喪服のランデブー

ここでは、「喪服のランデブー」 に関する記事を紹介しています。
このドラマは2002年にNHKで放送されたドラマです。

原作の叙情的な内容に惹かれて野沢さんがどうしてもドラマ化したかったというだけ
あって、独特の雰囲気のドラマに仕上がっています。

今でも年に何度か通しで見るほど大好きなドラマです。

「喪服のランデブー」

原作:コーネル・ウールリッチ
脚本:野沢尚
音楽:東儀秀樹

路木悟史:藤木直人 
大柴総太:吉岡秀隆 
飯田聖美:麻生久美子
大柴美沙子:銀粉蝶
長谷部紀久:塩見三省
植村昇平:寺田農
尾花初男:岸部一徳
辰岡季里子:吉田日出子

<1>凶手

<大柴の回想>
その街では毎日、日没きっかりにガス灯がともる。
二人は毎晩8時にガス灯の下で待ち合わせ、会っていた。
雨の降る日も雪の日も、月の照る夜も、照らぬ夜も。
二人はただ会っているだけで満足だった。多くのものは望まなかった。
できるだけ長い時間を二人で過ごしたい。それが二人の夢だった。だから結婚を約束した。
8時に会って、12時でサヨラナを言うデートはあと少しで終わることになっていた。
6月になれば二人は結婚式をあげることになっていた。
ただこの二人に6月はめぐってこなかった。
(駅前のガス灯の下で聖美が来るのを待つ悟史。駅の改札から聖美が出てくる。
 二人は近くのカフェで話をし、手をつなぎながら彼女をアパートまで送っていく悟史。
 聖美は悟史に軽くキスをして振り返りバイバイと手を振って見えなくなる)

悟史は蓑田商店という田舎の雑貨屋の手伝いをしている。店の主人から
「商店街のみんなから悟史の結婚祝は何がいいかと聞かれてるんだ」と悟史に聞くけど、
笑って「いいですよ、別に」と断る悟史。
でも掃除機とか布団乾燥機とか何か欲しいものあるだろ?と主人が食い下がるが
「本当にお気持ちだけで・・・」
と笑って出て行く。店の主人は「欲のない二人だ」とため息。
結納は堅苦しい、彼女の両親にはまだ挨拶していないという悟史に、店の主人は
「自分が親代わりになるから彼女の両親にはちゃんと挨拶をしなさい」
とたしなめると悟史も少し嬉しそうに
「はい」と素直な返事を。

大学の薬学部の院生の聖美は教授の「薬草のサンプルが足りなかったなぁ」という言葉に
「じゃあ、あたし取ってきましょうか?」
と笑顔で申し出ます。
薬草が生えているのは山の渓谷の急流で、そこまではちょっとしたハイキングになる様子。
聖美は悟史に電話して「これから山登りなの。もしかしたら30分ほど遅れるかも」
と伝えます。「気をつけて」と電話を切る悟史。

その渓谷でキャンプをしている男3人と女1人の中年の4人組み。
建設会社社長の長谷部、県会議員の尾花、人権派の弁護士の辰岡季里子、警察署長の植村。

尾花は皆に4人で対談したときの冊子を配る。
4人はともに学生運動に身を投じ、今ではそれぞれに成功しているという対談の内容。

一方やっと目的の野草を見つけたらしい聖美。

学生運動のときの話をして懐かしむ男たちに水を差すように、辰岡はこんな風に集まるのは
今年で辞めにしようと切り出します。何を突然?といぶかしむ3人に
「(生運動で死んだ)ヒトミの命日に、あのころのことを懐古しながらの一泊の小旅行。
 卒業しなきゃ、いいかげん」
という言葉を受けて、
「27年前の5月31日。ヒトミが子供を産んで死んだ日に俺たちも解散だ。
 いい潮時だったな」
感慨深げに言う尾花に、長谷川はふと思い出したように
「ヒトミの娘は元気か?」
と植村に聞く。(ヒトミの恋人だったのかな?)

冊子を火に投げ入れて、お互いに持ちつ持たれつでやってきたことを強烈に皮肉る季里子に
カッとした尾花二人がなだめる。(そのモメている様子を山の斜面の上から見た聖美)

日もずいぶん暮れてトボトボと山を降りる聖美。

長谷部が運転し、助手席に季里子が乗り込んで4人もまた山をあとにしようとしている。
尾花が後部座席から長谷部に酒をすすめるのを季里子がたしなめると、またも尾花が絡んで
車内は気まずい雰囲気に。
長谷部がとりなすように「俺が飲めばいいんだろ?」
と仕方なく尾花から酒瓶を受け取って飲む。

尾花は面白くなくて季里子が夫と離婚したことを皮肉ると、季里子は尾花の愛人の話で応酬
してカッとなった尾花が季里子にのしかかり、その拍子に持っていた酒瓶が運転をしていた
長谷部の足にこぼれる。
「おい!」と怒って足元を見た長谷部に、前を見ていた季里子は人(聖美)がいるのを
見つけて、「危ない!」と叫び・・・

聖美をはねてしまった4人は何とかならないかと保身のことで頭がいっぱい。
道端を歩いていた聖美に非はなく、警察署長の植村でさえももみ消しは難しい状況。
仕方なく電話をかけようとする植村を制止し、季里子は後部座席からシャベルを取り出す。

季里子の行動に慌てる3人の男たちだが、「これは私たち4人で背負おうの」と死体を
埋めることを提案する。
植村は季里子の提案に乗り、他の二人も怯えながら作業を手伝う。
(その頃悟史はガス灯の下で聖美を待っている)

死体を埋める穴を掘り終え、中に聖美を横たえて4人は今後の相談を始める。
もしも死体が見つかればどうなるの?と聞く季里子に、植村は車が証拠になるという。
車は早く処分して、あたしたちはしばらく会わないほうがいいという季里子だが、死体を
凝視している尾花を不審に思い「どうした?」と尋ねる。
「今、動かなかったか?」
と聞く尾花に、気のせいだろと言いながら4人が穴の中をのぞくと、聖美の指がかすかに
動いているのが見えて慌てる。
季里子は冷酷にもシャベルを持ってきて土を聖美の上に入れ始め、他の3人も次々と土で
聖美を埋めた。

聖美を待つ悟史は彼女が約束時間を過ぎても現われないことを不審に思いながらも
ガス灯の下で待ちつづけている。

生き返ってこないか確かめるために5分ほどここで待ちましょうという季里子の冷酷な
言葉に、男たちはただ従うだけ。
季里子はだまってタバコを吸いながら時間が経過するのを待っている。

聖美がこないので電話をかけてみる悟史。その着信音は山の中でむなしく鳴っているだけ。

翌朝。散歩中の犬が山の中に入っていき・・・

長谷部は車をプレス解体に出す。処分した日にちを一昨日にしてくれるように頼んで。

大柴は駆け出しの刑事。
朝帰りした大柴に母親は父親みたいにならないでと説教説教。
(父は風俗担当の刑事で不正して、一方的に離婚したらしい)
母子でワアワアと言い合っているときに呼び出しのベルが鳴る。

大柴がかけつけたのは聖美の死体が発見された現場。
既に先輩刑事の挽地たちは到着していて、被害者の詳細な情報を聞く大柴。

名前は飯田聖美。薬学部の大学院生。両親が新潟にいて夕方には身元確認で来ること。
両親の了解を得てから司法解剖にまわすという予定だけれど、被害者の恋人だという青年が
今しがた遺体と対面したと話す他の刑事。

じゃあ身元の確認はとれたんだな?という老刑事の問いかけに
「それが・・・自分の知っている女性じゃないと答えたそうで。かなり動転していて死体を
 恋人と認めたくないのかも・・・。
 (恋人の)名前は路木悟史24歳です」

大柴はこの街の出身で、自分と同い年なので自分と知り合いかと思うんですが知らない
男だったようで・・・。

挽地刑事は聖美の両親にひき逃げにあって殺されたようだと説明し、大柴は両親の涙に
もらい泣きして老刑事に呆れられる。

悟史は今日も8時半まで待ったけど聖美は現われない。

大柴が遺留品を机に並べていると聖美のケータイが鳴る。
「あの、これは飯田聖美さんの電話じゃ?」と確認する悟史に話す大柴。
「そうです。ひょっとして路木悟史さんじゃ?私タカラ警察の大柴と言います。
 もう聞いてるよね?遺体とも対面したよね?信じたくないっていう君の気持ちはわかる
 けど、君の恋人の飯田聖美さんは亡くなられたんだ」
そして大柴は、この街の教会で葬式があること(悟史と結婚式を挙げるはずだった教会)
街を一望できる丘の上の墓地に墓をつくることを伝えます。
で、なぜか親近感を感じて悟史に自分のことをとりとめもなく話していた大柴は我に返って
「聖美さんを送ってやろう」
と悟史に言いますが、黙って電話を切る悟史。

