ドラマ「信義」関連の記事を更新しています。「韓国には行ったことがありません」からブログタイトル変更しました。
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二次小説を書くにあたって調べたことを書き留めておきます。

【奇氏一族について】
キ・チョルの屋敷に関連する部分は全て創作ですが、兄がいたと
いうのは本当です。
兄キ・シク(奇軾)が早逝したので事実上は長男だったこと。
妹の奇皇后はドラマでも有名になったので説明は不要ですよね。
キ・チョルにはキ・ウォン<奇轅>以外に、キ・ジュ<奇輈>と
キ・リュン<奇輪>という弟が二人いました。

あと、キ・チョルには息子キ・ユゴル<奇有傑>がいました。
この点は小説と異なるのかな?と思っていますが、機能を失う前に
子供を作っていたならと想定すれば史実に合うのかもしれません。

【カンファドまでの道のりについて】
カンファドってどれぐらい遠いのかしら?と思って地図で確認。

カンファドへの道のり(想像)

ケギョン(開京)は、北朝鮮にあるケソン(開城)市です。
(小説では「今のソウル」by1巻10p って注釈してありますが、違います)

青い線は、私が勝手に想像しているカンファドへの道のりです。

①ケギョンを出発してイェソン川の河口に出るまで直線にして15kmほど
  (遠いですね、歩くのはやっぱ無理です)
  このイェソン川の河口が貿易として栄えたピョンナンド(碧瀾渡)。

②船に乗って、赤い線で囲ってあるカンファド(江華島)に到着して、
  そこからまた馬で移動・・・
  大きな島の左側に港があるので、そっちに街があったと勝手に想定。

③島に着いてから流刑地まで移動。
  カンファ島のどこに流刑場所があったのかは不明。
  (大きな島の左上にある小さな島<キョドン島>には「燕山君」という人が
   配流されていたそうで、その碑があります)

【糒(ほしいい)について】
糒(干し飯:ほしいい)は、何か食べるものをチェ・ヨンに持たせて
やりたくて、いろいろ考えました。
れっきとした漢字があるぐらいですので、古代からある保存食でしょうね。
塩は私のオリジナルレシピです。
お話を書くにあたって、試しに糒を作って食べましたが、
兵士が食べるんだったら塩分も欲しいだろうと思い、ちょっと加えてみました。

ウダルチは基本的には二、三日は何も食べなくても戦えるように訓練されて
いて、携帯する糒の量は各自で決めているという設定。

中でも量が極端に少ないのはチェ・ヨン。
生きることに執着していないので食に対する欲もないだろうし、内功で空腹も
なんとかなるんじゃないかと思いました。
(困ったときの内功頼みです)


