二次小説 ヨン キ・チョルの屋敷前にて

ここでは、「二次小説 ヨン キ・チョルの屋敷前にて」 に関する記事を紹介しています。
思ったよりも時間かかりました。
あーでもない、こーでもないと何度となくやり直して・・・
やっとカタチになりました。

これにかかりっきりになっていたので、12月中に台本の6話を
アップするのは絶対ムリになっちゃいました。
(楽しみになさっていた方には、申し訳ないです・・・)

1月にはアップできるように今からせっせと作業に励みますね~

05_チェ・ヨン2
 名を告げて待つ。訪問の目的を推し測って、趣味の悪い余興でも画策しているのか、そ
のまましばらく待たされる。
 ヨンは、屋敷の壁にもたれて座り、目を閉じる。自分が満足に動けないことは、既に向
こうにも伝わっているだろう。長く待たされるなら、無理に立って待つ必要はない。今は
少しでも身体を休めておきたい。
 座るとすぐにヨンは目を閉じて氣を溜めることに集中する。腹の傷は馬を駆った際の揺
れでかなり痛む。
 だが、座ってしばらくすると、前に施術を受けたときとは痛みが異なることに気づく。
倒れる前は高熱が出ているにもかかわらず、全身の血と肉は日増しに冷たくなり、感覚も
鈍くなり、ついには痛みさえほとんど感じなくなっていた。
 今感じている痛みは、喩えるなら全身の血や肉や骨の隅々にまで氣が巡り、その機能を
呼び覚まそうと揺り動かす際の痛みのようだ。
 事実、その痛みが過ぎた身体の部分は以前にもまして力が漲り、そうして体内を巡った
氣が丹田に集まってくる。
<この痛みは・・・悪くない>

