝な顔をして見せる。
 着替えの服は、ワンビが目にしたことのない、薄紅色のものだった。
「これは?」
 聞いた途端にチェ尚宮が顔を上げてパアッと明るい顔になる。
「チョナからの贈り物にございます。こちらにお召し替えをなさってください。ともに今
宵の満月を愛でようとのお誘いにございます」
「・・・チェ尚宮」
「はい」
「早う、支度を」
「はい、お任せ下さい!」
 疲れなどどこかに飛んで行ってしまった。嬉しさばかりがじわじわと身体を駆け巡る。
チェ尚宮は侍女たちに手早く指示をして、ワンビの髪を一旦下ろしてほぐし、今度は緩や
かに形よく結い上げる。そうしながら服も着替えさせて・・・殊の外早く支度ができあが
った。

 王が待っていたのは康安殿の庭だった。庭の一角に四阿(あずまや)があり、そこに
卓と椅子が用意されていた。卓の上には中秋節の馳走と酒の用意も整えられている。王
も正装用の服から、幾分か楽な服に着替えていた。
 月を見ながらしばらく待っていると、坤成殿から王妃がやってきた。自分が贈った薄紅
色の服を身にまとった王妃は月の光に照らされて、月の御使いかと思うほど美しかった。
しばらく見とれていた王だが、小さく咳払いすると王妃に座るよう促す。
 王妃を案内してきたチェ尚宮が後ろに下がる。チェ尚宮はアン・ドチと同じ位置まで
下がったあと、今度はアン・ドチや王を警護するウダルチらに身振り手振りで「もっと
後ろに下がれ!」と無言で命じる。
 二人きりになり・・・しばし無言の状態が続く。王がようやっと口を開く。
「寒くありませんか?」
「はい」
 月明かりの下でよくわからなかったが、王妃の顔は上気してほんのり赤くなっていた。
「いい月だ」
「ええ」
 王妃は月を眺める王を見つめていた。こうして二人きりで月を眺めることが夢のようで、
ふわふわと雲の上を歩く心地だった。
「月明かりに照らされた庭がまた美しい」
「ええ、本当に」
 ようやく王妃も庭に目をやる。月光に照らし出された庭は、いつもと全く違うさまを
見せる。二人でしばらく無言のまま月を眺めていたのだが、小さな物音がしたと思った
ら、それに重ねるようにもう少し大きい音が耳に入ってきた。
 王が王妃のほうを見ると、王妃は消え入りそうに身を縮めて恥ずかしそうに俯いていた。
朝から祭事のものを少し口にしただけで、二人ともろくに食べていなかった。腹の虫が
先に鳴ったのは王妃だが、自分の腹の虫もそれに応えるように大きく鳴ったのだった。
 王は箸をとって、数ある皿の中から目当てのものをつまみ上げる。そうしてうつむいて
いる王妃に話しかける。
「元では、中秋節に月餅(げっぺい)を食べる習慣がありましたね。高麗では、ソンピョン
(松餅)を必ず食べるのです。松の葉の香りがする餅です。さあ、一つ召し上がってみて
ください」
 その言葉に王妃が顔をあげると、なんと王が手ずからその餅をとって、王妃に箸を向
けてくれているではないか。迷ったのは束の間で、王妃は「えい」とばかりに勇気をふり
絞って「あーん」と口を開ける。
 二人は今まで一緒に食事を摂ったことがない。ヨンギョン(燕京:今の北京)からケギ
ョンへの旅路でも、二人は別々の部屋で食事を摂り、それは王宮に到着してからも、仲睦
まじく過ごすようになってからも変わることがなかった。打ち解けてはいても、意中の相
手の前で物を食べるという行為はなかなかに勇気の要ること。
 今までそんな機会もなかったのだが、今まさに好機だと王が勇気を出して箸でつまみ、
その勇気に応える形で王妃も口を開けたのだった。
 ところで、王は王妃が空腹だろうからと、良かれと思い大きめのソンピョンを選んで
いた。王妃はそれを何とか口に納めたものの、あまりモグモグと口を動かすのは行儀が悪
いし、見た目にもよくないと思っていた。
 王妃は、口の中の餅を味わうどころではなかった。前歯だけでモゴモゴと噛んで、それ
なりに行儀良く食べられたと思っていた王妃に王がポツリと呟く。
「兎(うさぎ)のようだ」
 その一言で、王妃はいっぺんに奈落の底に突き落とされる。

<続く>

ちなみにソンピョンってこんな感じです。
中に入っているのはゴマをすりつぶしたものとお砂糖をまぜた餡だそうです。
ソンビョン
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コメント
この記事へのコメント
おはようございます。

先ほどパスワード発行前の確認メールを
ご指定のアドレスに送信させて頂きましたが、
送信エラーになりました。

お手数ですがメールアドレスを再確認願います。

ケータイのアドレスでしたので、着信拒否などを
設定されておりましたら一旦外して頂けますよう
お願い致します。

よろしくお願い致します。
2015/09/28(月) 03:02 | URL | おりーぶ #-[ 編集]
このコメントは管理人のみ閲覧できます
2015/09/27(日) 21:46 | | #[ 編集]
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