店の配達や作業をする悟史に、雑貨屋の店主も近所の人も葬儀に行くように説得するけれど
「(聖美とは)今夜会えますから。俺が(待ち合わせの)時間を間違えたんです。
 夕べもおとといも彼女が忙しくて会えなかったんです。
 今晩8時いつもの場所で会えますから」
笑ってそう答える悟史。

夜10時を過ぎても聖美はやってこない。
悟史ははめていた腕時計を外して、時間を8時ちょうどにあわせてガス灯に叩きつけて
時計の針を止める。

雨の日も傘を差して待つ悟史。

大柴は雑貨屋の店主に路木のことを尋ねるけれど、連絡もないし住んでいるアパートにも
帰っていないとのこと。
店主は大柴に、悟史のことは放っておいてくれませんか?悟史の中では聖美ちゃんが生きて
いてもいいじゃないですかといわれて何も言えず。

事件から3週間後。
捜査本部を縮小するように署長から言われて納得が出来ない挽地と大柴。
継続捜査は二人でやってくれたらいいという植村署長の言葉に、キャンプ場が近くにある
からそこに行った人物かもしれないと食い下がる大柴をあしらう植村。

植村は尾花に捜査本部を無くしたも同然にしたし、継続捜査も定年間近の刑事と配属された
ばかりの新人だから大丈夫だとうけあう。
運転していた長谷部は罪の意識にさいなまれている様子だが・・・

悟史は聖美が発見された山をあてもなく歩いていた。
そして4人がキャンプしていた場所に偶然辿りつき、季里子が燃やした冊子を拾った悟史。
そこには対談で並んで写る4人の姿が・・・

一年後。

<大柴>
『事件は記憶から忘れ去られ、死んだ恋人を待ちつづける路木悟史の姿も街から消えた。
 彼を知る人々はそれでよかったのだと思うことにした。
 が、何も終わってはいなかった。むしろ始まったばかりだった』

5月31日午後11時30分に110番通報が入る。
帰宅した長谷部が自宅の風呂場で溺死しているのを発見した。

奥さんは最近風呂に入りながら酒を飲む習慣があったと聞き、挽地は長谷部が落ち着いたら
詳しく聞こうと大柴に話す。

大柴はリビングの写真立てに長谷部と署長の植村が仲良く写っているのを見て・・・


<2>愛死

路木悟史:藤木直人 
大柴総太:吉岡秀隆 
飯田聖美:麻生久美子
長谷部紀久:塩見三省
尾花初男:岸部一徳
青木千夏:山本未来
尾花苑子:山口美也子

大柴は挽地に長谷部の妻が一人で鍵もかけずに風呂に入っていたことに不審を抱く
誰かに酒を飲まされて風呂場で溺死させられ、犯人は裏口から逃走したという可能性も
捜査会議で出たけれど、その説を裏付ける痕跡がなかったという挽地。
大柴は通夜に来た署長を見て、長谷部と署長が大学時代の同級生であると挽地に教える。

季里子も尾花も来て事件の夜以来初めて4人が顔を合わせた。
長谷部は妻を亡くしたことにショックを受けて、因果応報だと落胆する。
「罰かもしれないと思うんだ。一年前のあのことが・・・」
「何をバカなことを・・・あの時のことは俺たち4人で背負ってるんだ。
 じゃあ俺たちにはどんな罰が?」
と長谷部の考えを一笑するようになぐさめる植村。

そこへ長谷部の部下が弔電を持ってくる。
他の3人はそれぞれ席を立ち、長谷部が一人で弔電を読んでいると
『どんな気持ちか、分かったろう。』
そう書いた弔電があった。

大柴は今日が5月31日であることに気づいて「厄日かな」とつぶやく。

それから約一年後。
尾花は県会議員に当選して打ち上げに参加する。
その席を抜け出し、広報であり愛人でもある青木千夏(山本未来)の素行調査の結果を
探偵から聞く尾花。

やはり千夏には男がいてホテルでの密会や、自分が買い与えたマンションに連れ込むなど
頻繁にある男と会っていると報告する探偵。
ただ、相手の男の素性がわからないし、この男はまるでこちらの尾行に気づいている様子も
見受けられるのに、わざと見せつけるように女と会っているように見えるという探偵の
推測に首をかしげる尾花。

尾花が千夏に会いにいくと、嬉しい顔もせず出迎える千夏。
彼に促されて当選の祝いを述べたあと、いい機会だから別れて下さいと切り出す千夏。
もう26歳だし、田舎の両親から見合いをすすめられていると言う千夏の言葉に、尾花は
余裕の笑いで相槌を打つ。
あなたと会っていると自分が汚れていくような気がしてしょうがないと言う千夏に
「よく言えるよな。で、その汚れは他の男で清められたか?」
と千夏の浮気を当てこする。

尾花に髪を触られて思わず頭をすくめる千夏に
「お前を他の男に渡すぐらいなら殺してやる。俺の手で、お前をさ」
そう脅す尾花に、これから国会議員を目指す人が愛人一人のために人生を棒にふるの?と
千夏がそんなこと出来るわけないという風に笑って聞くが
「(人生を棒に)ふるよ。愛してるお前のためなら。俺がお前をどれほど愛しているのか
 こうしないとわかってもらえないなら」
と千夏の首を締めていく尾花。
千夏は抵抗もせず涙をこぼしながらなすがままの状態。

そこに尾花の妻苑子(山口美也子)から電話が入り、身じたくをととのえて
「明日(5月31日)また話し合おう」という言葉を残して部屋を出ていった尾花。
一人泣いていた千夏に電話が入る。

「今、彼が出てったね」という男の言葉に「近くにいるの?!」と慌てて部屋の窓から
外を見る千夏。

「心配してた」という男に「あなたに言われた通り、今夜こそはっきり言った」
と千夏は尾花に別れ話をしたことを伝える。

「彼にとって一番大切だったのはやっぱり君だったんだね」という男に、千夏は
「あたしにとっては・・・あなた」と言う。

そして呼び鈴が鳴り、千夏は男(路木悟史)を出迎えるために玄関へ・・・

尾花は自宅に戻るが苑子は先に寝てしまっていた。

翌日尾花は昼間に長谷部と食事をする。
会社を人手に渡した長谷部に、まだ隠居する歳でもないだろうと尾花が水を向けると
「緩やかに朽ち果てていく生活ってのも悪くはない。余分なものがなくなり自分の本質が
 見えてくる」
そう静かに答える長谷部に「お前はそれだけ女房を愛してたってことだ」というと
「それはよくわかった。ちょっとした驚きだった」
自嘲するように笑いながら長谷部は尾花にカミさんとはどうだ?と尋ねる。

尾花の妻苑子の家が代々政治家で、その地盤を受け継いだから当選できたこと、家も
選挙資金も妻が用立てていることを自分で皮肉る尾花。
そんな尾花に長谷部は愛人のほうはどうだ?と話を変える長谷部に
「いろいろとな」と言葉を濁す尾花。

千夏が選挙事務所の後片付けをしていると尾花が一人でやってくる。
今夜マンションに行くという尾花の言葉を無視して、退職届けを出したこと、世話になった
と笑って告げる千夏に「一緒になろう」と言い出す尾花。

(千夏と一緒になれるなら)議員の職を捨てられるという尾花に、あなたにそんなことは
出来ないとキッパリ言い切る千夏。
尾花が事務所を出て行くと男(路木悟史)に電話をかけて、尾花がただならぬ雰囲気で
何をするのかわからないと怯える。
電話の向こうで男が今夜尾花が来るなら自分も一緒にいようといい、千夏は
「ホントに?あなたが一緒にいてくれるなら安心」と嬉しそうに返事をする。

夜。尾花は自分で車を運転して千夏のマンションへとむかう。
部屋の明かりは付いているが呼び鈴を鳴らしても千夏は出てこない。
鍵はかかっておらず、尾花は部屋に入って千夏を呼ぶが・・・
寝室に入って下着姿で横たわる千夏に男のことを当てこする尾花だが、千夏の反応がない。
ベッドに座って千夏をゆすぶっても彼女は起きもしない。
そして・・・首に絞めた跡があり・・・

尾花が慌てて非常階段から逃げているとちょうどパトカーがやってくる。
女性の悲鳴を聞いたという通報があってやってきたという警察を、間一髪でかわして車に
戻り家に帰った尾花。

