二次_紅楼夢番外

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「ソルソン」
「はい」
「ケギョンでの暮らしは慣れましたか?」
「はい。お陰様で」
「そう。それは良かった」
イェリムは柔和な笑顔をソルソンに向けた。
「いろいろとお骨折り頂き、有り難うございます」
「いいえ。貴女がいてくれて良かったわ。熱心に呼んで頂けるのは喜ばしいことだけれど、
カマ(駕籠)に長い間乗ると、どうしても身体のあちこちに痛みが残って取れないのよ。
かといって、無下に断ると門が立つような方々も中にはいらっしゃることだし。貴女が
名代(みょうだい)で稽古に行ってくれるようになって、本当に助かっているのよ。身体の
節々の痛みも随分軽くなったわ」
イェリムは、ケギョンでは著名なカヤグムの奏者で、数年前までカンファドに住んでいた。
ソルソンは彼女を師匠としてその教えを受け、とりわけ熱心に学んだ愛弟子だった。
ソルソンが渦中に身を置いていたとき、イェリムは手を貸して欲しいと文を寄越してくれた。
当初、しばらくカンファドを離れることを決めたソルソンは、ミヨンの叔母の家に身を寄せる
つもりだったが、そちらで近々慶事があることを知って、二の足を踏んでいた。イェリムからの
文は、ソルソンにとっても渡りに舟だった。

朝から晩までカヤグムのことだけを考えて暮らす。そんな日々の中で、ソルソンには新しい
交流が生まれていた。
ユン・ヘジョン。
彼女の師匠はイェリムと肩を並べる著名なカヤグムの奏者で、ヘジョンはその一番弟子だった。
たまにしか会わない仲で、しかも性格は正反対なのに、二人は意気投合して互いの演奏を聴いて
は忌憚のない意見を交わして腕を磨いた。
ヘジョンは、ソルソンが時折見せる表情が気になっていた。それは決まってソンアク(松嶽)山を
眺めているときに見せる表情だった。ソルソンが夫を亡くしていることは、ヘジョンも知っていた。
それでヘジョンは、彼女が亡き夫君のことを思っているのだと当初は考えていた。
「亡くなったご主人のことを考えているの?」
そう尋ねたことがある。けれど、そのときのソルソンは、全く別の表情を見せた。哀切と懊悩。
喩えて言うならば、そんな色だった。ヘジョンが夫君のことを尋ねたのは、それきりになった。
けれど、ソンアク山を見つめているソルソンからは、少なくとも懊悩の色は感じられない。
「ソンアク山が好きなの?」
山並みを眺めるソルソンの横に立ち、ヘジョンが問うと、ソルソンは小さく微笑んだ。
「ええ」
「私には、見慣れた山だわ。どこが好きなの?」
ケギョンで生まれ育ったヘジョンにとって、それは当たり前の風景の一つだった。
「松の木々の姿が美しいわ。荒々しく厳しい岩だらけの地面に根を張り、風にその幹を曲げられ
ようとも真っ直ぐに立とうとするその姿に引きつけられるの」
山並みに視線を向けたまま、ソルソンはそう言った。ヘジョンは心が躍った。当たり前の風景だが、
ヘジョンが大事に思う故郷の風景を、友が美しいと言ってくれたことが嬉しかった。
「ソンアク山の山並みは、遠くから見ると身重の女性が横たわる姿に似ているとも言われているのよ」
「そんな風に見えるわ」
ソルソンは、その話を知っていたようだ。しばらく黙って眺めていたヘジョンがおもむろに尋ねる。
「お母様に会いたい?」
望郷、或いは人恋しさを、ヘジョンはソルソンの瞳から読み取った。
「・・・そうね」
「カンファドは遠いものね」
ソルソンを慮ったヘジョンの言葉に、ソルソンは曖昧な笑みを浮かべた。

