ムカデにまつわるエトセトラ(02)

ここでは、「ムカデにまつわるエトセトラ(02)」 に関する記事を紹介しています。
何とか間に合いました(ふーっ)

ちなみに、このお話の設定はドラマでは13話あたりを想定しています。

・チルサル(七殺)との戦いは終わってて、ソヨン(書筵)の前。
 <ソヨンは、「高麗時代、国王の前で講義を行ったこと、またはその場」の意味>
・ウンスが悪夢を見ていることはまだ知らない。

こんな感じで設定していますが、徳興君のことは今回抜きで考えました。
「なんとなくこの辺りのお話かなぁ」ぐらいで見て頂けると幸いです。

 このお話のひとつ前に記事をアップしています。
 「番外編 トルベの持論」こちらもよろしくどうぞ♪
 (読む順番はどちらでもいいかな?)

********************
 陽が落ちてしばらくの後、チェ・ヨンが執務室から出てきた。康安殿の回廊
に姿を現したチェ・ヨンに、歩哨のウダルチが軽く頭を下げる。チェ・ヨンは、
チャンヒが控えている柱近くに差しかかったところで立ち止まる。
「用か?」
 チャンヒはその問いかけに応じるように、チェ・ヨンの前に進み出ると、
「チェ尚宮様からです」
 そう言って文を差し出すと、一歩下がってチェ・ヨンが読み終えるのを待つ。
その間に、ザッザッと集団で歩く足音が、回廊の向こうから聞こえてきた。
 やってきたのは、組長チュソクを先頭とした甲組のウダルチだった。日没と
なり、これから歩哨を乙組のトルベらと交代するチュソクたちだが、前方のテ
ジャンとムガクシを見止めて歩みを緩めると、やがて立ち止って遠巻きに二人
を見守る。
 チュソクが二人越しに、トルベに視線で問いかける。
『何かあったのか?』
 トルベは困った顔で首を振るしかない。(※)

<「医仙に何かあれば、僅かなことでも逐一報告しろ」
お前がそう命じておいたので、ムガクシが先ほど知らせを持ってきた。
医仙がムカデに咬まれたが、御医が直ちに手当にあたった故、至って
問題ないそうだ。
お前がこの文を読む頃には陽も暮れておろうから、明日にでもご様子を
伺うがよい>

 コモ(叔母)からの文は、簡潔なものだった。含みを持たせた文面だが、知
らせてくれたのだから有り難く受け取っておく。文を畳んで顔を上げると、文
を携えてきたムガクシと目が合う。
「返事を待っているのか?」
「あ、いえ」
 チャンヒはチェ・ヨンの顔色を窺っていた。どんな顔をしていたのか伝えよ
と命じられたこともあるが、文の内容が医仙に関することで、なにか重大な事
柄であるならば、雇い主にも一報を入れておくほうがよい。あわよくば、前に
いる男が動揺して、文の内容を漏らしでもすれば好都合と考えていた。
 だが、チェ・ヨンは文を読んで少し目を見張ったものの、それ以外にこれと
いって狼狽した様子を見せなかった。自分に問いかけた際の声の抑揚も、至極
落ち着いたものだった。どうやら文の内容は、雇い主に報せるほどの事柄では
ないらしい。
「『承知』。そう伝えてくれ」
「はい」
 チャンヒは一礼して坤成殿へと戻る。横目で見送ったチェ・ヨンがチュソク
たちを視線で促す。チュソクたち甲組の隊員らは弾かれたように、急いで引き
継ぎに入る。