千夏が死んだ衝撃にシャワーをしながら泣きじゃくる尾花だが、悩んだあげくに苑子に
相談しようと心を決める。
苑子が既に千夏の存在と関係を知っていたので驚く尾花だが、夕方からお前と一緒にいた
ことにしてくれと頼む。
「久しぶりの家族団欒だった。そう証言してくれ」
と思いつめたように言う尾花に妻は「何があったの?」といぶかしむ。

「ちゃんと説明して」という苑子の言葉に尾花は座りこみながら
「青木千夏が死んだ。マンションに行ったら死んでたんだ」
と泣きながら言う尾花に驚く苑子。自分と千夏の関係を警察が突き止めるのも時間の
問題だ焦る尾花に、苑子は何しにマンションに行ったの?と問い詰める。
「殺してやりたかった」とだけつぶやく尾花に、再選を果たした人が何をやってるの!と
なじる苑子に一言も言い返せない尾花。

妻が証人になんてなれると思う?という苑子に、尾花は自分と千夏の関係をお前が知って
いたなら別に殺す動機にはならないだろう。
お前を裏切った償いはこれから一生をかけてするから、頼むから助けてくれと苑子に
すがって泣く尾花に「任せて。あたしに・・・」と言い、苑子は尾花の頭をなでてやる。

大柴は母親から殺人事件の知らせを受けて夜中に叩き起こされる。
青木千夏の殺害現場に向かった大柴は、彼女が死んだ日がまた5月31日で、署長の友人の
尾花に近しい人物だったことに気がつく。
それで挽地に、去年も署長の友人に近い立場の人間が死んでいることを教えます。

2年前のひき逃げ事件はどうだ?と聞かれて、その事件は誰とも関係がないと自分も思い
大柴は自分の説に自信がない。

警備会社に再就職が決まり、あと一ヶ月で定年の挽地。

一緒に尾花夫婦に聞き込みに行った挽地と大柴は、彼が妻と一緒にいたという証言を
とって署に引き返す。

尾花は警察を見送ってから苑子に、今まで広い家に住んでいたからお前のことがよく見えて
いなかった。狭い家で肩をくっつけあって暮らしていたらお前を大事にしたのにと後悔の
弁を述べる。
苑子は「(そうすれば)青木千夏に心を奪われることもなかった?」
と聞き、尾花の答えを待たずに家に入る。

署長の植村から本当にお前が無関係なのかと聞かれた尾花は調査会社から入手した千夏の
浮気相手の写真を渡すが、写真は全て顔が写っておらず特定が出来ない。

現場の刑事が掴んだ情報ぐらいなら流せるという植村に、尾花は
「そこまでお前が監視できるなら、操り人形がいるってわけか」
と署内に植村の子飼いがいることを暗にほのめかします。

大柴は挽地と車の中で尾花を張り込み中。
署長はそんなに甘くないという大柴の言葉に、何も言わない挽地。
尾花の妻が夫の浮気を知っていたような雰囲気だったと大柴に言う挽地。
それを受けて、尾花は本当にシロなのかもしれないと言い始める大柴。

尾花が家を出ようとしたとき、ケータイが鳴る。
「どんなお気持ちですか?」
「誰だ、貴様?」
尾花は電話の主が千夏の浮気相手だとわかって、千夏を殺したのはお前だろうというが
「いえ、あなたです」
とハッキリ答える男。

そして電話口から流れてきたのは尾花と千夏の会話を録音したレコーダの音声で・・・
『お前を他の男に渡すぐらいなら・・・殺してやる。オレの手でお前をさ・・・』

盗聴されていたことに動揺した尾花は「目的はなんだ?金か?」と男に聞くと、男は白紙の
小切手を要求してくる。

要求通り小切手を用意して待ち合わせ場所にいった尾花だが、肝心の男が現われない。
やっと電話が鳴り「何をしてる?早く取りに来い」という尾花に、男は気が変わりましたと
取引を辞めると言い出す。
「何だと?」
「テープは有効利用させていただきます」
「有効利用?どういう意味だ?何が目的なんだ?」
「どんな気持ちかやっとわかったでしょう?」
「誰なんだ、お前は?」
「愛する人間が死んだら自分が殺したのではないかと疑われる。
 これ以上の苦しみはないでしょうね」
「そこまで人に恨まれる覚えはないぞ」
頼むから取引をしてくれという尾花をあざ笑うかのように、尾花と千夏の会話が再生されて
慌てる尾花。

しかし電話は切れてしまい・・・

そのすぐあとに秘書から、奥様から警察が家に来たと連絡があったと電話が入る。

車を飛ばして慌てて家に帰った尾花は、裏庭の焼却場から煙が出ていて立ち尽くす苑子と
警察が何かを火の中から取り出しているのを見つける。

何の騒ぎだ?と聞く尾花の目にテープが目に入り、苑子が慌てて
「家に(テープが)送られてきたの。(中身は聞いてないけど)あんなものがあればあなた
 が窮地に立たされると思って慌てて燃やしたの。その時ちょうど刑事さんが・・・」
と説明するが、挽地と大柴はテープを証拠として押収すると尾花に告げる。

「私じゃない、私は殺していない!」そう弁解する尾花の横で苑子は冷たく笑うばかり。
苑子がわざと警察が来る前にあれを燃やしたのではと思い「苑子、お前・・・」
と、その先は声にならない尾花。

尾花は警察に連れていかれたが、千夏を殺したと断定するだけの証拠はなく、植村の尽力も
あって、証拠不十分で釈放されることになった。

警察に留め置かれていた尾花のところにやってきた苑子に、亭主を守るフリをしてオレを
陥れたなと責める尾花。

「そうよ。あなたが許せなかったから」とアッサリと自分がやったことを認める苑子。
「オレはあの女を殺してはいないんだぞ」
「だからよ。もしあなたが殺したんなら、それはあたしに対する罪の償いになる。
 あたしは命がけであなたを守ってあげました。
 でもあなたが殺してないなら、あなたは結局あたしのために自分の手を汚してくれた
 わけじゃないんだから、あたしに対する罪は償われていないことになる。
 あなたの政治生命はもうおしまい。それに、愛する女性はもうこの世にはいない。
 これからが本物の苦しみね」
言いたいことはこれで全部とばかりにスッキリした顔で部屋を出ていく苑子。

釈放になり警察を出ていく尾花に群がる報道陣。

挽地は大柴に「青木千夏は首を絞められて、死ぬまでどのくらい苦しんだんだろうな」
と聞き、大柴は10秒か20秒程度だと答える。
それを聞いた挽地は車に乗って去っていく憔悴した尾花を眺めながら
「なら、あの男の苦しみはどうだ?」と大柴に聞く。
「死体を発見して愛する人を喪った絶望と、世間に疑われたこの五日間」
「五日間、ジワジワと苦しめられたというわけだ」
「それがひょっとしたら犯人の目的?」
「オレはそろそろ時間切れだ。あとはよろしく頼むぞ」
といいながら去っていく挽地に自信なさげに「はい」と答える大柴。

苑子は自宅で客を迎えている。
「あの人今日(家を)出ていったわ。荷物が少ないんで驚いちゃった。」
と明るく言う苑子。そして客のそばまでいき真剣な表情で
「感謝するわ。あなたからあのテープを受け取ったとき、主人に償いをさせる方法を
 思いついたの」
「奥様のお力になれて、よかったです」
そういう路木悟史に擦り寄っていく苑子。そんな苑子の肩を抱く悟史。

「ぼくらの世界じゃああいうものが時々流れてくるんです。青木千夏とつきあっていると
 言う男が盗聴テープで尾花先生を強請ろうとしていると聞いて力ずくで取り戻しました」
「じゃあ、あなたは青木千夏を殺したのかもしれない男を知ってるのね?」
「ええ。愛する女性を失った哀れな男でした」
甘えるように寄りかかっていた苑子から離れ、一人で庭を見つめる悟史。

「この広い家で一人住まいは寂しくないですか?」
話題を変えるように悟史が聞くけれど、苑子は尾花が辞職すれば補欠選挙になるから
自分は立候補を考えていると言う。

ホストなんか辞めてあたしの私設秘書にならない?と誘う苑子に、
「汚れ仕事をする人間が身近に必要ですからね。どうしようかな?考えておきます」
そう言ってさりげなく苑子から離れる悟史。

尾花は一人でビルの屋上へ上がり、悟史は一人ガス灯のしたでたたずむ。

季里子のもとに植村から電話が入り、尾花が投身自殺したことを話す。
遺書は植村が回収し、中身を読んでみて2年前のことが書いてあったと話す。

<つづく>

<3>闘争

植村昇平:寺田農
植村祥子:根岸季衣
松原雛子:宮崎優子
辰岡季里子:吉田日出子
辰岡由海:麻生久美子

『私は全ての罪をここに告白し、愛する女性のもとに旅立ちます。』
という書き出しで始まっていた尾花の遺書は宝良(たから)渓谷に友人達と一緒に行き、
一人の女性をはねて死なせてしまい、それを全員で隠蔽したことを告白する内容だった。
青木千夏の死については無実だが、何の罪もない女性を死なせた責任をとって死ぬと。