 凍てつく寒さが身体を、そして心を悠久の眠りにいざなったはずだった。だが、身体に
じんわりとした温もりが広がり、その温もりが意識を呼び覚ます。
<氷雪の地に陽が射したのか?いや、違う。これはあの場所ではない>
 夢ではなく、本当に陽が射し込んでいるのだと瞼越しにわかった。このまま目を開ける
と、眩しさで目が眩(くら)む。
「眩しい」
 声にするともなく、つぶやきが漏れた。
「テジャン!」
 テマンは声をかけるとすぐに横に動き、ヨンの顔に射していた陽の光を自分の身体で遮
る。日陰を肌で感じたヨンが、ゆっくりと目を開けた。視界に入ったのは見覚えのある典
醫寺の天井と、泣き顔で自分を覗き込むテマン。
 呼ばれて戻った。それなのに、オレを呼んだあの方がいない。顔を巡らせるより先に、
気配でそれを察した。天井を見上げたまま、テマンに尋ねる。
「あの方は?」
 問われたテマンはすぐには答えられず、喜色満面の顔色を途端に曇らせる。まだどこか
眠っていたような意識が、急にはっきりする。
<あの方に何かあったのだ>
 上体を起こそうと腹に力を入れると、途端に強烈な痛みが走る。痛みに息が詰まったが、
テマンに背中を支えられて身を起こす。腹を庇って前屈みの姿勢で、矢継ぎ早に尋ねる。
「どこにいる?」
「こ、この前行った、あいつの屋敷です」
「何があった?」
「配下の奴らが、典醫寺へ乗り込んで来て、医仙を引きずっていきました」
「引きずって?」
 テマンの口から語られる言葉に、ヨンは緊張する。話の続きを促すヨンの顔は強張って
いて、それを見たテマンは慌てて詳細を話す。
「ご、御前会議があって、医仙も「出るように」と、チョナが・・・い、医仙は「イヤだ」
 って言ったんですが、仕方なく出て・・・そ、その日の夜遅くに、奴らが兵を連れて典
 醫寺に来て「医仙を渡せ」って。ウ、ウダルチと御医は「渡さない」と戦ったんですが、
 プジャンが来て「王命だから」って。あ、あいつがチョナに会って「医仙に診て欲しい
 重病人がいる」って。そ、それでチョナが・・・」
 テマンは、なるべく順序立てて経緯を伝えようとした。でも、そうしようとすると思い
出しながら話すことになるので、なおさら言葉がつかえる。
 事の次第がわかったヨンは、テマンに向かって無言で腕を突きだす。テマンは、弾かれ
たように俊敏な動きで隅の棚に行くと、畳んであったヨンの服を取って引き返す。
 だが、戻る途中で足がピタリと止まる。前とは違う。テジャンは昨日息が止まったのだ。
息を吹き返して、やっと目を覚ましたのに・・・テマンは、ヨンの身体を慮ってためらう。
 迷う気持ちで顔を上げると、手を伸ばしたままのヨンがこちらをじっと見つめていた。
結局テマンは、不承不承服を手渡す。
「テ、テジャン。テジャンは、医仙にまた腹を割いてもらって、悪い所を取ったんです」
 ヨンを手伝って、背中に服をかけてやりながら、テマンは説明する。
「そうか」
 さして興味もない様子で返事をすると、ヨンは自分の腹に巻かれた白い布にチラリと目
をやる。
「テジャン」
「上着」
 テマンの懇願を帯びた呼びかけを、ヨンは短い指示で無視する。
 受け取った上着をヨンが着始めると、テマンは足音を忍ばせて部屋を出る。その様子を
横目に見ながら、ヨンは無言で上着の袖に手を通す。
 服の紐を締めながら、黙考する。
<あの方が危ない>
 チョ・イルシンの吹聴や王宮のおしゃべり雀どもの噂話が、奴の耳に届いたのだ。奴は
火功の使い手に典醫寺の襲撃を命じ、同時に御前会議の手筈を整えていた。
 襲撃の目的は、新しい王に対する威嚇と挑発。王を揺さぶって、噂となっている「天の
加護」を御前会議に引きずり出し、一気に片をつけようとしたのだ。
 王は、イルシンの策を選ぶしかなかった。真っ向からの対立、無条件の屈服。そのどち
らを選んだとしても、王が王として生きられる道はない。奴の勢力を、イルシンが主張す
る「天の加護」で削ぐつもりだったのだろう。
<政(まつりごと)の争いに、あの方は巻き込まれた>
 ヨンは自分に怒りを覚える。
<不甲斐ない奴め。お前が倒れて目を離している間に、あの方は下界の政に巻き込まれ、
 奴と対峙する破目に陥ったのだ>
 宣仁殿の間でヨインがたった一人で立つ姿を想像し、ヨンは寒気と怒りに襲われる。王
の帰国にも馳せ参じることなく、奴の宴席で私欲を満たしていた奴らが拝顔できるような
方ではない。奴らの濁った好奇の目が、ヨインを舐め回すように見た。それを想像して、
歯を食いしばる。
 奴は会議の場を掌握して、思いのままに振る舞っただろう。だが、一方的に責められて、
黙っているようなヨインではない。敢然と立ち向かっただろう。オレでさえ恐ろしいと感
じた奴を相手に、怯えを押し殺して反撃した。そうしなければ、その場で命を奪われてい
た。
 ヨンは、握りしめていた拳を解く。溜めておくべき氣を、無意識に手に集めていた。も
う一度、氣を丹田に戻す。息を吐き出して、心を鎮める。
 そうして、屋敷の光景を頭に思い浮かべる。以前訪ねた折の配備から考えて、屋敷内に
いる私兵の数は百を超えるだろう。内功の使い手は複数。奴自身も内功の使い手で「相当
の実力者だ」と師匠は言っていた。
<救えるか・・・>
 不安がよぎる。腕抜きの紐を締めていた手が一瞬止まる。
<それでも・・・心は決めている>
 寝台に軽く座って、腕抜きの締め具合を調節しながら、思いついたように顔を上げる。
 火功の使い手に、木の盾は通用しない。再度の襲撃に備えて、宿舎から天界の盾を取り
にいかせていた。剣の隣に、その盾が立てかけてあることを確認する。あれは使える。
 立ち上がり、剣と盾を取りに行こうとしたところへ、テマンがチャン御医を伴って戻っ
てきた。チャン御医は部屋に入るなり、ヨンの手首を掴んで脈を診る。
 チャン御医とは5年来の知己だ。この男が自分をよく知るように、自分もこの男をよく
知っていた。
<だから、ヨインを託したのだ。それなのに・・・>
 怒りがこみ上げた。なぜ、むざむざと引き渡したのか・・・渡せばどうなるのか、わか
っていたはずだ。渡さずとも済むようにできなかったのか。
 腹立ちまぎれに、そんな言葉をぶつけた。その場にいなかった自分が、誰かを責めるの
はお門違いだとわかっていた。けれど、言わずにはいられなかった。
 或いは、自分をよく知っているからこそ、甘えたのかもしれない。その証拠に、チャン
御医は懐に補元丹を携えてやって来たのだ。
<見透かされている>
 そう思うと、何だか可笑しくなり、軽口も出た。チャン御医は笑わなかったが。「策は?」
と聞かれたので「正面突破」と答えた。
 それしかなかった。「王命」を出して渡したのだから、王は命令を安易に覆すことは出来
ないだろう。オレを欲しがる奴に屈したとしても、オレを操る手段としてあの方は縛られ
続ける。広大な屋敷内を密かに探索するには、体力の回復を待たなければならない。
 そうやって機会を待ったり、時を稼いだりして回り道をすれば、あの方を失ってしまう。
<だから、正面突破しかない。あの方のもとへ、真っ直ぐ進むのだ>
 王命を知らずにここに来たことにすれば、チョナにご迷惑をかけることもないだろう。
咎(とが)を受けるにしても自分一人で済む。
 一人・・・と考えて、ふと顔を上げる。視線はまっすぐ前を向いたまま、テマンが身を
潜めている場所の見当をつける。そしてまた目を閉じる。
 「来るな」と言っても、ついてきた。テマンは王命が出されたことを知っている。知っ
ていながら背けば大罪になる。だから置いて行きたかった。後をついてくるテマンを睨み
つけたが、反対にキッと鋭く睨み返してきた。そのまま無視して何も指示しなかった。テ
マンは、屋敷に到着する少し前で姿が消えた。
 今は恐らく、自分の傍近くの建家の屋根に潜んでいるはずだ。指示しなくとも、自分の
役割をわかっている。オレが敵を引きつけている間に、テマンは密かにヨインを探し出す
だろう。オレが訪ねて来たことで、奴は兵の配備を見直している。兵が密集している場所
に、ヨインがいる。偵察に慣れているテマンなら、それを読み取ってヨインを見つけ出す
だろう。
 奴は自分の意に沿わぬ者に興味がある。だから、あの方もしばらくは命長らえているだ
ろう。そのことだけが、今の心の支えとなっている。
 だが、それも奴の気分次第だ。気が変わればいともた易く命を奪うだろう。気が焦る。