以上、私の覚え書きでした~

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『もう限界』
 ウンスは、前を歩く背中に声をかける。
「ねえ。ちょっと休ませて」
 話しかけたのに、相手は振り向きもしなければ、歩みを止めることもない。
「さほど歩いておりませんが」
「そんなことないわ。すっごく歩いたもの。後ろを見てよ。ほら!街があんな遠く
に見えるじゃない。とにかく休憩させてね」
「医仙」
 たしなめる口調で呼ばれても「構うもんですか」と無視する。ちょうど道の脇に
大きくて平らな石を見つける。立ち止まって座るとすぐに靴と靴下を脱ぐ。
「あ~、足が痛い。この靴、サイズはぴったりなんだけど、足の裏が痛くて」
 しゃべりながら、足の裏を入念にチェックする。靴擦れはないが、地面から伝わ
る衝撃で、足の裏が全体的に赤くなっていた。歩いて行くことが、こんなに大変だ
とは思ってもみなかった。
 くぼんだ地面で足をくじきそうになるし、出っ張った石につまづいて転びそうに
もなった。馬や牛の大きな糞が落ちていたら、長くてヒラヒラした服の裾に引っか
けないように大回りして避けなきゃいけないし。
 普段の生活は、専らタクシーを使っていたけれど、体力には自信があった。
『だって外科医だったのよ。体力がなきゃ長時間のオペはこなせないわ。それとも
転職して身体がなまったとか?』
 軽く一時間ぐらいは歩けるつもりでいたので、30分も経っていないとわかった
ときには愕然とした。「もう歩けない」とギブアップしたら、「馬に乗れ」と言わ
れるのは目に見えていた。
『車の運転もしたことないのに、生きてる馬を自分で操縦しろって?絶対に無理!
馬から落ちたら骨折するって言ったじゃない!骨折なんてまっぴらごめんよ』
 ウンスは靴を両手に持ってブラブラさせながら振り向く。
「このコッシン(靴)はクッションがほとんどないから、でこぼこした道をずっと
歩いてると、足の裏が痛くなってくるの。だから少し休ませて。これがスニーカー
だったら、カンファドどころかチェジュド(済州島)へだって歩いて行くわ。私、
体力はけっこうあるのよ」
 歩く気はある。でも、足が痛いから休む。馬に乗る考えなんか微塵もないと伝え
る。チェ・ヨンは、道の真ん中で手を後ろ手に組んで立ったまま黙っている。ただ、
その表情は、自分を持て余していることをはっきりと映し出している。
『これじゃまるで、私がだだをこねているみたいじゃない』
 ウンスは、心の中で「ちぇっ」と舌打ちする。ふてくされた気分で、靴をブラブ
ラさせるのをやめて前に向き直ると、風防けのフードを深く被って下を向く。
『・・・おなかすいた』
 高麗時代は朝晩の二食しか食べないと知ったとき、ものすごくショックだった。
「そ、それじゃ、お昼にお腹が空いたらどうするの?」と慌ててハニソンセンに尋
ねたら、「我慢します。我慢ができなければ、虫養いで紛らせます。仕事などの合
間に、取り急ぎ口にできる餅やマンドゥを食べて、お腹の虫を静かにさせます」と
教えてくれた。典醫寺に初めて案内されたとき、トギがお餅を持ってきた理由がよ
うやくわかった。
 ちゃんとしたごはんを食べたのはいつだったかと思い出そうとしたが、数日の間
に、いろんなことが立て続けに起こったので、食事の記憶が飛んでしまっている。
もうお昼をとっくに過ぎている。
『典醫寺にいる私に会いにも来なかったから知らないでしょうけど、私はお昼ごは
んも食べるんだからね!せっかく、お昼ごはん代わりにお餅やマンドゥを用意して
もらえるよう、ハニソンセンに取り計らってもらったのに、典醫寺にいなきゃ意味
がないわ』
 大きなため息が一つ出る。サイコもくせ毛の子(テマンって名前だったかしら?)
も手ぶらみたいだから、食べるものなんて持ってない。この先しばらく、お腹をす
かせたまま歩き続けることになる。空腹を一旦自覚したあとでは、歩く気力が余計
に萎える。
 うなだれるウンスの耳に、来た道とは反対の方向から足音が聞こえてきた。そち
らに目をやると、笠を被った若い男が軽い足取りで歩いて来る。
『やっぱり笠は必需品よね』
 そう思って眺めていると、男が立ち止まってこっちを見ている。気まずくなった
ウンスが会釈しようとすると、チェ・ヨンが数歩移動した。
『何?何なの?』
 チェ・ヨンが自分のすぐ後ろに立ったので見上げたが、その表情は逆光でよく見
えない。
 男が再び歩き始めたので、ウンスは何気なく目をやる。男は荷物を背負っていた。
『旅慣れているんなら、あの荷物の中に食べるものが入ってるのかしら・・・あれ
は何の葉?』
 そう思った途端「ぐうぅ」とお腹が盛大に鳴った。