植村はその遺書を燃やして処分する。

大柴がソファで仮眠をとっていると係長や他の刑事が噂話をしていた。
尾花が自殺したときに、実は遺書があったこと。
しかし遺書の宛名が「有権者の皆様へ」となっていたので誰に渡すべきか検討している
最中に忽然と消えてしまったこと。
署長と尾花は友人だったので署長が遺書をもみ消したのではないかという推測。
そして、簡単に現場に入れない署長のかわりに、署長の言いなりに動く「犬」が現場の
刑事の中にいるんじゃないかと。

大柴は宝良渓谷のひき逃げ事件の容疑車両で長谷部の車が5月30日にスクラップにされて
いることを不審に思い、その会社の社長に確認をするが書類の通りその日にくず鉄にしたと
証言する社長に苛立つ大柴。

そして約一年が過ぎ、また5月31日が近づいてくる。

大柴は定年退職して警備会社の主任になっている挽地に会いに行き、自分の考えていること
を相談する。
尾花の遺書をもみ消した署長のスパイが仲間の中にいるかもしれないから、オヤジさんに
しか相談できないという大柴。

大柴は尾花の遺書に3年前のひき逃げ事件のことが書いてあったから、署長が遺書を処分
したのではないかと挽地に言う。

復讐する側の立場になって考えてみました。
愛する恋人が無残な殺され方をした。殺した奴らを殺したいほど恨んだ。
だけど実行犯の命を奪うことでは恨みは晴らせない。

「飯田聖美を殺した犯人達から、彼らの愛する者の命を・・・」
と挽地が大柴の考えに結論をつける。

そうやって自分と同じ苦しみを犯人に与える。それが路木悟史の復讐だと判断した大柴。

ということはまだ殺人が続くということかと尋ねる挽地に
「次に路木悟史が狙うのは植村署長の身近にいる人間です」と断言する大柴。
一週間前のニュースで植村の後ろの群集の中に路木悟史が映っていることを説明する大柴。

「5月31日に賭けるしかありません。路木悟史は必ず現われる。
 署長の周辺に網を張って、路木悟史が行動を起こした瞬間に現行犯逮捕します」
という大柴の意見に、難色を示す挽地。
「路木悟史が逮捕されて一番困るのは署長なんだ。彼の自供で3年前の事件が明るみに出て
 しまう。それに署長が誰を一番愛してるかなんてこと、どうやって調べるつもりだ?」
その挽地の問いに大柴は少し苦笑して「署長本人から聞き出します」という。

大柴は植村を呼び出し、署長の身近な人間が交通事故にあったとカマをかける。
妻や息子の名前を出したあと、取り乱したように「雛子か!?」と大声をあげる。
詳しい情報はわからないという大柴に慌てた植村は
「松原雛子。宝良市内に住む29歳の教師だ。そうなのか?雛子は怪我をしたのか?
 病院はどこなんだ!?」
と矢継ぎ早に聞く植村に「申し訳ありません」と誰も事故にあってないと謝る大柴。

「松原雛子さんは無事です。今は・・・少なくとも5月31日までは・・・」
ワケありげに言葉を切る大柴に「どういうことなんだ!」と大柴の腕を掴んで詰問する。

署長が誰を一番愛しているのかを聞き出すための嘘だったと説明する大柴。
普通に聞いても本当のことは教えてもらえなかっただろうからと釈明する大柴に憮然とした
態度の植村。

大柴はひき逃げ事故のことは言わずに、逆恨みで署長が一番愛している人が5月31日に
命を狙われる可能性が高いので身辺警護をつける必要があると植村に言う。

その日を無事に過ぎればとりあえず危険は回避できたと思っていい、路木悟史の逮捕はそれ
から考えましょうと現行犯逮捕するつもりがあることを隠して植村に雛子の警護をさせて
欲しいと頼む大柴。

最初は憮然としていた植村だが刑事課だけで身辺警護するという大柴の説明についに
「わかった」とつぶやく。

植村と大柴は一人で暮らしている雛子のもとを訪れる。植村は雛子を娘だと紹介し、彼に
娘がいないことを知っていた大柴はいぶかしむ。
雛子も植村を「お父さん」と呼んでおり、二人は親子そのもの。

植村は雛子に、5月31日に署長の家族に危害を加えるという脅迫状が届いたので署の人間
に身辺警護をしてもらうと説明する。
怯える雛子に「その日は雛子の誕生日だし、お父さんも一緒にいてやるから」という植村の
言葉にホッと安心する雛子。

大柴は雛子の様子から彼女が盲目だと知る。
植村は家族には雛子のことを隠し、ずっと二重生活を送ってきたことを大柴に話す。

「雛子は私の全てだ」という植村に、路木悟史を必ず逮捕しますという大柴。
警察が警護しているのにわざわざ来ることはないだろうという植村に
「そうであって欲しいです」と言葉少なに答える大柴。

植村が雛子を学校まで送り迎えし、大柴達は後ろから車で追尾する。
学校内でも彼女の身辺を見張り、そのときに植村は大柴に雛子のことを話す。

大学時代につきあっていた女性が学生運動で機動隊に殴られて死ぬ間際に産んだのが雛子。
しばらくは女性の実家に預けられて、6歳頃にこの盲学校で初めて会ったと。
彼女の目は澄んでいてとても美しかった。見えていない目でまっすく自分を見ていた。
「雛子は私のすべてだ」と語る植村。

身辺整理をするから少しだけ離れるという植村に、なぜ若輩ものの自分にここまでさらけ
出してくれるのかと聞く大柴に、自分の若いころを思い出したとほほ笑む植村。
「ありがとうございます」という大柴の言葉を背に植村が学校を出ていく。

その学校の片隅で先生として働いている路木悟史の姿には誰も気づかず・・・

植村は自宅に戻り、妻と息子に一方的に離婚を切り出す。
「娘がいる。自分には守ってやらなければならない大切な存在なんだ」
と説明し、家を出た植村の家に挽地がやってくる。

挽地が尾花の遺書のことをほのめかすとその代償に再就職先を自分が都合してやったのにと
やり返す植村。
大柴の動きを知っていてなぜ知らせなかったと責める植村に、挽地は大柴が雛子をエサに
して路木悟史を逮捕するつもりだと教えるが、それは自分もわかっていたという植村。

「路木悟史が刑事課の人間に逮捕されればあなたも危ないです。路木悟史が逮捕されないで
 あの日をやり過ごさなければあなたの保身にかかわる。
 そのためには部下を出し抜かないと・・・」
そう挽地に言われて植村は・・・

植村は雛子と一緒に食事をしながら「これからはずっと一緒だ」と雛子に言う。
向こうの家は大丈夫なのかと心配する雛子に「そんな心配しなくていい」と言う植村。

31日が近づき、警備体制を強化する大柴に拳銃の携帯を許可する植村。
そして自分の拳銃も持ってくるようにと指示を出す植村をいぶかしむ大柴。

植村は季里子に電話をし、長谷部の妻も尾花の女も殺した犯人が自分のところにやって来る
と教える。全ては一本の線でつながっていたと。

「どんな男?」と尋ねる季里子に「路木悟史という若者だ」と殺した女性の恋人だったと
教える植村に季里子は一言「殺して」と頼む。
こっちを狙っていて果たせないとわかったらそっちに行くかもしれないからと忠告する。

「ご忠告ありがとう」といって電話を切った季里子は、娘の由海に電話をかけて無事を
確認する。

植村は雛子を連れて大型ショッピングセンターへ行き、大柴達には駐車場で待機するよう
指示を出すが、いつまでたっても植村たちが出てこないので大柴は様子を見に行く。

そのころ植村は別の車で雛子と一緒にショッピングセンターを出ていた。
植村は雛子を連れて人里離れた山荘へ行く。

誕生日にお父さんと一緒にいるのは嬉しいけど・・・といつもとは様子が違う父親の態度に
不安な雛子に、亡き母が好きだった星座の話をしてやる。
どうしてもっと早く雛子との生活を選べなかったのかと悔やむ植村。
出世のことしか考えず上司の娘と見合い結婚し、これ以上出世できないとわかった途端に
雛子を引き取って育てたと自分を責め、父親でいる資格がないと悔やむ植村を雛子がより
添って「そんなことない」と父親のほおにふれてほほ笑む。