母は私を身ごもったとき、どう思ったのだろう。

ケギョンの山並みを見つめるうちに、そんなことを考えている自分に気づいた。
間もなく、ソンド(松都 ケギョンの別名)で暮らし始めて三月を迎えるころのことだった。

<つづく>

「紅楼夢」で出たヨンスの母が登場。
(久しぶりすぎて、名前違っていたらごめんなさい)

≪このお話の主な登場人物≫
 ★マークは「信義」のドラマか小説に登場していたキャラ
 〇マークは私が設定したキャラ

○ソルソン(雪松)
「紅楼夢」では、妓楼ソガン亭の主メヒャン(梅香)として登場。
 カンファドの宿屋を営む夫婦の一人娘。
 八歳でサンホと婚姻した。

○サンホ
 ホンサム(紅参:高麗人参)を取り扱う問屋の長男。
 十二歳でソルソンを娶る。

○ミヨン
 ソルソンの母。

○タンジ
 ソルソンの父。
 カンファドで宿屋をいくつか営んでいる。

★マンボ
 表向きは「マンボの薬売り」。裏の顔は、ケギョンの情報を掌握しているという
 噂の手裏房(スリバン)の頭目。

★コンジャ(→名前は私が勝手につけています)
 マンボの妹。
 兄の右腕としてスリバンを支える。

★コサ(白い人)→名前だけは台本に載っていた。
 スリバンの一味。
 幼少の頃からスリバンに属していた(という私が考えた設定)

★ムン・チフ

○ヘジョン
 ソルソンの友。カヤグムの奏者。
 「紅楼夢」に登場するヨンスの母。
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チフは、ソルソンがケギョンにいる経緯を聞いて言葉を失くした。

マンボは、毎年カンファドへ渡り、妹ソルソンの消息を知らせてくれていた。
数日前、一年振りにマンボがカンファドへ行くと、ソルソンの姿がなかった。急いで周辺に聞き込んだマン
ボは、ソルソンがケギョンに行ったことを突き止めると、すぐに碧瀾渡(ピョンナンド)行きの船に乗り込
んで、渡って来たばかりの海を再び取って返した。船が港に着くと今度は一目散にケギョンを目指し、訪ね
た先でようやくソルソンを探し当てた。

昨年の秋、ソルソンの夫サンホが落雷により非業の死を遂げた。衝撃を受けた姑は次第に心を病んでいった。
雷が落ちた場所には、サンホ以外にも何人か立っていたが、皆身体の痺れや軽い火傷などで済んでおり、
サンホだけが命を落とすこととなった。
なぜサンホだけが死んだのか。姑は、その理由を追い求め、執着した。
そんな折、姑は一人の女と出会う。姑が「先生」と呼んだその女は、貰い子のソルソンを娶ったが故にサンホは
天誅(てんちゅう)を下されたのだと告げた。喪失の淵に共に立ち、苦しみを分かち合っているソルソンこそが
根源だったと知った姑は激昂し、ソルソンとその両親であるタンジたちを一方的に責めたてて、騒ぎを起こした。
曰(いわ)くつきの女。
ソルソンを貶める噂は一気に広まり、耐えかねたソルソンはカンファドを離れ、知己を頼ってケギョンへと
出てきた。

話を聞き終えたチフはその場を後にした。
狭い路地を何度か曲がりながら歩を進める。その歩みは常よりも大きな歩幅で、身の内から荒ぶる気が、考
えるよりも先に、脚を前へと運ばせる。路地がもう少し広ければ、チフはとっくに走り出していただろう。
が、あと数歩で大通りへ出るという地点で、勢いに乗ったはずのチフの足が唐突に止まった。
そして、打って変わってゆっくりとした足取りで大通りまで出ると、左右に分かれた通りのうち、右手の通
りへと目をやった。その道を行けば、ソルソンが身を寄せているというカヤグムの指導者イェリムの家があった。
チフは俯いたまま、沓の先を左の方向に向けると、ようやっと一歩踏み出した。そうして歩き始めると、歩幅を
大きめに取りながら足を運ぶ。
だが、辻をいくらも行かぬうちに、その歩みは鈍くなった。