『この人をどうするか・・・』
 手を後ろ手に組み、ケギョンの方角を見つめて立っていたチェ・ヨンが視線を戻
す。そうして、悩ましい面持ちで道ばたに座っているウンスを眺める。ヨインは、
「道が悪い、靴が悪い」と文句を言って、道の脇に座り込んでしまった。今は、コ
ッシン(靴)はどころか、ポソン(靴下)まで脱いでくつろいでいる。
 後ろを見やると、テマンは「もう慣れた」と言わんばかりに、道に生えている草
を二頭の馬に食べさせながら、時々こちらをちらちらと窺っていた。
 半刻(1時間)歩くのならまだしも、一食(30分)ほどしか歩いていない。チ
ェ・ヨンは空を見上げる。陽はとうに中天を過ぎている。馬であれば、ケギョンを
遠く離れていただろう。
 いっそのこと、奴らが尾いてきていると教えてやりたい思いがもたげる。ぐずぐ
ずしていると、襲ってくるかもしれないと発破をかけたい気持ちをどうにか堪える。
 ヨインは足の裏が痛むらしく、丹念に触っては痛みが起こる場所を確かめている。
指の押し具合から見ても、随分と柔らかそうだ。
『足の裏が柔らかいのは、歩き慣れていない証拠』
 相乗りだ馬車だと言って、挙句に「歩いて行く」と口にしたのは、馬に乗れない
からだとわかっている。加えて、馬に乗るつもりなど毛ほどにも考えていないこと
は、先ほどのヨインの言葉尻からよくわかった。よくはわかったが・・・
『考えたくもないが、オレはヨインに乗馬を教える必要に迫られるのだ』
 暗澹(あんたん)たる思いになる。カンファドまで、男の足でも三日はかかる。
馬でさえ一日以上かかる道のりを、ヨインが歩いて辿り着けるとは思わない。
『あの口数の多いヨイン相手に、話を交わす気力と忍耐は保つのか・・・』
 考えあぐねるチェ・ヨンの耳に足音が一つ届く。ケギョンとは反対の方向から誰
か歩いて来る。しばらく待っていると、その足音の主が野原の先にある林を抜けて
こちらへとやってきた。
『自分より少し年若い男だ。商人だろうか』
 怪しい気配は感じないので、今まで通り過ぎた者たちと同じように見過ごす。こ
ちらを怪訝そうに窺いながらも、そのまま通り過ぎようとしていた男がつと立ち止
まる。視線の先にはヨインがいた。
 いつの間にか風防けの頭部分を脱いでいる。チェ・ヨンは苦い気持ちで一歩動く
と、見とれている男の視線を背中で遮る。肩越しにちらりと目をやると、察した男
がそそくさと去る。視線をヨインに戻すと、まだ後ろ姿をじっと見ていた。
『何が気にかかる?』
 チェ・ヨンも男の後ろ姿に目をやる。すると、男が背負っている荷の端に、萎び
た青い葉が一本垂れ下がっているのが見えた。
『蕪か・・・』
 男がカンファドの方からやって来たのでそう思った。そのとき、大きな腹の音が
聞こえた。しばらく間を置いてからそちらに目をやると、当の本人は風防けを目深
に被って、知らないフリを決め込んでいた。
 ヨインが日に三度食事を摂ることは知っている。天界では、昼にも食事を摂るの
だとチャン・ビンから耳にしていた。この道をしばらく行くと、小さな村がある。
街道を行く者を相手にマンドゥを商う店があることも知っていた。馬であれば、と
うにその店に着いているはずだった。
 チェ・ヨンは、懐から小さな皮の袋を取り出して、ウンスのそばに片膝をつく。
幾重にも畳まれた油紙を丁寧に広げていき、中に包まれていたものを素知らぬふり
をして座っているウンスの目の前にすっと差し出す。
「口に合うか、わかりませんが」
 チェ・ヨンが言葉を添える。ウンスは、風防けを外して差し出された手の中のも
のを眺める。
「ウダルチらが携えている兵食です。炊いた米を洗って塩を少し加えて干したもの
です。本来ならば器などにいれて、湯でふやかしてから食すのですが・・・」
 ウンスが何の反応も示さないので、チェ・ヨンは躊躇する。それは束の間のこと
で、ウンスは手の平をゴシゴシと服で拭くと、パッと指を広げて差し出してきた。
 チェ・ヨンは、ウンスの手に触れて指をそろえてやると、そのまま自分の手を添
えて兵食の干し飯(糒:ほしいい)をその小さな白い手の平にさらさらと注ぐ。
「噛まずにしばらく口の中で含んで、ふやかしてからお食べください」
 チェ・ヨンが言い終わる前に、ウンスは干し飯を一気に口に放り込む。その拍子
にウンスの白くなめらかな首筋が目に飛び込んで、チェ・ヨンはさっと目を逸らす。
 戻して食べなければ干し飯は相当固い。口に入れた途端に吐き出すのではないか
と思ったが、すぐにポリポリと噛む音が聞こえてくる。
『噛むなと言ったのに』
 そちらに顔を向けないまま、心の中でつぶやく。安堵で口の端が緩む。
『この方は歩き慣れていないうえに、馬にも乗れない。カンファドまで幾日かかる
と教えても、どれほどの道のりなのか、今は見当がつかないだろう。ひとまずは目
先の目的地を示そう。待っていれば、いずれ根を上げて馬に乗る気になるだろう。
それも、そう遠くない』
 チェ・ヨンはウンスに行く手を指差す。
「この先の山間の道をいくと、マンドゥを売っている茶店があります。そこで腹を
満たしましょう」
 チェ・ヨンはそう言い置いて立ち上がり、ウンスの反応を待つ。ウンスは、靴を
パンパンと叩き合わせてから素早く靴下と靴を履く。そしておもむろにチェ・ヨン
に両手を突き出す。
「何ですか?」
「「何ですか?」じゃなくて。立つから手を貸して」
 チェ・ヨンは、仕方なく片手を差し伸べる。ウンスはチェ・ヨンの手に両手でつ
かまって「よいしょ」と重い腰を上げる。ウンスが立ちあがった瞬間さあっと強い
風が吹き抜ける。
「さあ、行きましょう」
 手を離して歩き始めたウンスの手首を、今度はチェ・ヨンの手が掴む。
「少しお待ちを」
 そう言い置いて、馬の方へと歩いていく。表情は先ほどまでとは打って変わって
緊張した面持ちになる。馬の傍に立っているテマンも、鋭い目つきで辺りを警戒し
ている。
「奴らか?」
「あの家にいた、火を出す女の変な臭いがします」
 先ほど、風が吹いたあとでテマンがこちらに目配せしてきた。風上からの強い風
が、追尾する者どもの臭いを運んできた。鼻が利くテマンは、その中に火手印の臭
いを嗅ぎつけたのだ。あの女は引火剤の臭いを消すためか、きつい香(こう)を使
っていたことを思い出す。
『あの女がいる』
 チェ・ヨンは緊張を高める。この先、何を仕掛けてくるつもりなのか、敵の手の
内がまだよく見えない。けれど、奴の右腕ともいえるあの女が追尾に加わっていた
ことから、是が非でもカンファドへと行かせたいという奴の入念さがうかがえる。
「この先の山に入ったら、奴らを撒いて一旦王宮に戻れ。頼むことがある」
 テマンはコクリと小さく頷く。出来れば、奴が王に何か仕掛けていないか確かめ
させたいが、下手をすればテマンが罪に問われるのでそれも出来ない。
「あとでもう一度言うが、誰かと会っても何も話すな。用が済んだらすぐに戻れ」
 頷いたテマンの肩に手を置いてから、踵(きびす)を返して戻ろうとしたチェ・
ヨンが立ち止まる。
「医仙も・・・」
 訊きたいことが、ふと浮かんだ。
「え?」
「いや、いい」
 問うのをやめて、歩き出す。
『医仙も、何か香(こう)をつけているのか?』
 鼻が利くテマンに、ふと訊こうと思った。ヨインの傍に立つと時折香ってくる、
あの香りが何なのか気になった。だが、万に一つ、テマンに「どんな香りですか?」
と訊き返されたら、それをうまく言葉にできない自分がいた。
「参りましょう」
 待っていたウンスの元に戻り、チェ・ヨンは歩き出す。