刑事課では植村たちの居所をつかめず時間は夜の7時。
あと5時間程度で31日が終わなら、二人が朝になってひょっこり現われるのを待つしか
ないと捜索を諦める係長達。

山荘では雛子がバースデーケーキを吹き消し、植村が紅茶の用意をする。

雛子は自分がうっかり連絡もせずに学校を休んでいたので「先生に電話しなきゃ」と
電話をかける。
「ここに居ることは言わないように」という植村から注意され、雛子は電話の相手に
黙って休んだことを詫び、代わりにタカハシさんが入ってくれたと聞いて安心する。

タカハシさんて誰だ?という植村の何気ない問いかけに、雛子は少し照れたように
「この春から週に一度、放課後のボランティアに来てもらってる人」
と言うと、植村が
「雛子のボーイフレンドか?
(雛子が持っていた)ケータイも彼からもらったんだろう?」
と冗談まじりで聞いてくる植村に、慌てた雛子は
「いろんなアイデアを持ってる人なの」
とGPS付きのケータイを盲学校の生徒達に持たせれば、街中で迷子にならずにすむと
校長に提案したのも彼だと説明する。

発信する電波でどこにいるのかわかるという説明を聞いた植村は、今の電話で雛子の居場所
もわかるのか?と聞く植村にとまどいながら「そうだけど・・・」と答える雛子。

植村は拳銃を取り出し、雛子を部屋の一室に連れていき
「お父さんが絶対守ってやるからな」
と言い残して林の中へ行く。

「路木悟史、お前の素性はわかっている。出て来い!話し合おう」
という植村の言葉に答えるように林の中から路木悟史の声がする。

「どんな気持ちか、わかったろう?恐ろしいだろう?
 聖美はお前達に埋められるときにそういう恐怖を味わったんだ。
 解剖の結果を後で聞いた。聖美は車に轢かれて死んだんじゃなかった。
 聖美の口の中には土がびっしり詰まっていた。
 窒息死だった。お前達が生き埋めにしたんだ。そっちじゃない!」

路木悟史の声に惑わされ、林の中をあてもなく走りつづける植村。
そのころ路木悟史は雛子のそばにナイフを持って、迫っていた。
雛子が人の気配を察知して「お父さん?」と呼ぶが返事はなく・・・

「オレはここだ!おれが憎いならオレを殺せ!」
と叫びながら拳銃を一発撃つ植村。
そして我に返り、慌てて山荘へと戻るが雛子は既に息絶えていた。

「雛子!雛子ぉ!!」
絶叫する植村の声を後ろに聞きながら、路木悟史は静かに林の暗闇を歩いていく。

しばらくのち。
生きる気力を失った植村と、路木悟史と聖美が待ち合わせていたガス灯の下に立つ大柴。

大柴は挽地を訪ねる。
路木悟史が重要参考人として広域手配されたと聞いて「逮捕は時間の問題だろ」という
挽地にそうは思えないという大柴。
「路木悟史は、穴ぐらの中でじっと身を潜めて最後の標的に狙いを定めてるんじゃ・・・」
「あとは辰岡季里子が身辺保護を申し出るかどうかだな」
と警察が勝手にボディガードすることは出来ないなという挽地。

「オヤジさん、尾花の遺書を署長に渡したのはオヤジさんでしょ?
 逃走用の車を用意したのもオヤジさんでしょ?周りの人間を全部疑いました。
 あとはオヤジさんしか浮かばないんです」
警備会社が署長のコネじゃないかと聞き、今度はどんな見返りがあったんですかと聞く大柴
だが「否定してほしい。違うといってください!」
という大柴の言葉に、何も言わない挽地。

遺書の中身がそのときに明らかになっていれば、三人目の犠牲者を出さずにすんだかも
しれない。
「わかってるんですか?自分のしたことが?」

賄賂を受け取って自分と母を捨てた元刑事の父親に、オヤジさんのような刑事になって
父親を見返したかった。
「なのに・・・なんてザマですか!どうしてそんな風に自分を汚してしまうんですか?」
と挽地を責める大柴。

挽地は静かに大柴に刑事になって何年かと聞く。大柴が「5年です」と答えると
「もうしばらくは穢れないでいられるだろう」という挽地

そして「自首はせん。お前がわしを逮捕しろ」
そういい捨てて去っていく。

季里子は植村を訪ねる。
「向こうで母親に会えたかな?」という力ない植村の言葉に
「ひとみは本当の妹のように思えた。
 あの子が生きてたら私たちの人生も今とは違ってただろうな」
という季里子。

警察を辞めることにした植村に余生を送るには早いわよとからかうが、
「家族も手放し、仕事も手放し、あとは静かに死んでいく。あとはお前の番だ」
という植村の言葉に、季里子は力強く
「娘には指一本触れさせない」と言うが、植村は
「俺たち四人で一人の人間を殺した。罪と罰も四等分」
だと言い、帰る季里子に一年後に備えておくようにと警告する。

そして一年後。

辰岡季里子の娘由海は、会社の帰りに女友達に食事に誘われるが「ごめんね」と、
断って恋人が待つほうへと駆けていく。

その後ろ姿をバイクに乗った路木悟史が見ており・・・

<つづく>

<4>接近

辰岡季里子:吉田日出子
辰岡由海:麻生久美子

由海はつきあっている恋人からプロポーズをされる。
帰宅してそのことを母である辰岡季里子に嬉しそうに告げる由海。
結婚式には父も呼んでいいかと聞く由海に、季里子は聞いてみればいいと快く賛成する。
「子供が早く欲しいんだって。お母さんが孫を抱くところなんてうまく想像できないなぁ。
 でも見てみたい。お母さんには早くおばあちゃんになって、安らいで欲しいから」
(母子で会話しているそのとき、二人が暮らすマンションの外にはバイクに乗った路木が)

由海の恋人が夜道で複数の少年達に襲われ、財布を盗られる。そこへ助けに入ったのが
路木だった。
実は路木が現金を渡す代わりに彼らに襲うように頼んでいた。
少し離れたところで少年達から現金を抜いた財布を取り返して、少年達が去っていく背中に
「おい、帰るところがあるんだろう?」
と少年達に思わず声をかける路木。少年達は「説教かよ」とウザそうにするだけで・・・

これをきっかけに由海の恋人(林)とフリーライターの大城と偽って接近する路木。

大柴はこの1年何度も季里子に会いにきていたようで、
「今度はあなたの番です。また5月31日が来ます。娘さんは大丈夫ですか?」
と聞いてくるが、季里子はどうして自分がそんな恨みをうけるのか心当たりがないと大柴に
対してシラを切る。
署長だった植村が退職して肝硬変で入院したと告げる大柴。だが路木と自分たちとの関わり
については決して口を割らないという大柴。
タクシーで去ろうとする季里子に、路木は当日になって突然目の前に現われるのではなく、
事前に被害者に接近しているはずだから娘さんに注意して下さいと促す大柴だが、その忠告
を聞いているのかいないのか、季里子はさっさと行ってしまう。

鄙びたアパートに路木は潜伏していた。テレビもないらしくラジオがニュースを流すのみ。
壁には次のターゲットである由海の写真と復讐の対象である4人が一緒に写っている雑誌
の切り抜き、そして聖美が最後に取りにいった野草のドライフラワーと止まった時計が目に
つくだけであとは何もない部屋。

恋人に呼び出された由海は彼が襲われたことに驚くがたいした被害はなかったという彼の
言葉に安堵する。
そして大城(路木)と食事をすることになったから由海も一緒にどう?と聞かれて由海は
じゃあ同僚のヒロコを誘うと答える。

ヒロコの提案でディスコに行き、フロアで踊るヒロコと林。由海と大城はテーブルで話を
している。
由海は大城の職業について尋ね、大城は由海の母が有名な弁護士でしょう?と聞く。
別れ際酔ったヒロコを大城が送って帰ることになり、四人は別れる。

後日ヒロコに頼まれて大城を呼び出した由海は、ヒロコが大城が電話に出てくれないし、
電話を待ってガッカリしていると大城に伝えると「彼女とはつきあえない」という大城。
そして「好きな人がいるんです。その女性しか目に入らなくて・・・」という大城の言葉に
それならあの集まりには来るべきじゃなかったと怒る由海に、あの夜に出会ったんだから
どうしようもなかったと暗に自分が好きなのは由海だと大城から言われて動揺する由海。

