ドラマ「信義」関連の記事を更新しています。「韓国には行ったことがありません」からブログタイトル変更しました。
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   慈雨 ~ほぼ信義~ アメブロにて二次小説の記事を更新中です。  
 
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彼女は、コ・ホンイと名乗った。

 ウンスは、メヒャンの隣に座ったホンイを見つめる。先ほどのホンイは、ず
いぶんと感情が昂ぶっていたようだったが、今は落ち着いた様子でウンスと卓
を挟んでいる。
 もっとも、そう装っているだけで、心の中では感情の波が荒れ狂っているの
かもしれない。ホンイは、手に提げていた紅色の風呂敷包みを膝の上に載せて
いて、その結び目を命綱のように両手でぎゅっと握りしめていた。
 ウンスは、ホンイが口を開くのを待っていた。ホンイは、一旦は意を決した
ように顔を上げたものの、語り始めるまでには及ばず、諦めて頭を垂れた。そ
んなホンイに、メヒャンが先に優しく声をかける。
「ホンイ」
 名を呼ばれてようやく顔を上げる。メヒャンを見つめると、膝に置いた風呂
敷包みに視線を落とす。そうして、包みをぎこちなく撫でたあと、その包みを
卓の上に置いて、ウンスの方に差し出す。
「医仙様。この包みを兄様(あにさま)にお渡し下さいませんか」
 その声は、多少震えてはいるけれど、ちゃんとウンスの耳に届いた。
「この包みを?」
「はい。中には、兄様から頂いたものが入っております。私の代わりに、兄様
に返して頂きたいのです」
「中身は何?ううん、ちょっと待って」
 ウンスは一旦会話を止めて、メヒャンの方を見る。この流れでは、包みを預
かってキム・ヨンスに渡すということになる。そうなったら、「彼をここに呼
び出して欲しい」というメヒャンの話と食い違うのだが。
『どういうこと?』
 目で問いかけると、メヒャンは苦笑していた。ホンイがそんなことを言い出
しても驚いた様子はない。メヒャンはホンイとヨンスを会わせてやりたいと思
っているけれど、ホンイは会いたくないということだろうか。
 それなら、先ほどのホンイのあの言葉は何だったのだろう?
「ホンイさん。あなた、さっき私に「会わせて欲しい」って言ったわよね?そ
れなのにどうして?」
 その質問は予想していたらしい。
「はい。会って一言お礼を申し上げたい気持ちがございました。でも、それは
間違いでした。そんなことをすれば、兄様にご迷惑をかけてしまうかもしれま
せん。どうか、先ほどの私の言葉はお忘れ下さい」
 ホンイは先ほどとは反対に、スラスラと理由を述べた。何だか流暢に語られ
ると、その言葉を疑ってしまう自分がいた。
『どっちなんだろう?会いたいのか、会いたくないのか』
 ウンスは、ため息をつく。ホンイは忘れてくれと言ったが、会わせて欲しい
と言ったときの、彼女の切実な表情は目に焼きついてしまっている。
「ホンイ、お会いして心の区切りをつけるのではなかったのですか?そうしな
いと、前には進めませんよ」
 メヒャンが優しい声音で諭すように語りかける。ハッとして顔を強張らせた
ホンイだったが、次の瞬間には、はらはらと大粒の涙を零していた。
「怖いのです。会っても・・・私を・・・憶えてなど・・・」
 口を開いた途端、押し込めていた想いも一緒に溢れたのだろうか。途切れ途
切れにそれだけ言うと、あとは部屋にホンイの嗚咽だけが響く。メヒャンがホ
ンイの背中を優しくさすってやっているのを眺めながら、ウンスは考えていた。
 ホンイは、ヨンスに会いたいのだ。だけど、もしヨンスが自分のことを忘れ
ていたら・・・そのことを目の当たりにするのが怖いから会いたくない。メヒ
ャンは、二人で話す場を設けようとして、ホンイは尻込みしていたということか。
ようやく、ウンスも状況が飲み込める。
 ふと、卓の上にある包みに目がいく。託そうとした中身が急に気になった。
「ところで、あの包みは何ですか?」
 今はホンイに訊けないので、メヒャンに尋ねる。
「文箱です。中に入っているのは、ヨンス様とこの子のホンソ(婚書:혼서)です」
「えっと・・・つまり・・・」
 びっくりして内容がすんなりと頭に入って来ない。鳩が豆鉄砲を食らった
ような顔のウンスに、メヒャンが「ええ」と微笑む。
「ホンイはヨンス様の許婚です」