「騙したわね、サイコ」
 ウンスはそう言いたいのをグッとこらえて歩いている。サイコが言った山間の道
は、行けども行けども木ばっかりで、マンドゥの店なんか見えやしない。
「ねえ、もしかして私をマンドゥで釣った?」
 とうとう我慢できずにそう聞いたが、前を歩く男は答えない。ただ、さっと振り
向いて片方の眉だけ少しあげると、無言のまま向き直る。
『今のって、「さあ、どうでしょうね」っていう意味?それとも「まさか、そんな
ことは」っていう意味なの?』
 再び歩き出してから、かれこれ30分は経っている。いっこうに変わらない風景
に、ウンスはとっくにうんざりしている。
 森に入ってすぐに、マントは没収されてしまった。道にまで伸びている木の枝に
マントを引っかけてしまうので、脱ぐようにと言われた。木陰は十分あるから問題
なかったので、さっさと返した。
 それからずっと会話もなく、ただただ歩いている。完全に向こうのペースで事が
運んでいることが段々悔しくなってきて、意趣返しに彼をあたふたさせてやろうと
いう気持ちがこみ上げる。
『何がいい?彼が驚いたり、慌てたりするようなこと・・・そうだ!平然とした顔
で、「私を好きだ」とみんなの前で言ったことを蒸し返して、私がそれを真に受け
ていることにすれば、きっと慌てるはずだわ。私も恋愛には疎いところがあるけど、
自分に気があるかどうかぐらいはわかる。あの人は私にそんな気持ちを持ってない。
口実だっていうことぐらいお見通しよ。それにしても、よくあんな理由を思いつい
たものね。ったく。「好きだ」と言われたら嘘でも意識するじゃない!』
 彼のマントを借りて被ったとき、
「あなたの匂いがする」
 思わずそうつぶやいていた。彼の持ち物だから当たり前のことだが、訊き返され
て言葉を濁してしまった。「恋慕」という言葉が心のどこかに残っていて、彼を意
識する自分がいた。
『向こうは口実で言っただけのこと。私のことを何とも思っていない。お前はまた
あんな風に空回りしたいわけ?』
 大学のころの苦い記憶が甦る。一つ思い出すと、思い出したくもない惨めで辛い
記憶が次々と畳みかけてくる。ウンスは、ぶんぶんと頭を振って負の記憶を頭の中
から追い出す。
『告白のことを持ち出したら、彼はきっぱりと否定するわ。私がそれを茶化して冗
談にして、それで終わりよ』
 ウンスは、頭の中で何度かシミュレーションして、それから意を決して前を行く
チェ・ヨンに声をかける。