恋人と一緒にいったコメディ映画でも内容が頭に入ってこない由海。

帰宅すると母がインスタントラーメンを作っていて、二人で一緒に仲良く食べる。
弱い人を助けるお母さんが自慢だったけど、たまに激しいお母さんをそばでみていると
こっちまでヘトヘトになりそうだったという由海に、
「お父さんについていけばよかったって後悔した?」と季里子が聞く。
「置いてくわけにはいかなかった。せめてあたしが傍にいないとお母さんがどうにか
 なっちゃいそうだった」
その言葉に嬉しくなった季里子。
食事中に「最近若い男と知り合いにならなかった?」と聞く季里子。
またその話?とウンザリした由海に、民事事件で自分に逆恨みしている青年がいて、由海に
危害が及んだら大変だからと言い訳をして聞く季里子。
由海は大城のことが頭をよぎったが、たいしたことではないと思い、恋人しか見えていない
と答える。
そんな娘に探るような視線を送る季里子。
ちょうど電話が鳴って恋人からだと言って自室で電話に出ようとする由海。
けれど相手は「非通知設定」で、大城だった。

「明日会いたい。夕方公園の噴水のところで待ってる」という大城に、会いたくないという
由海に「来てくれるまで待っている」と答える大城。
「あなたはもしかして私達家族を困らせようとする人?事件で母を逆恨みしている人?」
と聞く由海に、何のことかわからないと答え「待ってる」とだけ言い残して切れる電話。

路木は由海の写真をじっと見つめ・・・

路木が潜伏していたアパートの大家が、手配写真を見て警察に通報し大柴も急行する。
部屋には路木はおらず、壁にはあの雑誌の切り抜きと野草とわずかな荷物があるだけ。
バイクがないので彼が付近にいるのではと周辺を探す大柴。
そして車の通りの多い道を隔てた向こうにバイクを止めていた路木を見つける。
路木も大柴を見つけてバイクに乗って去ろうとするが、大柴が大声で彼に呼びかける。
「待ってくれ!宝良署の大柴だ!一度電話で話したことがある。君を殺人容疑で逮捕する」
そう言って被害者である3人の女性の名前を挙げる大柴。
「何の罪もない人間を殺した。どうして自分が殺されるのかわからなかったはずだ!
 君の恋人がそうだったように。全てをやり遂げたら君はどうするつもりだ?
 死んで、恋人のところに行くつもりか?必ず生きている君に手錠をかける!」

憎しみだけでどうやって生きていけるのか。どうやって苦しみに耐えているのかと聞く大柴
だが、路木はバイクで走り去っていく。

植村は手術をしたが他に転移しているらしい。
見舞いにいった季里子と長谷部に淡々とそのことを語る植村。
季里子の元に大柴が通いつめていることは植村も知っているらしく、もうすぐ身辺警護を
申し出るはずだという。
問題は路木が逮捕された場合、四年前のひき逃げについても再捜査が始まるだろう。現に
大柴はあの事件がきっかけだと疑っているという植村に、自信ありげに娘は自分が守ると
答える季里子。
植村は彼女が何を考えているのか察したらしく、学生運動の敗北をこの事件で払拭しよう
なんて思うなと警告するが、闘争心をあおられた季里子はニッコリ笑うだけ。

大柴たちは密かに由海を見守っていた。季里子から身辺警護の要請がないのでこうして
少人数で警護するしかない状況。
捜査本部を立ち上げるまでとはいかなくても、上層部も四年前の資料を集めているらしく
無関心ではいないようだと話す班長。
そして班長から挽地が警備会社を辞めたことを聞く大柴。孫が亡くなったことがかなり
ショックだったらしくそれが原因だという班長の言葉をただ聞いている大柴。

結局噴水の前で大城を待つ由海。そして大城から電話が入る。
「来てくれてありがとう。君が見える。でも君の傍には近づけない」という大城(路木)。
警察が由海の身辺にいることは承知していた路木は由海に、恋人が興信所を雇っていて、
その人間が君の傍にいるから近寄れないと嘘をつく。
「彼が・・・興信所?」
といぶかしむ由海は周囲を見回す。
「そのまま家に帰るんだ。必ず会いにいくから」
路木の指示のままに帰宅の途につく由海。大柴と班長は待ち合わせじゃなかったんだと
由海を尾けながら話している。

自宅のマンションの前まできた由海のもとにバイクで路木が突然姿を現す。大柴と班長は
慌てて走り出す。路木はビックリして突っ立っている由海に
「(バイクに)乗って!早く!奴らが来る!」
ためらう由海の後ろで足音がして、やはり自分は尾行されていたのかと知って、言われる
がままヘルメットを受け取り後ろに乗る由海。
二人は大柴と班長をかわして夜の闇に消えていく。

ショットバーで由海は路木に自分のどこがどういう風に好きなのか教えて欲しいと言う。
そのことがずっと聞きたかったのだという由海に、
「自分で壊したいのか、自分で守りたいのか、自分でもよくわからなくて揺れ動いている」
路木はそう答え、「結婚願望があったろ?」と由海に尋ねる。

「父が小さい頃に家を出たから普通の家庭ってものに憧れがあったと思う。父は母と同じ
 弁護士で、奥さんがいる人だった。それを母が力ずくで奪った。でも結婚生活は10年も
 続かなかった。相手を煽って引きずりこんでダメとわかったら簡単に手放す。
 母はそういう生き方しか出来ないの。可哀想でしょ?」
自分の結婚願望の理由を話す由海に
「何が起こるかわからない人生を結婚前に少しだけ経験しときたいわけだ。適当に冒険が
 したかっただけならここで引き返したほうが身のためだ」
路木は挑発するような口調で由海に言うと強い口調で
「あたしは、たとえあなたと一晩一緒にいたとしても何も変わらない」
「どこも壊れないってこと?」
そう言って自分の心を見透かすようにじっと見つめる路木の視線に耐えられず、視線を
そらす由海。

「ねえ、さっきから気になってたの。どうして8時になったままなの?」
そう聞かれて自分の壊れた時計に目をやった路木は
「止まってるんだ。もう長い間」とだけ答える。
季里子は帰宅の遅い由海のケータイに連絡するが応答はなく・・・時計が5月11日に
かわり、何となく胸騒ぎがする季里子。

バイクを走らせ、夜明け前までもう少しある仄明るい浜辺にやってきた二人は並んで座る。
「この海を子供の頃じっと眺めてた」
そう話し出す路木に「ここがあなたの故郷?」と聞く由海。その問いには答えない路木だが
話を続ける。
「遠洋漁業で帰らないオヤジを、ここで待ってたんだ。来る日も来る日も」
「船は見えた?」
「ああ・・・でもオヤジは乗ってなかった。航海の途中で事故にあってオヤジは海に投げ
 出されたらしい。でもオレは待った。オヤジは海の遠くから泳いで帰ってくると信じて」
「お母さんは?」
そう聞かれた路木は由海のほうをチラリと見てから
「・・・追いかけていった。『強い大人になって生きて欲しい』。
 書き置きの文句はたったそれだけだった。
 待つってことが普通だったんだ。でもオレはいつまでも待ってられた」
そう答える。そして話しながら聖美とのガス灯の下での待ち合わせを回想する路木。

「『待つ』。時を止めて待つ。オレにはそれができるんだ」
そして波打ち際へと一人歩きだす路木。(聖美を思い出しながら)
「オレはオフクロがいうような強い人間になったのかもしれない。待ってるよ、君を」
そうして由海のほうを振り返って
「君のような女性が現われるのを、オレはずーっと待ってた」
という路木に由海は「調子いいこと言わないで」と反論する。
「好きだ。好きだ」
そう言って自分のほうへと歩み寄ってくる路木に
「あたしは好きになんかならない」
そう言う由海だが、路木に抱きしめられるとこれ以上嘘はつけなくなり、彼の背中に手を
回して自分も抱きしめる。
そしてキスをする二人。

朝になってマンションの前までバイクで送ってくれた路木。帰り際に由海に
「君の心を乱してしまった。幸せになってくれ」
「簡単にあきらめるのね」
「もう二度と会わない。出来れば6月の花嫁が見たかった。じゃあな」
路木の言葉に安堵するはずの由海だったが・・・

車でずっと待機していた大柴と班長は彼女が帰宅してきたのを見て、路木がまだこの辺りに
いるのではないかと車を降りて手分けして捜す。

由海が帰宅すると季里子がとげとげしく「一晩どこにいたの?」と詰問する。
「もう婚約したんだから構わないでしょ」
と恋人のマンションにいたと嘘をつく由海。
「嘘よ、英一さんから電話があったわ。答えなさい。誰と一緒にいたの?」
なおも詰問してくる季里子に黙ってしまう由海。

「教えてあげる。その男の本当の名前を。路木悟史という頭のおかしい男。
 その男と寝たの?」
季里子は由海に路木が接近してきたことを察知して由海に危険な男の名前を教えてやる。
まるで、まんまと騙された上に寝たのかとまで聞いてくる季里子に反発して思わず
「お母さんと同じ行き方してるだけじゃない!人に嘘はついても自分に嘘はつかない。
 気持ちに正直なだけ。それの何が悪いの!」
そう反発した由海を思わずひっぱたく季里子。由海は何も言わずに自室へ行ってしまう。