<つづく>

ホンイとメヒャン。
オリジナルのキャラにすっかり振り回されております。

「もののけ姫」で、アシタカが村を出なければならなくなったときに
別れをいいにくる女の子カヤが、彼のことを「兄様(あにさま)」と
呼んでいました。
彼女はアシタカの許婚(いいなずけ)だったそうです。
それを真似て、ホンイにはヨンスのことをそう呼ばせてみました。

次回はもうちょっと早くアップできますように・・・(我が事なのに神頼み)
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「手を貸して頂きたいのです」
 メヒャンにそう言われたウンスは、「ハーッ」と大仰にため息をつく。それ
見たことか。イムジャ一人で出かけさせたら、早速面倒に巻き込まれたではな
いか。ヨンの叱責が今にも聞こえてきそうだ。
「面倒があっちから歩いてきたんだから、私のせいじゃないわよ」
 ウンスは、ぶつぶつと独り言を言うと、椅子に浅く腰掛け直して椅子の背に
もたれかかり、腕を組む。卓の下で足を組んで、短刀にすぐ手が伸びるように
しておくのも忘れない。
「イヤだと言ったら?」
 怯えを隠しつつ、虚勢を張るウンスを見ていたメヒャンがスッと立ち上がる。
そうして、クルリと振り返ると部屋の隅にある棚から何かを取り出す。ウンス
は、目でその動きを追いかけながら身構える。こちらに向き直ったメヒャンは、
風呂敷包みを持って卓のほうに戻ってきた。
「先ずは、こちらをお返し致します」
 メヒャンがウンスの傍に立ったまま包みを解くと、緋色の生地が目に飛び込
んできた。
「これ・・・」
 それは、自分が注文していた晴れ着だった。ウンスが見上げると、すまなそ
うな顔をしたメヒャンと目が合う。
「こちらに来るよう仕向けましたこと、深くお詫び致します。それと、医仙と
称される方が、どのような御方なのか。それを知りたくて、先ほどわざと無礼
を働きました。重ねがさね申し訳ございません」
 そう言って頭を下げた。人質だった晴れ着は手元に戻り、詫びの言葉も聞いた。
「これまでのことはチャラにして、話を聞いて欲しいってわけね」
 察しのいいウンスの言葉に、メヒャンはふふっと笑う。
「見目麗しいだけでなく、お心の強い、頼もしいお方ですこと」
『歯の浮くようなお世辞言っちゃって』
 喜んだりしないわよと口元を引き締めるウンスとは逆に、メヒャンは幸せそ
うな心地に包まれているかのように、自然な笑みを口元に浮かべる。
『あらっ?この人、本気で思ってるのかな?』
 メヒャンの態度にウンスが揺れていると、
「ウンス様、どうか私の話を聞いては頂けませんか?」
 と、メヒャンが本題を持ち出す。
「聞いたあと、手を貸せないと言ったら?」
「お引き留めは致しません。そのままお帰りになって下さって結構です。ただ、
私が話した事柄については、口外なさらないとお約束して下さいませ」
 ウンスはしばし考える。
 話を聞かないで、このまま席を立つという手段もある。ヨンがいたら、間違
いなくそうしていたはずだ。ウンスが面倒なことに巻き込まれないためには、
それが最善の手段と考えるからだ。けれど、今ヨンはウンスの傍にいない。
『あの人は傍にいない。危険な匂いは・・・なさそう』
 ウンスの中で、好奇心がムクムクと芽生えてくる。
『妓楼の女主が私に何の用があるのだろう?』
「イムジャ、自分から面倒に首を突っ込んでいるではないか」
 隣にヨンがいれば、そう言って止め立てしただろう。けれど、あいにくと今
はウンスを止める者などいない。
「じゃあ、聞くだけ聞くわ。私に何をして欲しいの?」
 いつの間にか、卓に肘をついて前のめりで話を聞いているという自覚が、ウ
ンスにはない。
「はい。ウダルチ丙組のキム・ヨンス様を、今夜ソガン亭に呼び出して頂きた
いのです」
「キム・ヨンス、キム・ヨンス・・・」
 ウンスは、ウダルチ全員の組や顔、名前を、まだ覚えきれていない。組のシ
フトによっては、顔を合わせる機会が少ない者もいる。キム・ヨンスという名
前から、ウンスの脳裏にようやく一人のウダルチが思い浮かんでくる。
 もっとも、記憶にあるのは、背が高くて、物静かだという印象ぐらいで、あ
とは、よく兵舎の片隅で本を読んでいたことぐらいだ。若い子たちが兵法の内
容について彼に尋ねていたぐらいだから、きっと頭がいいのだろう。
「彼に何の用?」
 途端に用心深くなって低い声が出る。あの人が大切にしている子たちだ。
呼び出して何をするつもりなのか。
「話したいことがございます」
「話?」
『男女関係のもつれ?それとも金銭トラブル?』
 心配な表情を浮かべるウンスに、メヒャンが慌てて言う。
「ウンス様、用があるのは私ではございません」
「じゃあ・・・」
 ウンスが問い返すと、メヒャンが頷く。そして、内廊下の戸口に向かって
「お入りなさい」と声をかける。すると、扉の向こうから「はい」と返事がか
えってきた。
 扉が開いて一人の少女が部屋に入って来る。長い黒髪を後ろで一つに束ね、
生成り色のチマチョゴリを着ていた。
「ホンイ(紅伊홍이)と申します。私の知人の娘で、歳は十五になります」
 顔を上げたホンイは、緊張しているらしく、顔が強張っていた。そうして可
愛らしい大きな目でウンスをじっと見つめた。
「医仙様、どうかお願いです。兄様(あにさま)に会わせて下さいませ」