<完>
 カンファドからケギョンへと向かう街道を、一人の男が歩いていた。朝早くに宿
を出立したので、ほどなくケギョンに着く。その気持ちが疲れた足を前へ前へと進
める。「あとひと息だ」。そう思うと、引き締めていた表情も自ずと緩む。
 ケギョンとカンファドを行き来する行商を生業として十年になる。行商には自分
の背に負えるだけの荷を持って出る。大きすぎる荷は行き来するのに日数がかかり、
山賊や追い剥ぎの格好の獲物になりかねない。
 ケギョンで女物の小物を仕入れてカンファドで売り、カンファドの特産品を仕入
れてケギョンに戻る。カンファドは蕪(かぶ)や高麗人参などの特産品が豊富で、
蕪は特に人気の品だ。この島の蕪は赤い色をしており、貴族や裕福な家の料理の彩
として高く売れる。
 商売は客と品を見る目利きがものを言う。それだけに、この度のように仕入れた
品を売り切ると爽快な心地になって、重いはずの荷も綿のように軽く感じる。そん
な具合に悦に入って街道を歩いていた男だが、ふと顔を上げる。
 ケギョンにほど近い何の変哲もない野原の脇で、立ち止まって休んでいる一行が
前に見えた。その一行は三人連れで、馬を二頭連れていた。一人は背の高い美丈夫、
一人は小柄で風防けを頭からすっぽりと被っている。二人から離れて立っているく
せ毛の少年は、馬たちを世話しているから二人の供の者だろう。背の高い男はどこ
となく役人のようにも見てとれる。
 具合でも悪くなって、ここで休んでいるのか。風防けの人物は道に背を向けて座
りこんでいた。風防けの色合いは男物だが、背格好からして女ではないか・・・そ
う思って一行の傍を通り過ぎようとしたとき、「あっ」と声が出そうになった。
 自分の足音に気づいた女が頭をもたげた拍子に、被っていた風防けが風をはらん
で脱げた。そして、その中からこぼれ出たのは赤銅色の長い髪だった。
『なんと希代(きたい)な・・・』
 こちらを振り向いた女の顔は整っていて、肌の白さも際立っていた。不躾にも目
が離せない。いつの間にか足を止めて見つめていたらしい。女が小首を傾げるのを
見て我に返る。と同時に背の高い男が移動して、女を隠すように立つ。女をじろじ
ろ見ていた自分の失礼に対して男は何も言わない。ただ、肩越しにチラリとこちら
に目をやっただけだ。
「あいすいません・・・」
 口ごもりながら詫びると、慌ててその場を後にする。「行け」と目で命じられた気
がした。
『一体何者だ?女は西方の民か?それとも中原の民だろうか。男は女の護衛なのか』
 高麗随一の都ケギョンでも見かけたことのない髪の色が目に焼きつき、あれこれ
と取りとめもなく考えながら街道を進んでいくらかしたとき、出し抜けに女の笑い
声がした。
「フフフフ」
 ぎょっとして辺りをキョロキョロと見回す。街道から少し入った緑の木立の中に
女が立っていた。女は身体の線も露わな真っ赤な元国の服を着ている。
「ねえ。私はどうかしら?」
 唐突に聞かれて混乱する。女は愉しそうに口の端で笑うと、自分が今来た道の方
に目をやる。先ほどの様子を見ていて、からかっているのだとようやくわかった。
 カッと顔が火照ったが、すぐに背筋が寒くなる。もう一度振り返ったけれど、木
立が邪魔で先ほどの一行は全く見えない。先ほどの場所からかなり歩いてきたのに、
なぜ女がそのことを知っているのか薄気味悪くなる。
 顔が強張ったのを見て取った女が、今度は「あははは」と笑い出す。
「退屈してるの。ちっとも進まないから。ねえ、私と遊ばない?」
 女は赤い唇でニタリと笑みを浮かべると、こちらへゆっくりと歩いてくる。なま
めかしい姿態をくねらせ、媚を含んだ眼で見つめてくる。
『おかしい』
 こんな街道に若い女がどうして一人でいるのか。通りすがりの、しかも大した金
など持ってない商人ふぜいの自分をなぜ誘うのか。
『相手にするな』
 そう思うのに、身体が固まったように動かない。女が漂わせている麝香(じゃこ
う)の香りが鼻を抜けた途端頭がぼうっとなり、口元が緩んでよだれが垂れる。愉
快な心地で、近づいてくる女の唇に見とれる。
『同じ赤でもずいぶんと感じが違うものだなぁ・・・』
 心のつぶやきとともに、赤い髪の女が脳裏に甦る。折よく、さあっと強い風が吹
いて、夢のような心地から不意に覚める。
 女が誘うように差し伸べた手が身体に触れそうになった瞬間、ありったけの力を
振りしぼって避ける。ぐいと身体を逸らしたつもりだったが、思うように動けず、
半歩ほど後ろに下がっただけだった。
 女はこちらの反応に驚いて目を丸くして、妖しい眼力もプツリと途切れた。目を
合わせないように慌てて顔を背ける。気を取り直した女は、面白いとばかりに笑み
を浮かべて、再び近づいてくる。
「け、けっこう」
 震えて上擦ったが、それでも何とか声にはなった。声を発した途端に、身体が思
い通りに動く。女に背を向けて、もつれる足を必死に動かして歩き出す。積もった
雪の上を歩くようで足がおぼつかず、気が焦る。女が追いすがってくるのではない
かと怖くてたまらなかったが、振り向いてそれを確かめるのはもっと恐ろしい。
 幸いなことに女はその場に立ち止ったままで、追いかけて来るつもりはないよう
だ。その代わりに、背後から「ククククク」という忍び笑いが聞こえた。その声が
耳を塞いでも頭の中でしばらく鳴り響いていた。
 陽に燦々(さんさん)と輝く眩しい赤い髪を持つ女。血で染めたような赤い服を
身に着けた女。どちらも人間(ひと)だったのだろうか。それとも・・・
 はたと気づいてかぶりを振ると、胸元の荷の結び目をぐっと握る。
『やめよう。人外の者たちであるなら、思うだけで取り憑かれるやもしれぬ』
 目の前の丘を越えればやがて見えてくるケギョンへ向けて、男はわき目も振らず
に歩き出す。