ソルソンのことを思わずにはいられなかった。夫との夫婦仲は大層睦まじいと聞いていただけに、その喪失
の大きさは、想像するに難(かた)くない。慣れぬ地で暮らすことになった経緯もまた憂うべきもので、此の地で
暮らすソルソンのことが気がかりだった。

だが・・・
「あの娘の幸せを願うなら、会わぬことだ」
亡き父のその言葉は、チフの脳裏に強く焼き付いていた。

父と己は、捨てられた妹を見つけた。
けれど、連れて帰ることはしなかった。
己もまた、父の言葉が正しいのだと、そのときに悟った。

その言葉は、長らくチフの重い足枷となり、カンファドへ足が向くことはなかった。
だが、今日だけはその足枷が、無いに等しい程軽く思えた。

「ヒョン」
マンボが呼ぶ声がすぐ傍で聞こえ、チフは物思いから覚める。師弟のほうに視線を向けると、気遣わしげな
目とぶつかる。
「どうした?」
一定の距離を保ちながらマンボ兄妹がついて来ていることはわかっていた。チフの問いかけに、マンボは声
を潜めてあごをしゃくる。
「ソルソンが、こっちへ歩いてくる」
反射的に前を見る。通りを歩いている女は数人。子供連れが一人、もう一人の若い女は夫婦だった。チフが
目を走らせたその先に、ソルソンと思しき若い女が歩いていた。
チフは身体が凍りついたように動けなくなった。
目が逸らせない。
すらりとした首筋、整った顔立ちに母の面影を探してみたが、妹と母がうまく重ならない。

ソルソンは凝視するチフに一瞥もくれることなく、その傍を通り過ぎた。

チフは振り返り、妹の後ろ姿を見つめた。
その姿が、雑踏の中に消えていくまで。

ソルソン。
チフと同じ日に生を受けた妹との、十数年振りの再会だった。

<つづく>

二か月以上ぶりに更新(-_-;)
設定忘れすぎて、思い出すのに四苦八苦でした。
ムン・チフが、通りを一人で歩いていた。

そのチフから離れること二丈(約六メートル)。マンボとコンジャが、チフの後ろを歩いている。
先ほどマンボからソルソンの話を聞いたチフは、
「・・・そうか」
と、呟くと、踵を返して門を出ていってしまった。
様子が気になった二人は顔を見合わせたあと、すぐにチフの後を追いかけてきたのだが、
その背中に声をかけることをためらい、結果後ろをついて歩いているという状態だった。
「ねえ、兄さん」
コンジャが隣を歩く兄に話しかけると、マンボが「何だ」と、視線を前に向けたまま応じる。
「チフ兄さん、大丈夫かな?」
「・・・どうだろうな」
前を歩く師兄は、傍を行き過ぎる者と時折肩がぶつかっていた。
らしくない。
そんな姿を目にしたら、「大丈夫」とは到底言えなかった。