<つづく>
 妓楼に到着する前のこと。

 辻をあと二つほど行けば妓楼というところで、気配に気づいたヨンがふと立
ち止まる。すると、灯りもない脇の小路からマンボがのっそりと姿を現す。
「来たか」
「師叔」
「ちょっとこっち来い」
 マンボに手招きされ、ヨンは通りにウダルチを残して小路へ逸れる。
「あの方は?」
「無事だ」
「囚われているのか?」
「いいや。店の女どもと仲良くやってたぞ。しばらく物陰から様子を見てたん
だけどよ。こりゃ、大丈夫だと思ったんで、出ていって話したのさ」
 前のめりで尋ねてくるヨンの心配そうな顔つきと、さっき様子を見てきたあ
の娘(こ)のはしゃいだ姿。その落差に、マンボは口元が緩む。
『今からそんな顔してるんじゃあ、あの娘を見たときの、お前の顔が見ものだ
な、こりゃ』
 「アジョッシ、あの人には内緒にしてね」と頼まれてるから、教えられねえ
けどよ。
「何があったのか、聞いたか?」
 マンボは、ウンスが妓楼に行くことになった経緯をかいつまんで話す。
「その主(あるじ)の目的は?」
「ウダルチさ」
 マンボはチラリと通りのほうに目をやる。
「やはり」
 驚きはなかった。同行する者を名指しされているのは狙いがあると思っていた。
「ウダルチの若い衆に用があるそうだ。ただ、伝手(つて)がないもんで、ど
うしようかあぐねていたところへ、あいつらがあの娘を警護しているのを街中
で見かけたらしい。それで強引に渡りをつけたんだとよ」
 ヨンも通りに視線をやる。トルベらには、会話は聞こえていない。だが、二
人の視線を受けて「何だ?」と互いに顔を合わせていた。ヨンはマンボのほう
に向きなおる。
「あいつらに何の用だ?」
「さあな。危ない話でも、うまい話でも、痴情沙汰でもないんだとよ。そんな
ら面白くねえから、聞かなかったさ」
 興味なさそうに、鼻をほじって毛を抜いているマンボに、ヨンは別の質問を
ぶつける。
「ソガン亭という妓楼、どんな店なんだ?」
 ヨンは憂慮していた。妓楼は、華を求める男たちが詰めかけてくる場所だ。
そんな所にあの方がいるというだけで心が焦る。しかも、ソガン亭について今
わかっていることと言えば、スリバンの頭目(マンボ姐のこと)が寄越した、
店の場所とメヒャンという女主人が営んでいるという情報のみ。トルベも聞い
たことのない店の名だと言う。店の様子が全く掴めないだけに、あの方が心配
でならない。
 気を張り詰めているヨンとは反対に、
「まあ、あそこなら心配ないさ」
 抜いた毛をフウッと吹き飛ばしながら、いたってのんびりとマンボは答える。
「どういう意味だ?」
「野郎は入れねえんだよ」
 マンボがニヤリと笑う。
 「妓」という言葉は、「技に長けた女」という意味を持つ。妓生はそもそも
秀でた技能と見目麗しさで人を喜ばせる女性を指す言葉だった。歌や舞はもち
ろんのこと、鍼灸(しんきゅう)や調薬、刺繍や書画、話術など、人を喜ばせ
