シンイで年越し2017

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「キスの場所で22のお題」テーマ  シンイで年越し企画2017 主催:りえさん

<髪 (思慕)>

※このお話の設定は、ヨンがウンスを連れて現代から高麗へと戻るときのことです。

あらゆる方向から吹き荒(すさ)ぶ風で、まともに目を開けていられない。
もっとも、チェ・ヨンは目を開けるつもりなどはじめからなかった。
天穴の光は、その入り口から漏れ出でる光だけで、辺りを昼間のように照らし出すほど眩しかったからだ。
『まともに見れば、目がつぶれる』
目を閉じていても、瞼越しにその眩しさは伝わってくる。目が慣れることは恐らくないだろう。

右手に持った天界の盾が、時折風を受けて身体から離れそうになる。チェ・ヨンは脇を締めて足を踏ん張った。天界の盾は琉璃(るり)で出来ており、手に持つと驚くほど軽く、鉄に等しいほど強固な造りだった。天界からの追っ手がくれば、出来得るかぎり傷つけぬよう、これで応じるつもだったが、その気配は感じられない。

と、左腕に抱いた女人の身体から力が抜けるのを感じたチェ・ヨンは、とっさに女人を胸の中に抱き寄せた。天穴を通るまでは、何かと抗っていた女人だったが、中に入った途端におとなしくなった。おとなしくなったというよりは、慄(おのの)いていると言った方が近い。
天穴を見て驚いていた様子からみて、下界になど下りたことのない御方なのだ。チェ・ヨンはそう考えた。
抱き寄せたりしたら、我に返って暴れ出し、己の腕から抜け出そうとするかもしれない。
攫(さら)った奴の腕から逃げ出す。至極当然のことだ。頭ではわかっているのに、心は無意識にそれを拒む。
女人を抱き寄せたあと、チェ・ヨンは女人の身動きを封じ込めるために左腕にぐっと力を込めた。

次の瞬間、チェ・ヨンの身体の緊張が緩む。
女人は、抗うどころかチェ・ヨンの胸の中にその身を埋めるようにして身体を預けてきたのだ。
驚いて目を開けたチェ・ヨンは、光の渦に目が眩む。
女人は己の胸の中深くにいた。
そのことだけを確かめると、チェ・ヨンは再びゆっくりと目を閉じた。
と、チェ・ヨンの唇に何かが触れた。
風に煽られた女人の柔らかい髪が、唇を撫でて過ぎ去ったのだ。
再び触れた髪は、今度は鼻をくすぐって過ぎる。
花の香りがした。

懐かしい。
その思いが胸に溢れる。
けれど、その花の香りをどこで嗅いだのか。
そのことは欠落していて思い出せなかった。
下を向いたチェ・ヨンは、不埒な衝動に掻き立てられるまま、女人の頭に頬を寄せる。

王命。
生きる名分。
それらは、今チェ・ヨンの中にはない。

あるのは女人と、その香りのみ。
満ち足りた笑みを浮かべていることにチェ・ヨンは気づかない。

吹き荒んでいた風の勢いが衰え始める。
下界が近いのかもしれない。
脳裏によぎったその思いが、左の腕に力を込めさせる。

『頼む』
心の中で呟く。

『何を頼むのか』
チェ・ヨンは、それを敢えて己に問うたりはしなかった。

<おわり>

どうぞよいお年を

皆様にとって素晴らしい年になりますように・・・
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