「これを頼む」
妹のコンジャとスリバンを立ち上げて間もなくの頃、マンボは師兄チフからある紙を受け取った。
妹と一緒にざっと目を通したあとで、師兄に尋ねた。
「カンファドの?」
「そうだ。その人物の近況を教えて欲しい。お前の手が空いたときで構わない」
つまり、急ぎの用件ではないから、他の者には任せて欲しくないということだと、マンボは理解した。
「わかった。ニ、三日のうちに発つよ。ところで、ヒョン。このソルソンっていう女、何なんだ?」
「ヌイ(누이<妹>だ」
「え?」
「妹だ」
マンボと、その場に居合わせたコンジャが顔を見合わせる。今まで師兄から妹の話を、ただの
一度も聞いたことはない。故に、師兄は一人息子だとばかり思っていた。
と、マンボがあることに気づく。
「それでも、ヒョン。ここにカンファドの宿屋の娘って・・・」
紙を指し示してマンボが問い返す。
「故あって、そうなった」
師兄の表情は暗い。けれど、口調は淡々としていた。努めて平静に振る舞っている。マンボには
そんな風に見えた。詳しいことは訊かず、マンボはひとまずカンファドへ向かった。そして、数日後に
戻ってくると、チフにいくつか見聞きしたことを報告した。
 ソルソンは、カンファド一のカヤグムの腕前らしい。
 請われて、近所の娘たちにカヤグムを教えることもあるそうだ。
 夫婦仲はめっぽういい。オレも見たけど、仲睦まじいもんだった。
 子供がまだできないもんで、願掛けをやってるそうだ。
チフが既知の事柄も、中に含まれていたようだ。マンボはチフの表情からそれを読み取った。
「ヒョン、知ってたのか?」
「幾つかは、父から聞いていた」
「親父さんから?」
「ああ。父は、ソルソンのことを気にかけて、時々人をやって調べさせていた」
師兄の親父さんは去年亡くなっている。親父さんの役割を、師兄が引き継いだということか。
チフが自分たちに頼んできた理由が判ったところで、マンボはふと思い出す。
「ヒョンと妹御。似てるな」
マンボがそういうと、チフは少し驚いた顔をした。
「カヤグムを手入れする妹御と、鬼剣を手入れしているヒョンが重なって見えたんだ。身体つきも
面差しも違う。一見すると兄妹ってわからないもんだけど、ちょっとした拍子に似てるなって思う
ときがあるんだ。妙なもんだな、兄妹っていうのは」
チラリとコンジャを見ると、妹は露骨に顔をしかめていた。男らしい顔の自分と似ているというのが
心外だったらしい。
『オレが言ったわけじゃないぜ』
マンボは首をひょいとすくめて妹の睨みを避ける。
「母に・・・」
と、チフが呟くように口を開く。マンボとコンジャは小競り合いを止めてチフを見た。
「妹は、母によく似ていた」
「ヒョン、会ったことがあるのか?」
「いや。ずっと昔、一度見かけただけだ。亡くなった母によく似ていた」
心に浮かべた妹と母は己の傍に居ない。父も昨年身罷った。詮無いことを考えても仕方ない。
チフは腹に力を込める。
「サジェ(師弟)、ご苦労だった」
「カンファドなんて、すぐそこだ。ヒョン、いつでも言ってくれよ」
マンボが歯を見せてニカッと笑うと、
「飲もう。お前の新しい商売の話を聞かせてくれ」
チフはそう言って、マンボの肩を抱いた。
赤月隊に身を置いたチフと、身を置かなかったマンボ。
「性に合わない」というマンボの考えをチフは尊重してくれた。が、その後会う機会が減り、二人の
間には妙な遠慮が生まれた。
『この一件が、それを消し去ってくれた』
マンボは、そう思っていた。

<つづく>

≪このお話の主な登場人物≫
 ★マークは「信義」のドラマか小説に登場していたキャラ
 〇マークは私が設定したキャラ

○ソルソン(雪松)
「紅楼夢」では、妓楼ソガン亭の主メヒャン(梅香)として登場。
 カンファドの宿屋を営む夫婦の一人娘。
 八歳でサンホと婚姻した。

○サンホ
 ホンサム(紅参:高麗人参)を取り扱う問屋の長男。
 十二歳でソルソンを娶る。

○ミヨン
 ソルソンの母。

○タンジ
 ソルソンの父。
 カンファドで宿屋をいくつか営んでいる。

★マンボ
 表向きは「マンボの薬売り」。裏の顔は、ケギョンの情報を掌握しているという
 噂の手裏房(スリバン)の頭目。

★コンジャ(→名前は私が勝手につけています)
 マンボの妹。
 兄の右腕としてスリバンを支える。

★コサ(白い人)→名前だけは台本に載っていた。
 スリバンの一味。
 幼少の頃からスリバンに属していた(という私が考えた設定)

