ドラマ「信義」関連の記事を更新しています。「韓国には行ったことがありません」からブログタイトル変更しました。
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ヨンスは、その日の朝、プジャンの許しを得て王宮の門外へと出た。
常ならば、その日に向かうことを遠慮していた場所に、今は歩みを
進めている。今日。朔日(ついたち:新月の日)は、自宅にホンイが
やって来る日だった。

入隊を数日後に控えたある日、母が「月に一度、ホンイにカヤグムを
教えることにした」と言い出した。気づけば、直ぐさま問いかけていた。
「何ゆえに?」と。藪から棒に飛び出した話に対する驚きと、己に断りも
相談もなく決まったことに対する反発。それらがない交ぜになって不機
嫌な声音になった。
「師妹に頼まれたからですよ」
母は、こちらの機嫌など全く意に介さず、平然と答える。「師妹」という
言葉に、そもそも双方の母親が姉弟子と妹弟子という縁があったから
結ばれた婚約だったことを思い出す。
「なぜ母上が?あちらの母上様もカヤグムはお出来になるはず」
「もちろん、日々の稽古は師妹がつけていきます。けれど、師妹も長らく
カヤグムから離れていた身。そのことを不安に思っているらしく、私の元
にも月に一度稽古に来させて欲しいと頼まれたのす。それで、「そういう
理由であれば」と、引き受けたのです」
「母上。私たちは仮初めの許婚なのです。私が帰宅した際に鉢合わせし
てしまえば、互いに気まずい思いをするのは必至。いずれ縁が切れる
間柄なのですから、疎遠なままでいるほうが両家のためではないですか」
先方にも既に「諾」と返事をしたことを、己が「否」と覆すことは難しい。
それを承知の上で、重ねて言った。己と顔を合わせれば、ホンイは居心
地の悪い思いをするに違いない。気を遣わせる存在になどなりたくなかった。
「そうかしらね。お前の顔を見れば喜ぶと思うのだけれど。それに、入隊
すれば、お前は若い頃のお父様と同じように、月に二、三度帰ってくるか
来ないかでしょう?鉢合わせすることはありませんよ」
「母上、戯れ言は結構です」
こちらが懸命になればなるほど、母はなぜか面白そうな顔つきをする。
それも歯がゆかった。
「わかりました。では、朔日をホンイの稽古日とします。会いたくなければ、
お前が心を配りなさい」
母がニコリと笑ってそう言ったとき、それもまた決まっていたことだったのだと
悟った。

それ以後朔日には家に寄らぬよう、心に留めていた。もっとも、母の言葉通り
月に二度も帰ればいいほうで、下手をすれば一度も家に戻らぬ月もあったため、
その取り決めは己にとって、さして負担に思うものではなかった。

そんな母とのやりとりを思い出しながら、ヨンスは通りを黙々と歩く。大通りから
小路へ入り、しばらく歩くと、ようやく家の石塀が見えてきた。と、ヨンスの足音が
ピタリと止まった。
カヤグムの音色がかすかに聞こえる。頭を巡らせて音色が聞こえる方角を見定
める。やはりそれは、家の方から聞こえてくるようだ。
『母が弾いているのだろうか?それとも・・・』
石塀の角まで来ると、音色はより鮮やかに、幅をもって耳に届く。それは、今まで
聞いたことのない旋律だった。ヨンスはその場で身じろぎもせず聞き入る。
どれくらいの間そうしていたのか。背後からガタガタと騒々しい音が聞こえ始め、
その音は段々と大きくなると、遂にカヤグムの音をかき消してしまった。惜しい気
持ちで振り向くと、半分だけ荷を積んだ荷車がゆっくりと傍を通り過ぎていくところ
だった。荷車を目で追った先に、家の門口が見える。
カヤグムの旋律が再び聞こえてくると、ヨンスはゆっくりと歩きだした。けれど、その
足は家の門口には向かわず、石塀沿いの細い脇道へと入っていく。胸丈ほどの塀の
向こう側の庭にある四阿に音色の正体を見る。
果たして、四阿には母と若い娘がいた。二人は向かい合って座り、若い娘がカヤグ
ムを弾いていた。こちらからは横顔しか見えないが、その娘の面差しに覚えがあった。
ヨンスは瞠目する。
『もう「あの子」とは呼べぬ』
すらりとした背に、腕に、伸びた髪に、カヤグムの弦を押す細く長い指に、そう思った。