る、楽しませるということであれば、分野を問うことはなかった。
 時代は変わり、或いは需要が大きく傾いて、大概の妓楼は優れた技を持たぬ
妓生を多く抱え、技能の代わりに別のもので客を喜ばせている。そんな中、ソ
ガン亭では、秀でた技能を持つ女たちが、己の技能でもって客を楽しませ、或
いは喜ばせているという。
 妓生の見目の麗しさは問わず、男性客を断っている変わった妓楼で、そんな
妓楼があることさえ、男たちは知らない。だが、女たちにとって、そこは知る
人ぞ知るという場所だ。鍼灸の施術を受けたり、身体の不調を治す薬膳料理を
食したり、疲れた身体を薬湯と按摩で整えたり。他にも、髪や肌の調子を整え
に行く女が後を絶たない。
 マンボからソガン亭について教えられたヨンは、瞠目する。
「そんな妓楼があるのか?」
 にわかには信じ難い。
「あるんだからしょうがねえ」
「頭目は知っていたのか?」
「ああ、どうせお前は首を傾げるだろうから、オレから説明してやれだとよ」
 今居る場所がどういう場所なのか、ウンスに教えてやったとき、驚きつつも
かなり喜んでいたのをマンボはふと思い出す。
「そんでもあの娘は喜んでたぞ。<いえすとお>とか、<り、らく>とかなんとか」
『天にもそのような場所が?』
 ヨンはチラリと思ったが、マンボに向き直る。すると、マンボは両手を軽く
挙げて見せる。
「これで終わりだ。おい、オレぁ、もう帰るぞ」
 報告することはこれでおしまいだというマンボに、
「ああ」
 とだけヨンが答える。今聞いた内容を、頭の中で整理しているところのよう
だ。小難しい顔になっているヨンをマンボは窺う。
『あんな顔して妓楼に行く野郎があるかよ』
 いたずら心がくすぐられたマンボは、
「おい、ヨン。今夜はあの子としっぽりやれよ」
「!?」
 通りで待っているウダルチの耳に届くほど大きな声でそう言うと、ニヤニヤ
して背を向ける。さぞかし慌てた顔をしているだろうと愉快な気持ちで歩き出
した途端、背後から「師叔!」と呼ばれる。小言でも言われるのかと思って、
顔だけを振り向かせると、
「助かった」
 ヨンはそれだけ言って、踵を返してウダルチらの方へ歩いて行った。見送る
形で立ち止まったままのマンボの視界から、やがてヨンたちが見えなくなる。

 その場に立ち止ったままのマンボの背後に、音もなく影が近づく。それはマ
ンボのすぐ後ろに迫った。
「行ったね」
 マンボは後ろを振り向きもせず答える。
「ああ、行ったな」

<つづく>

私の話の中に登場するソガン亭は妓楼という形態をとっていますが、
エステサロン、もしくはリラクゼーションを目的としたお店という
感じでいきたいと思います。
(何度書いても文章が設定説明になっちゃっう・・・)

妓楼で壁にもたれて余裕ぶっこいていたヨンは、事前に師叔から
情報入手済みだったのであらぬことを考えるほど気持ちに余裕があった。
そうお考えください(笑)