★ムン・チフ

朝の空は晴れ渡っていた。

市が立ち並ぶケギョンの主な通りは、我先にと良い品、安い品を買い求めにきた客で溢れ
返っている。広い通りはまだましなほうで狭い通りとなると、行き交う人々が肩をぶつけて
通らなければならないほどのにぎわいだ。
そんな狭い通りを、背の高い男が歩いていた。髷は結わずに後ろで一つに束ねており、
口元と顎には無精ひげが生えている。身なりは小ざっぱりしているものの、くたびれた感じ
は否めない。男は、腕を組んでゆっくりと歩きながら、時折思い出したように屋台のほうに
目を向けるが、これといって興味を引くものはなさそうに、そのまま通り過ぎていく。
通りの活気と明らかに異なる男の歩みは、ともすれば忙しない人々の迷惑になりそうなもの
だが、誰も気に留めてなどいない。男は前を通り過ぎる者の、或いは後ろから追い越す者の
気配と動きを読み、巧く躱しながら歩いていた。躱し方も、そうとわからぬ素振りで避けている
せいで、至極当たり前に人波に溶け込んでいた。
と、粗末な身なりをした子供が一人、脇の路地から出てくると、男の前をさっと横切ってその
まま真っ直ぐ反対の路地へと入っていった。七つにはまだ届いていないだろうその子もまた、
男よりは拙いながらも人の波をうまくすり抜けていた。
男はスッと身体の向きを変えると、子供の後を追って路地へと入る。子供は背後を気にする
ことなく、入り組んだ細い路地を右へ左へと折れ曲がりながら、すたすたと歩き続ける。
やがて、一軒の家の門前で子供が立ち止まった。けれど、直ぐにまた歩き出すと、その家の
すぐ脇の小路へと入っていく。男はそれまでのように子供の後を追わず、そのまま家の門を
くぐった。
「オラビ(오라비:兄さん)、久しぶり」
家の庭先で待ち構えていた若い女が男に声を掛けた。
「新しい根城なのか?」
「どう?悪くないでしょ?」
家とその周りをぐるりと眺めたあと、男は黙って頷く。閑静過ぎず、喧噪もほどほどに聞こえて
くる。悪くなかった。
「あいつは?」
男は若い女に向き直ると尋ねる。
「もう戻ってくると思う。先に何か腹に入れておきなよ。何にも食べてないんだろ?」
「ああ」
そこへ、先ほどの子供が庭先に姿を現した。
「コサ、ご苦労さん。あっちに虫養いの餅があるから、食べて帰りな」
女が声をかけると、コサと呼ばれた子供は緊張していた表情を緩め、軽く頭を下げると
建屋の陰に消えていった。
「オラビが通りを歩いてるって聞いて、あの子に呼びに行かせたんだ」
男は一度出かけると、しばらくの間戻ってくることはない。屋敷はあるが、そこで男が過ごす
のは一年の内でふた月もあればいい方だった。
男は、ケギョンに戻ってくると、のんびりと市場を歩くことにしている。報せることがあれば、
その際に向こうから何かしらの合図がある。逆に、男のほうに会う用向きが出来た場合には、
予めもらっている印を薬売りの前を通る際にちらつかせることにしている。
それが男と手裏房(スリバン)が会う際の約束事だった。
マンボとその妹コンジャが束ねるスリバンは、同じ所に留まることをしない。ケギョンの街を
転々と根城を変えて暮らしている。先ほど、コサは男の前を横切った際に他の者には見えぬ
よう、男にだけスリバンの印を見せた。それで男はここまでやってきたのだ。
男は、覚えのある気配に後ろを振り向く。ほどなく、がっしりした肉付きのいい男が、門をくぐって
入ってきた。
「サヒョン!」
「マンボ。元気そうだな」
血色のいい、というよりも少し酒焼けしている弟分に男が笑顔を向ける。
「ヒョンも元気そうでなによりだ」
マンボは、嬉しそうに男の身体を触りながら、どこか悪いところはないかとざっと確かめる。
「サヒョン、痩せたか?」
「少しな。それよりも、何かあったのか?」
我に返ったマンボが、急に慌てた顔つきになる。
「あのよぉ、サヒョン。もっと早く知らせたかったんだが・・・サヒョンのホンサム(紅参)が、今
ケギョンにいるんだ」