大柴は周辺を捜索していてバイクを見つけ、近くの水道の蛇口から水が出しっぱなしに
なっているのを発見する。
近くの茂みに奥に路木の気配を感じて、銃を手にしながら近づいていく大柴。
でもその物音の正体はネコだった。
安堵した大柴は思わずホッとするが、そこを背後から路木に襲われる。
路木に殴られ、拳銃を取り上げられた大柴。自分に狙いを定める路木に「返してくれ」と
頼むが何も答えない路木。
そしてすぐに銃に興味をなくして、そばに捨てる路木。

「憎しみがあれば生きていける。
 自分が生きてるのか死んでるのか、わからない毎日だけど・・・
 5月31日が終わったら、また会おう」
前に大柴が路木に尋ねた質問に、今答えて路木は去っていく。
大柴は銃を拾って路木に狙いを定めて「止まれ!」というけれど、路木は去っていく。

警察は大柴が襲撃されたという名目を使って路木の連続殺人事件を裏で捜査できるよう
捜査本部を立ち上げる。
そして路木悟史を重要参考人として指名手配する。
その席で大柴は辰岡由海本人に協力をあおぐべきだと説明する。路木が逮捕されれば自分の
母親も捕まるような捜査に彼女が協力してくれるかわからないと上司が言うと、
「説得します。彼女の了解が得られれば路木をある場所におびき寄せることも可能です」
そう説明する大柴。

専門家に路木の精神状態を分析してもらったところ、犯罪を犯す人格と制御のきく人格を
分離する事ができるらしい。彼は一方では亡き恋人の復讐に走る連続殺人犯であり、もう
一方では四年前に時が止まったまま、今でも飯田聖美が約束の場所に夜8時に来ると信じて
いる男。この矛盾する二つの人格が彼の中で共存していると考えられる。

大柴の考えで、捜査班は辰岡由海に会い、ある連続捜査に協力して欲しいと頼む。

<つづく>

<5>告別

季里子は長谷部に頼みあるモノを用意する。これを使って正当防衛の筋書きかと聞く長谷部
に、警官を襲った凶悪犯だから、あとのことはなんとでもなると問題にしない季里子。
「母親が懸命に娘の命を守る。世間の奴らには何にも言わせない」
断固とした口調の季里子。
「俺たち、考えてみれば長くて苦しいつきあいだったな」
そう昔を回想する長谷部に「楽しいこともあった」と笑う季里子だが、「ほんのわずかだ」
と少しだけ笑う長谷部。
季里子は長谷部に「昔あたしのこと好きだった?」と聞く。
長谷部は自分だけじゃなくみんな季里子のことが好きで、季里子に誉めてもらいたくて
ずいぶん無理したと答える。
「何だか責められてるみたい」
照れてそういう季里子。
銃は餞別だという長谷部に「不吉なこと言わないで」と言い残して去っていく季里子の車を
見送る長谷部。

「ほんとに母が・・・その・・・飯田聖美って人を?」
状況証拠はそろっているという大柴の説明にショックをうける由海。路木悟史を逮捕すれば
母の罪はもっとハッキリするという大柴。
「路木悟史。それが大城さんの本名なんですね」

路木は潜伏場所で由海を隠し撮りした写真を見ながらナイフを手でもてあそんでいて。。。

季里子の弁護士事務所に由海がやってくる。ケンカしたあと気まずかったのに自分を訪ねて
きてくれて嬉しかった季里子は「どうしたの?あなたも残業?」と明るく尋ねる。
由海はそれには答えず、
「飯田聖美って人を殺して埋めたの?だから路木悟史はあたしを殺そうとしてるの?
 答えて」
単刀直入な由海の問いに驚いた季里子だが、素早く立て直して由海に整然と答える。

自分たちはいつもの仲間とキャンプに行っただけ。路木悟史は私たちが恋人を殺したと思い
込んでいるだけ。頭がおかしくなった男が事件を起こしているだけ。

そう答えて今度は季里子が由海に質問する。
「路木悟史はどこに住んでいるの?連絡方法は?」
由海が住所は知らないし、彼はもう二度と会わないと言ったと季里子にいう。
「それが彼の手よ。あなたは彼に会いたくてたまらない。その気持ちが昂ぶるのを彼は
 待ってるの。彼は必ず連絡してくる。会えばいい。その時ハッキリする。
 彼はあなたに凶器を突きつける。でも大丈夫、お母さんがあなたを守ってあげるから」
自信たっぷりにいう季里子につめ寄って、四年前のことが隠しとおせるわけないし、
警察だってそんなにバカじゃないという由海。
「奴らが掴んでいるのは状況証拠だけよ。日本で最高の弁護団をつけて戦う」
あくまでも自分の犯行を認めない季里子に悲しくなった由海。

「ねえお母さん、自首して」
「早く子供を産んで専業主婦になって孫をあたしに抱いて欲しいんでしょ?
 そういう生活はじっとしてたって手に入らないのよ。戦わないと手に入らないの」
由海の嘆願をアッサリとはね返して自分の正当性を主張する季里子。
そういう季里子が理解できず
「さよならお母さん、次に会うのは留置所の面会室かもね」
と言い捨てて季里子と決別することを選んだ由海。

由海は路木と行ったバーに一人でいる。自分のはめていた時計を外して時間をとめる。
そして恋人だった英一を呼び出し、路木の電話番号を教えて欲しいと頼む。
「オレにそれを聞くのか」という悲痛な問いには答えず、ただ「教えて、お願い」
とだけ言う由海に負けて番号を教える英一。
由海は教えてもらった番号に電話をかけるが、路木の応答はない。

辰岡母子の監視体制を後退させるように上司から言われて納得のいかない大柴。
季里子が人権保護団体にかけあって警察を動かしたらしい。
捜査員を半分に減らし、監視体制を100m後退させる方針になり、大柴は猛抗議するが
決定したことを覆せない。

由海は何度か路木のケータイにかけるが彼からの連絡はなく、由海があきらめかけた頃に
路木から電話が入る。
「もう会うつもりはない。そう言ったはずだ。もう電話しないでくれ」
「嘘、もう会うつもりはないなんて嘘よ。
 あなたは5月31日にあたしに会いに来るんでしょ」
その問いに路木は答えない。大柴たちは遠くから由海の電話の相手が路木だと断定する。

「5月31日になる前に、一度でいい、会いたいの。警察には注意する。
 必ず一人でいくから。お願い、場所を言って。言ってよ!」
由海の悲痛な声に「海だ」とだけ答えて路木は電話を切る。

電話を切った由海はすぐにタクシーを捕まえて移動する。その跡を追尾しようとした班長を
とめる大柴。
「会わせてやりましょう。5月31日までは大丈夫です。それに、早く彼女に気づいて
 もらわなきゃ。路木悟史に仕掛ける罠が彼を救うことになるって。
 そのためにはもっともっと彼女が愛してくれなきゃ」
そういって班長を阻止する大柴。

由海が前に来た海に着くと路木は先に来ていたらしく、彼に走り寄っていく由海。
「やっと会えた。あなたの本当の名前は・・・路木悟史?」
「ああ」
「あたしを殺したい?・・・もしあたしを殺すことで母の罪が償えるなら、もしあたしを
 殺すことであなたの悲しみが癒されるなら、殺して」
そう言って路木の両手を自分の首へと持っていく由海。
「他の誰でもなく、あたしのことだけを愛しているなら、どこかに連れてって。
 愛してないなら・・・今すぐ殺して」
そう言って目を閉じた由海の首に手をかけることなく自分を見つめる路木に、涙がでてきた
由海をそっと抱きしめて、頭を撫でる路木。由海は彼の胸で泣きじゃくり・・・

二人はそのまま近くのホテルで一晩を過ごす。
眠っている路木の頭を優しく撫でる由海。
すると路木が「聖美」とつぶやき、それを見ていた由海は・・・

上司から路木と辰岡由海を逃がしたことを厳しく叱責される大柴。
彼女は戻ってくるという大柴の主張の根拠を聞く上司。
「自分が彼の手で殺されれば、彼はすぐ死を選ぶことを彼女は知っています」
「じゃあ彼女は無理心中でもするつもりなのか?」
「いえ、辰岡由海は愛する人間を見殺しにするような女性ではありません。
 どんなカタチであっても路木悟史には生きてて欲しいと願うはずです」
大柴はそう説明するが、上司は相手にせず公開捜査に踏み切ろうとする。そうしてしまうと
路木悟史を追い詰めることになる、彼女が危険になるからと大柴は必死でとめようとする。