<つづく>

そうです。
続くのですヨン。

あ、ちなみに今回は企画の看板をちょっと下ろしております。
【シンイで年越し企画2015】
この看板を年末に掲げるといろいろややこしいかと思いまして^_^;

来年も「紅楼夢」をどうぞよろしくお願い致します。
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吊り灯篭に火が灯される。
澱みのない冷たい空気は生まれたばかりの光を真っ直ぐに辺りへと放つ。

坤成殿まで薬湯を届けた帰り道、トギは回廊の吊り灯篭に順番に火がともされるのを
横目に見ながら幾分か速足で典醫寺へと向かっていた。
『遅くなった』
王妃様は王様の元に行っていたらしく、かなりの間待たされてしまった。来る前に西へと
傾きかけていた陽は、今はすっかり姿を隠している。
陽はなかなか昇らず、もったいぶって昇ってきたかと思えば、中天を過ぎると役目は果た
したとばかりにいそいそと山の彼方に戻っていく。風が乾いているせいで、薬草を干せば
すぐに干からびて仕事がはかどる。それでも水の冷たさに手が切れる季節の到来に憂鬱
さは拭えない。しかも、夜の訪れが早いので、追い立てられるように用事をこなす日々で
何となく気忙しい。
そんな冬の始まりだったが、今日の典醫寺は急を要する患者も、重篤な患者もいないことも
あって、いくらかゆっくりとした気が流れていた。先生も、自室で書の整理をするといったまま
部屋にこもっていた。
典醫寺へと戻ってきたトギは、先生の部屋が暗いことを確かめると、『やっぱり』とため息をつく。
すぐに手蜀を持ってチャン・ビンの部屋へと向かう。扉を開けると、中は外とそう変わらない
ほど寒かった。案の定、薄闇の中で書を読んでいる先生の姿があった。
書を読み始めたら、他のことが疎かになる。凪いだ湖面のように感情の揺らぎが少ない人だが、
湖底ではこんこんと医学に対する探求心が涸れることなく湧き続けている。
『こんなに暗いところで読んで、どうして気がつかないんだろう?』
薬草を探しに出て夢中で山の奥まで分け入り、夜になっても戻らなかったせいでウンスとチャン・ビンを
随分と心配させた自分のことを棚に上げて、呆れているトギだった。
部屋に自分が入ってきたことにも気づかないチャン・ビンにトギが近づく。卓に座って書を読み
ふけるチャン・ビンの、その手元の書を手蜀で照らしてやる。
ようやく気付いたチャン・ビンがいくらかぎこちなく顔を上げてトギのほうを見た。明かりの下、首に
広がる引き攣れた傷跡が生々しい。
「もう夜か?」
チャン・ビンの傷跡から目をそらすと、トギは黙って頷く。
火を使う女と笛を吹く男は、医仙の居場所を聞き出そうとして先生を拷問した。居場所を吐くために、
首への拷問は手加減されたらしい。それが紙一重で先生を助けられた理由だと、医仙は後に教えてくれた。
知らぬ間に頬を伝うものがある。
『貴方が居てくれて嬉しい』
不意に想いがこみ上げた。チャン・ビンはそんなトギを見つめると、慌てる様子もなく傍にあった書を
手元に引き寄せて、それを開いてトギに見せる。
「トギや、この薬草を知っているか?」
優しい声に誘われて、トギがその書を覗き込む。書には特徴を差し示す挿画が添えられていた。
『何だろう?葉は濃い緑だけど、こんな形は・・・』
泣いていたカラスがもう薬草のことを考えている。チャン・ビンは声を立てないよう、クスッと笑った。

時折揺れる暖かい灯のした。
冬の夜はゆっくりと更けていく。

////
字数制限に泣いた作品。(といっても途中までしか書けていなかったんですが)
チャン・ビンは今回は生きている設定にしました。
(その時々で設定を変えるワタシです)

裏設定ですが、ウンスとチャン・ビンに頼まれてトギを山奥深くまで探しに行ったのはテマン。
トギはちゃんと洞のような場所を見つけて火を焚いて、獣から身を守っていました。
迎えにきたテマンにびっくりしたトギに、焚き火の薪を投げつけられてヒョイと避けるテマン。
なーんてね。

