ムカデにまつわるエトセトラ 3話

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 ヨンが典醫寺に到着したとき、ウンスは部屋の前でムガクシと話を交わして
いた。ムガクシたちも、ちょうど交代の頃合いだった。
「今日はありがとう。ヨンシさん、ウォルさん」
 名を呼ばれて二人が一礼する。顔を上げたウォルが、典醫寺の入口で佇んで
いるヨンに気づく。
「医仙、ウダルチテジャン殿です」
 その言葉に、ウンスがすぐにそちらを向く。
「あ!」
 と、声を上げて手を振る。典醫寺まで来たものの、陽が落ちてから女人のも
とを訪ねるのは、やはり失礼だったかもしれない。躊躇していたヨンだったが、
ウンスが大きく手を振って寄越す姿に安堵する。
「来たのね。今日はもう来ないのかと思った」
「文を受け取りました故」
「叔母様、ううんチェ尚宮様から?」
「はい」
「私がムカデに咬まれたって?」
「はい」
「わ~、何だか申し訳ないわ。わざわざ様子を見にきてくれたの?」
「・・・」
 ウンスの背後に控えていたムガクシたちが、会話を耳にしてピクリと動く。
ヨンはその動きが目に入って居たたまれないのだが、ウンスはお構いなしに言
葉を続ける。
「私たち、パートナーだもんね。来てくれて嬉しいわ。さあ、入って。お茶を
ごちそうするわ」
 周囲の様子に頓着しないウンスが戸を開けて、部屋にヨンを招く。
「初めまして、これからよろしくね。それじゃ、また明日」
 これから警備につく初対面のムガクシの二人に声をかけて、朝から警護して
くれたヨンシとウォルに手を振る。ヨンを部屋に通して扉を閉めるまでに、ウ
ンスはそうやって慌ただしく歓迎と別れの挨拶をする。
 ヨンシとウォルは、ウンスの天界式の挨拶(バイバイ)に慣れていて、さっ
と一礼する。交代でやってきた二人は、それが先だって聞いていた天界式の別
れの挨拶なのだとわかり、先の二人に倣って慌てて一礼していた。

 ウンスは医仙という称号を賜った際に、典醫寺の母屋の角部屋を与えられて
いた。陽当たりが良く、風も心地よく抜ける部屋で、部屋の中央にはテーブル
と椅子が置いてある。部屋の北側には納戸を兼ねたウォークインクローゼット
があり、部屋の一段高くなったスペースには、ベッドとお風呂が備え付けてあ
る。不便を言えばきりがないけれど、案外快適に暮らせている。
「座って」
 ヨンにそう促すと、ウンスは火鉢の方に行ってお茶の支度を始める。ヨンは
椅子には掛けず、立ったままウンスの所作を眺めていたが、すぐに歩み寄ると、
「私が」
 そう声をかけて、ウンスの手から鉄瓶をそっと取り上げる。鉄瓶が重いのか、
満杯まで湯が入っているせいなのか、鉄瓶を持ち上げて急須に湯を注ぐのでは
なく、鉄瓶を傾けて注ごうとしており、危なっかしくて見ていられなかった。
ヨンが片手で軽々と鉄瓶を持つと、ウンスはすんなり引き下がって横に立ち、
つと指を差す。
「ねえ、それ面白くない?」
 ヨンは、今自分が持っている鉄瓶を改めて眺める。形が面白いということな
のだろうか。鉄瓶は亀を象ったもので、甲羅の上には小亀を乗せていた。亀の
口が注ぎ口に、小亀は蓋の装飾になっていた。
「だって、亀の口からお湯が出てくるのよ。マーライオンみたいでウケる」
 天界の言葉混じりでヨインがクスクスと笑う。注ぎ口から湯が出る様が面白
いということらしい。ヨインの笑い声が耳に心地よく響いて、ヨンの口の端が
緩む。
 急須の蓋を開けたヨンが気づいてウンスを見る。
「何?」
「葉が入っておりません」
「あ~、そうね。葉っぱよ、葉っぱ。ちょっと待って!」
 ウンスが慌てて辺りの小さな壺の蓋を開けまわる。
『平時は、こちらでお茶を召し上がらないのだろうか・・・』
 茶葉を探して部屋中をウロウロし始めたウンスを見つめながらヨンは思う。
ウンスが、風呂の縁にある壺の中まで開けて確かめ始めたので、見かねたヨン
が声をかける。
「イムジャ、御医のところで茶葉を頂いてまいります」
 チャン・ビンとは、たまに二人で茶を飲む機会があったので、そこなら茶葉
があるはずだと考えた。
「いいわ。私が行くから」
 探すのを諦めたウンスがヨンの傍まで戻ってきて答える。
「いえ、ここでお待ちを。足を咬まれたのでしょう?」
 ヨンは、先ほどからウンスの足の甲が気になっていた。ポソン(靴下)を履
いていない右足の甲には白い布が巻かれていた。ウンスも足元を見下ろす。
「そうなの。咬まれたときはかなり痛かったわ」
 うげぇと顔をしかめてみせる。
「まだ、痛みますか?」
 ヨンがウンスを気遣う。自身は咬まれたことはなかったが、ウダルチの履物
の中にムカデが潜んでいて、そうとは知らずに足を突っ込んで咬まれた者がい
た。大の男が「痛い、痛い」と騒いでいたのを思い出す。
「あ~、もう大丈夫。ハニソンセン(漢医先生:チャン・ビン)が手当てして
くれたから。ムカデって蛇と一緒で、咬まれたらすぐに傷口の毒を吸い出すの
ね。ちょっと照れちゃった」
 ウンスはそのときのことを思い出しながらフフッと笑って話すが、ヨンは途
端に顔が強張る。
「そのあと、お姫様抱っこで運ばれたのよ。皆の注目を集めちゃって、それも
すごく恥ずかしかったわ」
 完全にヨンが固まる。ウンスは先ほどとは打って変わってヨンの反応が悪く
なったことには気づかないまま戸口の方へと向かう。まずは、茶葉をもらって
きて、お茶を淹れて、それを飲みながらゆっくり話がしたかった。
「それじゃ、ちょっと待っててね。すぐ戻るから」
 と、ヨンの返事を待たずに部屋を出て行く。

あとには石像のように固まったヨンだけが残された。

<つづく>

やっと書き上げました(フーッ)
この続きが一週間以内にアップできたら褒めて下さいな。
(追い風よ来い!!)⇒ノリ待ち状態

お話に出てくる火鉢と亀の鉄瓶はこれです。
(鉄瓶の注ぎ口が亀の口とか、蓋が子亀になっているというのは私の妄想です)
火鉢と鉄瓶

こっちがアップしたもの
鉄瓶アップ
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