そこへ警官の一人が大柴に来客だと告げる。
公開捜査の件で電話をする上司と、それを必死にやめさせようとする大柴はその言葉に反応
しなかったが、
「大柴さんに、飯田聖美さんという方がお見えです」
といわれてはじかれたように入り口を振り返る。
そこにいたのは今までと雰囲気をガラリと変えた由海だった。
髪を飯田聖美のようにショートにし、飯田聖美が着ていたような服に身を包んだ由海。
「皆さんがあたしに望んでいるのはこういうことですよね?」
由海の問い掛けにうなずく大柴。
「この姿の奥にあたしがいることを彼に気づいてもらいます。
 気づいてくれたら、彼はきっと今の暗闇から解放されるはずです。違いますか?」
その問いにも大きくうなずくだけの大柴。
「ひとつ条件があります。あたしが、必ず、自首させます。
 だからギリギリまで逮捕するのは待って下さい」

飯田聖美になりきるために、大柴は彼女が勤めていた大学から彼女が路木に電話する場面が
入ったビデオテープを入手してくる。
「じゃあ待ってる。いつもの場所、いつものガス灯の下、夜8時でいいわよね」
声のトーンを調整しながら彼女の口調を練習する由海。
飯田聖美の両親から借りたワンピースを身につけた彼女は本当に聖美にそっくりだった。

28日。
捜査体制について話し合う刑事たち。彼女の希望通り、少し遠くから監視する体制になる。

29日。
入院していた植村の意識がなくなり、付き添っていた長谷部がそれを見守っている。

30日。
最終的な確認のために由海をガス灯に案内する捜査班。

そして31日。
大柴は家を出るときにお守りをみつける。家を出て行った父の上着に入っていたという母。
父の持ち物を処分しようとしている母とほほ笑みあう大柴。
家を出てすぐに挽地が自分を待っていた。
「今年もこの日がやってきたな」
その挽地の言葉にうなずく大柴。

二人は公園で話をする。
大柴が挽地に警備会社を辞め、お孫さんが亡くなった話を切り出す。
「3才だ。たった三年の人生だった。女房は報いじゃないかと言った」
挽地は妻にだけは自分がどんな刑事だったか妻に打ち明けていた。
「その言葉がちょっと答えた・・・なんて犯罪者の言葉にほだされたら刑事失格だぞ」
「あなたを公務執行妨害、証拠隠滅の罪で逮捕します。全てが終わったら・・・」
大柴の言葉に大きくうなずく挽地。
「どこで待ってればいい?」
そう尋ねる挽地に、ガス灯のある宝良駅前を指定する大柴。
そして挽地は帰っていく。

由海のもとに路木から電話が入る。
「もしもし、今夜会えないかな?もしもし、由海?」
「由海って誰?あたしよ悟史。雑貨屋の仕事が忙しくて今夜は無理って言ってたでしょ。
 だから研究室の予定入れちゃった。でも先生に言って何とかしてみる。
 ・・・何とか言ってよ。何とか言って」
しばらくして路木がやっと言葉を切り出す。
「・・・じゃあ、会おうか。久しぶりだし、会いたいな」
「じゃあ待ってる。いつもの場所、いつものガス灯の下、夜8時でいいわよね?」
練習した聖美の口調で由海がそう言うと
「ああ」と返事をする路木。
「じゃあね」
「じゃあ・・・今夜」
電話を切ってナイフを手に持ち、由海の写真を見つめる路木。

季里子はかつて仲間と過ごした大学を訪れ、昔を回想する。
死を選んだ友、生きながら朽ちていく友を思い「本当ね、死屍累々ね」とつぶやく。

ガス灯の周辺がよく見渡せる学生塾を捜査本部にして最終調整を行う捜査陣。
今日の天気が夜7時過ぎからどしゃ降りの雨になること、近くで地元チームのサッカーの
試合があり、そのサポーターたちの帰宅が8時ごろになる情報をもってきた班長。
「下手をすればパニックになる」と危惧する上司。

由海は飯田聖美の墓参りをする。
「これは、戦い。あなたとの。彼の心から・・・あなたを追い出すための・・・」
そんな由海をそっと見守る大柴。

植村は危篤状態に陥ったが、虫の息で「き・・・季里子は?」と傍にいた長谷部に聞く。
「あいつ一人だけだ。30年前をさまよってる」
そう答えるだけの長谷部。

7時45分。予報どおりどしゃ降りの雨が降り出す。
辰岡季里子が事務所にも家にも帰っていない情報が入るが、皆それほど気にしていない。

そして・・・ガス灯の下に傘をさして歩いて行く由海。
路木らしい人物がまだ見当たらないと周囲で張り込んでいる刑事たちから連絡が入る。

大量のサポーターを乗せていた急行電車が到着し、大量の人が改札から出てくる。
それに紛れていつの間にか由海のすぐそばまで路木がやってきた。
接近する路木に刑事たちが色めきたつが、由海との約束だからと待つように言う大柴。

「待っていてくれたんだね、聖美。淋しかったろ?一人にしちまってごめんな」
持っていた傘を捨てて由海に近づいてくる路木に少しだけ後ずさりする由海。
嬉しそうな路木の瞳がふと翳り、立ち止まる。
「・・・違う。聖美じゃない。君は聖美じゃない!」
「そうよ、あたしよ。わかるでしょ?」
由海の言葉に混乱して頭を抱える路木は、自分のポケットから何かを取り出そうとする。

その様子を監視カメラで見ていた捜査班はたまらずに「確保!」と路木の逮捕に踏み切る。
しかし人々に押されてなかなかすぐには近づけない。

路木はやっとわかったという表情で
「由海?」
そう自分に聞いてくれたのが嬉しくて傘を捨てて路木のもとに駆け寄ろうとした由海。
そのとき銃声がして路木がうめき、路上に倒れる。
路木の背後にいたのは季里子だった。
「娘に何しようっていうのよ」
長谷部から手に入れた拳銃でなおも路木を撃つ季里子、そして呆然としている由海。
警察が追いつき、やっと季里子を制止する。

由海はハッと我に返り、倒れた路木の傍に駆け寄る。
「悟史?悟史!わかる?あたしよ」
やっと現場についた大柴が見たのは倒れた路木に話しかけている由海だった。
そして・・・雨が上がり、季里子は連行される。

「由・・・海」
絶え絶えに自分を呼ぶ路木に由海は優しく「なあに?」と涙まじりの声で聞く。
「・・・ありがとう。待ってて・・・くれて」
聖美ではなく由海として路木が自分を見てくれたことを
「あたしこそ。ありがとう」
と言う由海。
「・・・もう、オレを待っちゃ・・・・ダメだよ」
別れの言葉を言う路木に「・・・イヤよ」と泣きじゃくる由海。
路木は由海の頬に手を伸ばし、由海も路木の頬を手で撫でてやる。
「・・・さようなら」
「イヤ・・・」
その言葉を残して路木は息絶える。
路木の傍にはあのときポケットから出そうとした由海の写真が落ちていた。

大柴は季里子を逮捕する。
「母親だもの」
季里子はそれだけつぶやく。

植村も8時過ぎに亡くなる。
長谷部はゆっくりと病室を出て行き、そばにあった公衆電話で110を押し
「警察ですか?お話ししたいことがあります」
と自首する。

止まったいた路木の時計がいつのまにか動き出していて・・・

群衆の中に挽地がいるのを見つけた大柴。

大柴
『彼らの長い戦いは終わった。
 だけど人間にとっては穢れずに生きていくことはそもそもの戦いなのだ。
 数年後。私はこの同じ場所で目にすることになった。
 生活という手ごわい相手と戦いつづけている人間の姿を・・・』

駅からおりた人が新聞をゴミ箱に入れている。
その見出は辰岡季里子に死刑判決が出たというものだった。

ガス灯の下で。
由海はじっと立っていた。
8時ちょうど。
少し諦めた様子で時計を見る由海とその様子を遠くからみている大柴。

「ママ~」
駅の改札から出てきた子供の声に笑顔で迎える由海。
「どうしたの?一人で来たの?」
「やっぱりここだった」
保育園の服を着た男の子にそう聞かれた由海は
「だって、今日はパパの命日だもん。パパとママが年に一度デートする日だもん」
「じゃあ七夕様と一緒だね」
「ふふっ。ホントだね」
子供は改札を振り向いて一緒に来てくれた保育園の先生に手を振る。
「センセ~ サヨ~ナラ~」
「じゃあ帰ろうか」

二人は手をつないで駅を後にし、大柴もそれを見届けてその場から立ち去っていく。

大柴
『雨の振る日も雪の降る日も、月の照る夜も照らぬ夜も。
 その街のガス灯は、戦いに疲れた人々を優しく見守っているという』

-END-
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