 奇氏は王宮のそばに屋敷を構えていた。長男は病で早逝し、次男キ・チョルも持
病が思わしくなかった。喧噪な街中よりも、閑静な郊外のほうが身体によいと医者
に薦められ、父親はキ・チョルを郊外で静養させた。すると途端に名医と巡り合い、
病が治癒したという。
 やがて父親が亡くなり、キ・チョルが朝廷に出仕するようになる。妹が朝貢(ち
ょうこう)として元国に差し出されることが決まると、王宮のそばの屋敷を売り払
い、病を理由に長らく出仕を控える。
 恐らくは、妹が皇帝の寵を一身に受けるよう仕向ける為、屋敷を売った大金を賄
賂として宮廷の中でばらまき、自らも元国に赴いて暗躍したのだろう。奴が元国に
居る間に都合よく妹の対抗馬が死に、妹を敵視していた当時の皇后が一族もろとも
に失脚した。邪魔者がいなくなり、妹はたちまち皇后に昇りつめて皇子を産んだ。
 妹を盤石の地位に就けた後、高麗に帰国したキ・チョルは強固かつ絶大な元の後
ろ盾を背景に、瞬く間に権力者となる。キ・チョルは屋敷周辺の安価な土地を買い
占め、私兵を何百人も配した。その物々しい様子に怯えた人々は、付近に決して近
づくことはない。
 故に、屋敷を出てからあまり人目につくことなく、思うより早く街道に入ったの
だが・・・
『この人をどうするか・・・』
 突っ立ったまま手を後ろ手に組み、ケギョンの方角を見つめていたチェ・ヨンが
視線を自分の足元へと動かす。そうして、悩ましい面持ちで道ばたに座り込んだヨ
インを眺める。

