ムカデにまつわるエトセトラ(仮題)番外 トルベの持論

ここでは、「ムカデにまつわるエトセトラ(仮題)番外 トルベの持論」 に関する記事を紹介しています。
トルベのことをいろいろ書きすぎてしまい、このまま2話の内容に入れて
おくのはどうかなぁと思ってバッサリ省きました。
でもカットしたままではちょっと勿体ない気がして番外編ということでこの下
に書いておきますね。

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『トルベの持論』
 康安殿の扉の前に立つ自分たち甲組ウダルチの前に、一人のムガクシが
やってきた。
「お!」
 気が付いたトルベが、いつものように気さくに視線を投げかける。だが、
そのムガクシは、トルベから二十歩以上離れたところで立ち止まると、その
まま動かない。顔なじみのムガクシではないが、見知った顔だった。
『何の用だ?』
 眼でそう問うた。用向きを尋ねるためだけに、みだりに扉の前を動くわけ
にはいかないし、かといってその場から大声を出して「何用か?」と尋ねた
りしたら、殿にいらっしゃるチョナやテジャンの耳にまで届いてしまい、
大事なお話の邪魔になる。
 ムガクシは自分と目が合うと、苛ついた顔つきになってそっぽを向いた。
困ったトルベがそれでも諦めずに手招きすると、今度は柱の影に下がって、
トルベの視界に入らないようにする。それで困り果ててしまった。
 結局、諦めたトルベが両脇に立っていた隊員に目配せしてその場を任せ、
小声で「誰に用なのだ?」と尋ねながら、ムガクシの前に立つ。袂に文を
携えているのが先ほどから見えていた。
 するとムガクシは尖った声で、
「構いだては無用。テジャンに直に渡すようにとチェ尚宮から言付かった故」
と、つっけんどんに答えた。「お手上げ」だった。そんな風にけんもほろろに
言われても、トルベはそのムガクシに腹を立てることはなかった。
 女にはめっぽう弱いのが、トルベなのだ。トルベにとって、女というものは
いつも笑っていて、柔らかくていい匂いがして気持ちいいものなのだ。だから、
女が顔を曇らせたり、困っていたり、泣くようなことがあれば、何とかするの
が男というものだ。
 そんな持論のせいか、トルベの周りにはいつも女が寄ってくる。それが若い
女ではなく、玄人の姐さんや婆さん、年端もいかぬ娘っこというのが本人には
いささか不本意なようだが。
 用が済んだムガクシが帰る際、トルベはまた目配せをするだろう。
『よかったな。無事に渡せて』
 チャンヒはそれを見事に無視するだろう。それでも腹を立てることはない。
それがトルベなのだ。
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