こんばんは。

先ほどブログのタイトルを「慈雨 ~ほぼ信義~ 別館」に変更しました。

今後こちらのブログにはパスワード付の記事をアップしていくつもりです。
ややこしくて申し訳ありません。

どうぞ、よろしくお願い致します。


おりーぶ
 ヨンがメヒャンに案内されたのは、建屋の端に位置した部屋だった。
「こちらへどうぞ」
 促されて部屋に入ろうとしたヨンが戸口で一瞬固まる。躊躇しているヨンを見てメヒャン
が察した。
「ご所望の妓生ファンウォルが、この部屋にテジャン殿をお通しするようにと・・・」
 と、言い添える。ヨンはメヒャンをじっと見つめる。嘘があれば目が泳ぎ、取り繕う様を見
せる。真であれば、相手は真っ直ぐに見つめ返してくる。真偽を確かめるとき、確かめた
いとき、ヨンはいつもそうしていた。
 ヨンの視線を受け止めてしばらくぼんやりしていたメヒャンは、我に返って笑顔で見つめ
返してきた。
「美丈夫な方に、そんな風に見つめられますと落ち着きませんわ。こちらのお部屋は少し
窮屈にお感じになるかもしれませんが、ファンウォルが「部屋が小さいほうが暖かいから」と
気に入っておりまして。別のお部屋をご用意致しましょうか?」
 ヨンはもう一度部屋を見る。
『あの方が言いそうなことだ。この部屋をそんな理由で選んだとは・・・。それに、妓名まで
つけたのか?』
 こちらの心配をよそに、何やら妓楼で楽しくやっている雰囲気も窺えてきた。ヨンはため
息を押し殺して、仕方なく一歩だけ足を踏みいれる。メヒャンは扉の傍で立ち尽くすヨンを、
それ以上促すことはなかった。
「ファンウォルを呼んで参ります。しばらくお待ちくださいませ」
 メヒャンがそう言い残して出ていったのは、しばらく前のことだ。ヨンは戸口近くの壁にも
たれかかったまま、ある場所をわざと避けて、視線を巡らせる。
 部屋は落ち着いた色合いの壁や柱で設えてあり、調度品は華美ではないものの、一つ
一つよく見ると、手の込んだものが置いてある。そうやって、あえて目を逸らすようにして
いても、どうしても視界に入るものが部屋の奥にはあった。
 部屋の造りが狭いので、奥と言っても歩いて五歩で到達できるほどのところに、大きな
寝台が置かれていた。寝台の帳(とばり)は半分ほど開いており、躑躅(つつじ)色の布団
が垣間見える。
 寝台が部屋の半分近くを占めるため、ここが房事のための空間であることを見せつけら
れているようで、どうにも居心地が悪い。こんな状況に置かれて、ため息が出そうだ。今
度は堪えることなくため息をついたつもりだったが、吐息はほとんど出なかった。
 そこで初めて、自分が思ったよりも緊張していることを自覚する。顔を上げると、寝台が
目に飛び込む位置に立っている。けれど、この狭さではどこにいても寝台が目に入ってし
まう。気が緩むと、あられもないことを思い浮かべそうになる。
 いっそ、寝台に背を向けて立てばよいのかとも思った。それで、あの方が部屋に入って
きたとき、そうして立っている自分を思い浮かべて、
「お前は馬鹿か」
 という悪態が口をついて出た。あの方の視界に、自分と寝台が一緒になって映るでは
ないか。それでは、まるで誘(いざな)っているようにも見える。要らぬことばかり考える自
分に嫌気がさした頃、ようやく目を開けているからこんなことを考えるのだと、はたと気づいた。
 ヨンは咳払いを一つして、ばつの悪い顔を引き締める。そうして、壁にもたれかかったまま、
目を閉じて待つことにした。

<つづく>

妓楼のソガン亭という名前ですが、わざと変えてあります。
韓国語では松の木を「ソナム소나무」といいます。
でも、松という漢字を韓国語で表現する際は「송ソン」と表します。
なので本当はソガン亭ではなく、ソンガン亭なんですが・・・
ちょっとした思い入れがあり、ソガン亭にしちゃった、というお話でした。
ちなみにケギョンは松の木が多く植わっていたそうです。
なので、別名「松都ソンド송도」とも呼ばれたそうで・・・

次回は時間をさかのぼって、ソガン亭に来る前の様子を書くことにします。
師叔のことをすっかり忘れておりました(汗)