 街道に入った途端に騒ぎ声がすぐ後ろからあがった。
『さもありなん』
 ため息をついてから仕方なく振り向く。果たして頭に描いた通りで、ヨインは馬
車や荷車の轍(わだち)に足をとられ、突き出ている大きな石につまづいて、道の
上にたまに落ちている馬の糞を大げさに避けていた。
 なぜこちらの言うことをちゃんと聞かないのか。
「言ったはずです。足元が悪くなるから、私の後について歩いて下さいと」
 ケギョンは王の住まう都にふさわしく道が隅々まで整えられているが、街道は人
の手がほとんど入っていない。人や荷車が幾度か通れば、そこが道になるのだ。だ
からこそ、前以てわざわざ言い置いたのに、ヨインは自分勝手に歩いていた。
「しょうがないわ」
 悪路に足をとられていたヨインがようやく追いつく。そうして、悪びれることな
く、人差し指を空に向けて突き出す。
「ね!」
 意味がわからない。
「は?」
「ほら、今日はお天気がいいから日差しが強いでしょ?帽子や日傘ってこの時代に
もあるはずよね?ないのかな?とにかく、頭に何も被ってないから日焼けしちゃう。
シミができたら大変よ。大問題だわ。それで日陰を探しながら歩いてるってわけ。
ほらね、しょうがないでしょう?」
『日に焼けるのがいやで、陰を追いかけてふらふらと歩いていただと?』
 無駄な動きの訳は判ったが、呆れて言葉が出てこない。
「そうだ!そっちが日陰を探しながら歩いてくれれば、私の手間が省けるじゃない」
 いいことを思いついたと、ヨインは嬉々とした顔ではしゃぐ。
『これがウダルチの新兵だったら、とっくに殴って黙らせている。いや、それより
も前に、そんな面倒な奴はさっさとチュンソクに押し付けているか』
 ウンスを持て余して沈黙するチェ・ヨンだが、ウンスはそれを「了承」と勝手に
受け取る。
「さ、行きましょ」
 と元気よく促す。そんなウンスを尻目に、チェ・ヨンはウンスのそばを通りすぎ
て、来た道をすたすたと引き返していく。二人の様子を窺っていたテマンの横も通
り過ぎて馬たちに近づく。愛馬チュホンの首を優しく撫でてから、背に載せておい
た風防けを手にして戻る。そして、それを無造作にウンスに投げて寄こす。
「これを。少し大きいですが、日差しは遮れます」
 それが何かはすぐにわかったらしい。
「助かる~」
 ニコッと笑うと、ウンスは畳んであった風防けを広げて早速身につける。深く被
ったつもりはないようだったが、生地が余って目深に被った格好になる。
「・・・る」
 そのつぶやきは、そばにいたチェ・ヨンにもよく聞こえなかった。
「何ですか?」
 チェ・ヨンが問い返しても、ウンスは口の中でこもったように小さな声でつぶや
いて、まともに届かない。もう聞く気もせず、チェ・ヨンが口を開く。
「もう少し浅く被って下さい。周りが見えず、危ないですから」
「そうね」
 注意を促すと、心ここにあらずではあるが、返事がかえってきた。チェ・ヨンは
踵を返すと、再び歩き出す。
『これで静かに歩いてくれるだろう』
 そんなチェ・ヨンの思惑は、わずか一茶(15分)ほど後に潰(つい)えること
となる。

<続く>

ああ・・・ダメでした。
台本記事をアップしてから一か月。
時間があったはずなのに・・・書いては消して、修正してはまた直して・・・
とりあえず半分はアップできるように整えました。
まだあと半分が下書きのまま残ってしまった(汗)

この続きが二週間以内にアップできたら褒めて下さい。
(ちなみに次の内容もまだ道の途中)

しばらくは二次作家さんのサイトへのお出かけも封印して
作業に励みます・・・はい。

コメントを頂いてもお返事が遅れると思いますが、
あとで必ずお返事させて頂きます。
しばしお時間を下さいませ。