<つづく>
週二更新を目指して四苦八苦。
昨日アップするつもりが、内容を見直していたら今日のこんな時間(-_-;)

日々更新されている方の爪の垢を煎じて飲んだら、週三回ぐらいは更新できるかしらん。
(こんな要らぬことを考えてまた時間が過ぎていく・・・)

マンボ妹のコンジャという名前は「孔雀:コンジャク:공작」からつけました。
コサは、ドラマでいうところの「白い人」ですが、名前は台本にあっただけでドラマの中では
名前で呼ばれていなかったと思います。⇒記憶が曖昧です。違っていたら教えて下さいませ。
マンボ妹も白い人も、二次を書かれる方が各々の呼び方や名前をつけてあげればよいのだと
思い、名前をつけてみました。

人の波をうまくすり抜ける。
そんな練習をするボクシングの漫画を読んだことがあります。(タイトルとか忘れた)
それでちょっと書いてみました。

≪このお話の主な登場人物≫
 ★マークは「信義」のドラマか小説に登場していたキャラ
 〇マークは私が設定したキャラ

○ソルソン(雪松)
「紅楼夢」では、妓楼ソガン亭の主メヒャン(梅香)として登場。
 カンファドの宿屋を営む夫婦の一人娘。
 八歳でサンホと婚姻した。

○サンホ
 ホンサム(紅参:高麗人参)を取り扱う問屋の長男。
 十二歳でソルソンを娶る。

○ミヨン
 ソルソンの母。

○タンジ
 ソルソンの父。
 カンファドで宿屋をいくつか営んでいる。

★マンボ
 表向きは「マンボの薬売り」。裏の顔は、ケギョンの情報を掌握しているという
 噂の手裏房(スリバン)の頭目。

★コンジャ(→名前は私が勝手につけています)
 マンボの妹。
 兄の右腕としてスリバンを支える。

★コサ(白い人)→名前だけは台本に載っていた。
 スリバンの一味。
 幼少の頃からスリバンに属していた(という私が考えた設定)
陽も中天を過ぎ、カンファドの波止場は賑わいの中にも落ち着きを見せていた。
陽が昇る前から働いていた水夫(かこ)たちが一休みする頃合いで、男たちの腹を
満たす飯屋の女たちは先ほどまでくるくると忙しく立ち働いていた。
それが一段落すると、給仕の女たちは片づけがてらの噂話に興じる。
「宿屋のタンジの娘さん、離縁されたんだって?」
「そうらしいよ」
「その子、この間旦那が死んだんだろ?まだ若いのに、気の毒な話だよ」
「だけどさ、あの問屋には、旦那の弟がいたはずだろ?弟は兄嫁をもらわないのかい?」
婚姻で一度結ばれた家同士の絆は、簡単に断ち切るべきではない。そんな考えから、
妻が早逝した場合は夫が妻の姉妹を娶り、夫が早逝した場合は夫の兄弟が兄弟の嫁を
娶って、結びつきを維持していく。それは遺された者へ、救いの手を差し伸べるという
ことも担っていたはず。
すると、問屋の近所に住んでいる女が、待ってましたと言わんばかりに「それがだよ」と
他の女たちの注意を引く。
「どうやら曰くつきの娘で、それで離縁されたらしいんだよ。あそこの大奥さんが、
『嫁のせいで息子が死んだ』って言いだしてさ」
「それ、どういうことだい?」
通りいっぺんの噂話ではなくなった。洗いものの手を止めて、皆は話に聞き入る。
「あそこの息子、雷が落ちて死んだだろ?そんな死にざまをしたのは、何か因縁か
祟りがあったんじゃないかって、大奥さんが卦の有名な先生にみてもらったらしいんだよ。
そしたらなんと」
「なんと?」
そこでようやく声を潜める。
「いや、詳しくは知らないんだけどね。嫁にもらっちゃいけない娘だったらしいんだ。
そのせいで旦那が死んだんだって話だよ」
「ええっ!?」
「嫁の報いを旦那が受けたってことかい?死んだほうはたまったもんじゃないねぇ」
自分に置き換えて考えてから身震いする。旦那のせいで自分が死ぬなんて
まっぴらごめんだ。
「とにかくさ、もうカンファドでは嫁に行けないんじゃないかねえ。曰くつきの女に
なっちまったからね。この先はないね」
「タンジの宿屋があるじゃないか。あれ全部自分のものになるんなら、婿に入りたい奴は
いるんじゃないかい?あの子、まだ若いだろ?」
「いくら若くったって、財が入るからって、代わりに命取られるんだよ。うちの息子が
一緒になりたいって言ったって絶対に承知しないね」
要らぬ心配をして身をよじる女に、『それは向こうが断るだろう。』と、他の女たちが
呆れた目をする。
「じゃあ、もしもあの子が婿をもらったら、そいつは心底惚れて死んでもいいから
一緒になりたいって思ったか、欲に目が眩んだかのどっちかだね」
「あははは。そりゃ、そうなるね」
「違いない」
「まあ、どっちでもいいさ。あたしたちには関係ない」
「それもそうだ。さあ、片づけよう」
ひとしきり話し終わって気が済んだのか、女たちはそれから無言で手を動かした。