 ヨンは、考えを中断する。足音も立てずに自分に近づく者がいる。気配で察知する。
 内功の使い手だ。相手は自分の少し手前で止まった。ゆっくりと目を開ける。白銀の髪
を持つ若い男だった。片手に持ったテグム(大笛)は武器だろう。
 どうやらこの男が案内役らしい。ヨンは立ち上がり、案内に従って歩きながら辺りを見
回す。遠くに見えるのは使用人らしき女。
 そして、ふと目を留める。幾重にも兵が配備された楼閣の上に、典醫寺の服を来た女性
がこちらに背を向けて座っている。どうやら椅子に縛られているようだ。
<あれは・・・>
 そう思うと同時に駆けだしていた。駆けだしてすぐに気づく。
<あれはヨインではない。罠だ・・・だが、好都合だ>
 内功の使い手を、こちらに引きつけておける。テマンがその間に、ヨインを探し出すだ
ろう。
<必ずや、ヨインを見つけ出してくれ>
 心の中で、テマンに哀願する。そして祈る。
<どうか、生きていてくれ・・・元気な姿で、今頃のこのこやって来たオレを怒ってくれ・・・
 頼む!>
そうしてヨンは敵の罠に手を伸ばす。

<完>
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コメント
この記事へのコメント
メリークリスマス♪

こちらこそよろしくお願い致します。
企画に初参加なので、ちょっとドキドキしています(笑)

記事の最後の会話シーン、いつもクスッと笑いながら読んでいます
大好きです。

年賀状は昨日の夜にやっと投函しました。
あとは・・・大掃除ですね
これはもう・・・ウンスと一緒です。(毎年ですが)
ええもう諦めの境地におります(笑)


2014/12/25(木) 03:52 | URL | おりーぶ #-[ 編集]
おりーぶさん、こんばんは!