乙パの際のセリフを少し使わせて頂きました。
「知らぬ間に頬を伝うものがある」by蒔絵さん
ありがとうございました♪

「あ、そうだ。テホグンたち、今日夕方に戻ってくるらしいぜ」
スリバンのシウルが、隣の卓でクッパを食べていたウンスにそう告げた。
シウルは、王宮まで使いに出ていて、先ほど戻ってきたところだった。
ウダルチテジャンのチュンソクから言伝を預かってきており、それをマンボたちに
伝えたあとで、ようやくそのことを思い出したようにだった。
「それを早く言いな」
クッパを食べていた匙を宙で止めたままのウンスを横目に見ながら、マンボ姐は
シウルの頭をベシッと叩く。
「痛っ!なんだよぉ。言伝は真っ先に伝えろっていつも怒るくせに」
シウルは、避ける間もなく叩かれて大げさに痛がる。ふと我に返ったウンスは、
匙を再び口に運ぶ。次いで、残っていたクッパを大急ぎで胃に流し込むと、
「ごちそうさま」と告げて席を立った。
『帰って来る』
ウンスは、居てもたってもいられず、店の外へ出た。一歩踏み出した途端、
冷たい雪混じりの風に風防けが煽られて大きくはためく。クッパで暖まった身体に
たちまち震えが走る。
『王宮があそこだから、北の門はえっと・・・』
ウンスは風防けを合わせてぎゅっと掴むと、方角の見当をつけて走り出す。
そんなウンスの傍を、さっと誰かが走り抜ける。
「こっちだぜ」
シウルがニヤリと笑って、北の門へとウンスを先導する。

ヨンは、十日前からウダルチ数名を連れて紅巾軍の斥候(せっこう)に出ていた。
北門に辿り着くと、思った通り出迎えのウダルチが数名待機していた。
「奥様!」
シウルに目を留め、その背後から現れたウンスに驚いてウダルチらが一礼する。
ウンスは、「こんにちは」と通り過ぎざまに挨拶を返しながら、ソジャン(組長)を目で探す。
と、頭上から「奥様」と呼ぶ声がした。見上げると、城門の上にある見張り場からミョンホが
身を乗り出してこちらを見ていた。
「ソジャン、上がってもいい?」、そう問う間も惜しかった。ウンスは、さっさと見張り場へと
上る階段を上る。登りきったところで城門の警備兵二人が押しのけようと槍の柄を交差させる。
すかさずミョンホが「お通ししろ。テホグンの奥方様だ」と、助け船を出してくれた。
「ありがとう」
ニコッと笑ってミョンホと警備兵たちに礼を言い、すぐに門の外の街道へと目をやる。それらしき
人影を探して必死で目を凝らすウンスの背後から、「あそこです」と、ミョンホが気を利かせて指し示す。
そこには、米粒ほどの集団が見えた。皆が風防けのマントを被って馬に乗っているが、ウンスには
どの人影がヨンなのかすぐに見分けがついた。ヨンは頭巾を深く被っていて、表情は全く見えない。
項垂れているようにも見えた。
『疲れているのだろうか?それとも・・・誰かを喪ったのだろうか』
ウンスの心に緊張が走る。
集団はゆっくりとこちらに近づいてくる。冷たい風に当たり続けた身体はとっくに芯まで冷えていた。
それでも、その場所から動けなかった。

そのとき、曇天の空から、一条の階(きざはし)が地上に架けられた。

光は見る間に広がり、やがてヨンたちの頭上にも降り注ぐ。光の温もりを受けたヨンは、ゆっくりと頭を
もたげると、頭巾を外して空を見上げる。出かけたときと変わらぬ夫の顔がそこにはあった。
『よかった』
安堵の息が漏れる。同時に身体の緊張が一気にほぐれた。と、ヨンがに気づいたのか、こちらに視線を
定めてきた。ウンスはすうっと息を吸うと、
「おーい!おっかえりぃ~!!」
と声を張り上げて、大きく手を振る。
ヨンが驚いているのが、遠くからでもわかった。もうすぐ会えるのだと思うと、嬉しくてクスクスと笑いが
込み上げる。
「こんな寒い日に、ここで何をしているのか」
『あなたは、開口一番にそんなわかりきったことを聞いて、私を叱るのよね』
それでもいいの。構わない。
「おかえりなさい」
苦い表情をしているだろう夫を、笑顔で出迎える準備はとっくにできていた。

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