<つづく>
私が書く話は、どうも「起承転結」の「起」が長すぎる気がします。
「これぐらいかな?」と思って話の風呂敷を広げるのですが、サイズ感覚が未だにわからず(^_^;)
風呂敷(話の展開)が大きくなりすぎて、畳み方がわからなくなる前になんとかしたい。
「麗」や「ジャクギ」で学んだ「歩歩驚心」という言葉。
意味は、<一歩一歩慎重に>というものらしい。
私の心境は今まさにそんな感じ。
それとも、「策士、策に溺れる」かしらん。(自分が設定した内容に溺れるワタシ)

遊牧民族は、婚姻によって出来た資産が減ることを防ぐために、ソロレート婚やレビラト婚の
習慣があったそうです。
朝鮮時代に入ると儒教の影響でこのような習慣は悪しきものとされて禁止されたでしょうが、
高麗時代は末期とはいえ、民間ではそういう習慣がまだ残っていたのかなぁという設定で
つけてみました。

ソロレート婚:妻が死んだ後、夫が妻の姉妹と結婚する習慣
レビラト婚:寡婦が死亡した夫の兄弟と結婚する習慣

 ※私が愛読している「乙嫁語り」というマンガにはどちらの習慣も出てきます。
  (地中海寄りの、ロシアに支配される前の中央アジアが舞台のマンガ)

あ、私信をひとつ。
 K様、私はあのマダムのことを「コンジャ」と名付けようと思います♪
 孔雀のコンジャッから思いつきました。
 だけど羽根が派手なのは雄なんですよね。まあいいか(笑)
 スリバンの人たちって、通り名の設定なのかなと思いました。
 なので、コンジャも通り名ってことで。(本名は多分べつにある・・・はずな設定)


≪このお話の主な登場人物≫
 ★マークは「信義」のドラマか小説に登場していたキャラ
 〇マークは私が設定したキャラ

○ソルソン(雪松)
「紅楼夢」では、妓楼ソガン亭の主メヒャン(梅香)として登場。
 カンファドの宿屋を営む夫婦の一人娘。
 八歳でサンホと婚姻した。

○サンホ
 ホンサム(紅参:高麗人参)を取り扱う問屋の長男。
 十二歳でソルソンを娶る。

○ミヨン
 ソルソンの母。

○タンジ
 ソルソンの父。
 カンファドで宿屋をいくつか営んでいる。