年越し企画にご参加いただけると聞いて、もうすごくうれしいです。

お忙しいことと思います。申し訳ない…。
感謝のことばが思いつかないくらいです。

おりーぶさんの書かれる作品を楽しみにしています。

それでは、失礼します。
2014/12/24(水) 17:58 | URL | りえ #3/2tU3w2[ 編集]
おはようございます♪

一つのお話を書くのにめちゃめちゃ時間かかりました。
思っていることをカタチにするってすごく難しいんですね。
でもずーーっと信義のことを考えていられる、楽しい時間でもありました。

私の描いたヨンをかっこいいと言ってくださってありがとう♪
りえさんに褒めて頂いて・・・恐悦至極です。

りえさんもどうかお身体ご自愛くださいね。
(短期に2冊もですか!?くれぐれもご自愛を・・・)

2014/12/08(月) 04:52 | URL | おりーぶ #-[ 編集]
おりーぶさん、おはようございます。
ヨンとテマンの距離感が好きです。侍医のフォローの仕方も・・・。押し付けがましくなく、やるべきことをやる、という姿が、すがすがしいなあ、と思いました。
そして、骨太なヨンが存在感たっぷりで、やっぱりかっこいい!
すごく好きです。
寒さが増してきましたが、どうぞご自愛ください。
それでは、失礼します。
2014/12/08(月) 01:51 | URL | りえ #-[ 編集]
おはようございます。

コメントを読んで、「やはり」と思った次第です。
ma2008さんからお知らせ頂く近況の中に、覚悟を持って彼の国々の方々と
向き合っていらっしゃることが伺えたからです。
もしそうなるとしても最期まで自分らしくありたいという揺るぎない覚悟を
もっていらっしゃるからこそ、相手はひるむのかもしれません。
(勝手な想像ですが)小さな身体に秘められた確固たる思いが相手には
大きな存在感となって映り、簡単に手を出してはいけない人物に見えているのだと思います。

お花の件、先生が何も仰らなかった理由を伺って、
(これもまた勝手にですが)私も面映ゆい気持ちになりました。

新しい縁(えにし)が結ばれたのは、喜ばしいことです。
貴女の心配りが生んだ縁とは思いますが、うがった見方をすれば
骨董たちが貴女の縁を通じて、大切にして下さる方を探していたようにも思います。
「モノに命は宿る」を信じていますので(笑)

ブログのタイトル通りでパスポートは持っているものの未だにどこにも行ったことがなく、
この先数年は行く機会がないようです。
海外の空気感はニュースを通しておぼろげに感じる程度ですので
いろいろと教えて頂けると大変有難いです。

ps
中国服の件、驚きました。
なるほど。
マンパワーがすごいのですね。
でも、そのパワーがあるから却って工夫しないのかもしれません。
力で圧倒できる場合、それが一番簡単ですから。
2014/12/04(木) 05:05 | URL | おりーぶ #-[ 編集]
このコメントは管理人のみ閲覧できます
2014/12/02(火) 22:19 | | #[ 編集]
おはようございます♪

「思い入れ」。
本当にそうですね。
私の想いをぎゅうぎゅうと詰め込みました(笑)

ヴェトナムでの出来事、驚きました。
彼らはいつma2008さん用の中国服を用意したのでしょうか。
慌てて急いで作らせた?飛行機で誰かにもってこさせた?
それとも最初から土産がわりにトランクに入れていた?
いろいろ推察してしまいました。
いずれにしろ貴女の行動に彼らがあたふたとしたのは間違いないでしょうね(笑)

『何処に行っても、相手より一枚上に行かないと言う事も生きる事も難しい。
 だから言いたいことが言えるように、自分が生きるために相手の上を行く』

相手の上を行くためには、相当の努力を積まなければなりません。
ですが、その努力で得たものは自信と誇りになります。

貴女がその自信と誇りを持っているからこそ、相手をぎゅうと言わせることが
出来るのだと思います。

貴女がすごく誇らしいです。
2014/12/02(火) 06:01 | URL | おりーぶ #-[ 編集]
このコメントは管理人のみ閲覧できます
2014/11/30(日) 20:24 | | #[ 編集]
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