 チェ・ヨンは、その場で引継ぎが終わるのを待つ。陽が既に沈んでいるとは
いえ、辺りはまだ仄かに明るかった。出仕する前に典醫寺に立ち寄って、今日
はもうこれで来ないとあの方に断りを入れておいた。
 チョナは、この国の今ある姿を知りたいと望まれている。だが、各地からチ
ョナの元に寄せられる書状には、真実が記してあるわけではない。徳城府院君
の勢力下にいる貴族たちは、私腹を肥やすために、偽りの文字や数を並べ立て
て不正を働いているのだ。
 まずは書状の内容を検め、記述が怪しいものは片っ端から床に捨て置いた。
陽も暮れる頃、机の上に山積みだった書状のほとんどが、今度は床の上に山と
積まれた。
「これが、この国の今ある姿か・・・」
 共に朝から書状に目を通されていたチョナがぽつりと呟かれる。頭でわかっ
てはいても、目の当たりにするとさすがに幻滅して、気落ちなさったのではな
いか。そう思ってお顔を窺うと、それでも笑みを浮かべておいでだった。
 チョナの視線の先にあったもの、それは机の上に残った三巻の書状だった。
「それでも、ここに希みはある。そうでしょう?」
 チェ・ヨンも静かに笑って、頭を下げる。
「御意」
 そうだ。僅かでも希みがあるなら諦めない。たとえ、机の上に書状が1巻た
りとなかったとしても、そのことに目を背けたりなさらない。そんな御方だか
らオレはお傍にいるのだ。

 交代を終えたトルベらが、整列してチェ・ヨンの後ろに控える。暫くの間チ
ュンソクにチョナの護衛を任せている。一旦宿舎に戻り、用を済ませて再び夜
半過ぎに護衛を交代することにしている。ソヨン(書筵)までは、自分かチュ
ンソクが常にチョナをお守りする体勢にしていた。
 チェ・ヨンは振り返って、任務を終えた隊員たちをさっと見回す。どの顔に
も疲労の色が滲んでいる。内功を使う者達がいるせいで厳しく、密な配備をせ
ざるをえない状況で、歩哨も常以上に気の張る務めとなっていた。
「ご苦労」
「はっ」
「先に戻って休め」
「テジャンは?」
 トルベが尋ねる。
「後で行く」
 常であれば、自分たちと共に宿舎まで戻るテジャンだった。先ほどの文が関
係しているのか、それとも違うのか。いぶかしみつつそれ以上は聞かずに、一
礼したトルベと乙組の隊員たちが宿舎へと戻って行く。それを見送ってから、
チェ・ヨンが視線を甲組に向ける。配置についた甲組の隊員たちは、其々に気
力に満ちた目でテジャンを見つめ返す。チェ・ヨンは小さく頷くと、
「頼む」
 と声をかけて、康安殿をあとにする。

 角を曲がると、折から一陣の風が吹き渡る。陽はとうに落ちているのに、そ
の風はまだ陽のぬくもりをはらんで温かく、ヨンの頬を撫でる。
 ヨンは典醫寺へと向かっていた。以前の自分であれば、あの文を読んだ直後
に不安のあまり、典醫寺へと駆け出していただろう。自分を遠ざけようとする
ヨインの態度に不安を憶え、差し伸べる手を拒まれて、どうすればいいのか、
わからなくなった。
 目の前にいるのに、その距離は遥かに遠く、よく笑う方だったのに、笑顔を
見せることがなくなった。強張った顔で押し黙るヨインを見るのはもどかしく、
そして心が重かった。
 自分がキ・チョルと刺し違えれば、ヨインは無事に天界に戻ることができる。
それが自分にできる最善の策で、ヨインの一番の望みだと思っていた。ならば
それを叶えて差し上げようとした。
『だが、今は違う』
 ヨインの望みがわかった今、自分でも不思議なほどに落ち着いていた。自分
が「大丈夫だ」と言えば、その言葉を信じて「行って来い(いってらっしゃい)」
と笑みを浮かべて送り出してくれる。命を持ち帰ったことを「よくやった(お
かえりなさい)」と喜んでくれる。
『帰りを待つ人がいる』
 そう思った瞬間、ヨインと二人で見た川岸の家が脳裏に浮かびあがる。誰か
の帰りを待つ灯りは温かく、あの家を、あの灯りを目指して夜道を急いで帰る
者が目に浮かぶようだった。オレはその者と同じ心地なのだ。
『あの方は、オレを待っている』
 今日あったことをオレに話したくて待っていて下さる。そんな気がした。そ
んなことを考えているうちに、典醫寺が見えてきた。歩いていくうちに自然と
顔がほころぶ。思った通り、あの方の部屋の灯りは温かく灯っていた。

<続く>

ごめんなさい。
ウンスが登場しませんでした(汗)
書いてる私が「あれ?あれれ・・あれっ!(汗)」でした。
ムカデもウンスも次回は必ず登場しますゆえ・・・
(タイトルもまだちゃんと考えてないワタシ)
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