二次_紅楼夢

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「やっぱりこれ、邪魔だったわ」
ウンスは赤のモンスをさっと外す。物音とトルベの声に、部屋を出て様子を見にいこうとしたウンスをヨ
ンが引き留めて、「これと、これを」と渡されたのだ。言われるままに急いでチョゴリを羽織って紐を締
め、モンスを被ったものの、視界が悪かった。
ウダルチは、妓生のようなウンスに見とれるが、その視線を遮るようにヨンがウンスの傍に立ったので、
わざとらしく視線を外すほかなかった。
ウンスは割れた人垣をスタスタと歩いていくと、ヨンスとホンイの前で立ち止まる。
「ヨンスさん。貴方に用があって、ウダルチのみんなと一緒に来てもらったんだけど・・・」
「・・・私にですか?」
「ええ。でも、その用件は済んじゃったわ」
ニコッと微笑みかけられても、ヨンスはどう応じればよいのかわからない。いつしか、ホンイを掴まえて
いた手からも力が抜けて、するりとホンイの腕が離れる。
「メヒャンさん、どこか部屋を貸してもらえますか?」
「はい。こちらへ」
察したメヒャンが先に立つ。
「それじゃ、ヨンスさんとホンイは私と一緒に来て。あとのみんなは・・・」
「部屋で待機だ」
ウンスの語尾を拾うように隣からヨンが言い繋ぐと、トルベらが「はい」とすぐさま返事をする。
「あなた達も部屋に戻っていて」
メヒャンにそう声をかけられたトンニョンたちは、「はい」と返事をしたものの、皆心配そうな顔つきで
五人を見送った。

部屋にはヨンスとホンイ、そしてウンスの三人。
「ヨンスさん」
「はい」
「私、貴方をここに呼んで、確かめたいことがあったの」
「・・・何をでしょうか?」
「でも、それはもういいわ。さっきわかったから」
満足げに頷くウンスとは逆に、ヨンスの顔には戸惑いが広がる。
<果たしてヨンスはホンイのことを憶えているのか>
ホンイの話を聞いた限りでは、ヨンスはホンイのことを朝貢から守るためだけに婚約しただけで、彼には
他に本命の子がいるのだと思っていた。
けれど、先ほど廊下で見せたヨンスの目を見た時、それは違うのだと直感した。何とも思っていない子に
向ける目ではない。少なくともウンスはそう感じていた。
「あのね、ヨンスさん。ホンイから貴方に直接渡したいものがあるそうなんだけど」
ウンスがそう話を切り出すと、ヨンスは思い当たることがあったのか、ハッとした。
「・・・存じています。母が文で知らせて来ましたので」
伏し目がちに答えるヨンスの顔色は暗い。その表情を見たウンスは手応えを確かなものに感じて、言葉を続ける。
「そう。でも、私はその前にまず二人で話をするべきだと思って、それでヨンスさんをここに呼んだの。
ヨンスさん、貴方はどうしてひと目見て彼女が許婚のホンイさんだとわかったのかしら?確か、数年前に
一度か二度会ったきりだと聞いたけれど」
「それは・・・」
言いよどむヨンスに、ウンスはにっこりと笑う。
「じゃ、先ずはその理由(わけ)を彼女に話して。私は席を外すから」
ウンスはホンイに目をやる。ホンイは初めて会ったときのようにすがるような目を見せたりはせず、しっかりとこちらを
見返してくれた。
ウンスは安心して部屋を出る。

部屋を出るとヨンが待っていて、少し距離を置いたところにメヒャンが立っていた。
「話は終わったのですか?」
「ええ、まあ」
「ヨンスだったのですね」
「そうなの。貴方にまだ詳しいことを話してなかったわね」
「それは戻ってから伺います」
「・・・そう?」
「ええ。ではすぐに戻りましょう」
言うが早いか、背中をぐいぐい押して歩かせようとするヨンにウンスが慌てる。
「え?今から?」
「朝帰りすれば目立ちます。今なら夜もそれほど更けていない」
「イヤって言っても?」
立ち止まったヨンがウンスをじっと見る。「否」はない。目がそう言っていた。
「ふーっ、わかったわ」
あっさりと折れたウンスに、ヨンが怪訝な表情で覗き込む。
「なに?」
「聞き分けがいいので」
何か言い返そうとしたウンスがはたとする。
「あ、そうだ。着替えなきゃ」
このままでは目立つ。二人は立ち止まる。
「あの、チェ・ヨン様」
ずっとついてきていたメヒャンがそこで初めて口を開いた。
「酒と肴を用意してございます。せめてそれを召し上がってからでも」
「いや、いい。それよりこの方の着替えを急いでくれ」
「では、お召し替えが終わるまで、お待ちになっている皆様に酒と肴を・・・」
「用意が出来たらすぐに出るからいい」
取りつく島がない。大体の人はここで諦めるのだが、メヒャンは諦めなかった。
「お召し替えには一茶(十五分)ほどかかります。飲まず食わずのままでお客様にお帰り頂くわけには
参りません。医仙様を無理にお引き留めしたお詫びに、せめて・・・」
「要らん」
「(出た。『要らん』)」
互いに譲らない二人を前に、ウンスはしばらく傍観していたが・・・
「ねえ、じゃ、こうしましょう」
と提案を出す。
「私もお腹がすいたまま帰るのは辛いわ。でも、遅くなっても困るし。だから、簡単にお腹に入れられる
虫養いをご馳走してもらえますか?それなら食べるのに時間はかからないから」
「・・・」
ヨンは腕を組んだものの、何も言わない。今から戻ったところで兵舎に食べるものがないことはわかり
きっていた。
「『要らん』とは言わないから、それでいいみたいよ」
ニコッとメヒャンに微笑み、メヒャンは胸を撫で下ろす。
「ありがとうございます。では、早速お召し替えと食事の用意をしてまいります」
メヒャンがそそくさと席を外すと、ウンスが呟く。
「ねえ、私の勝ちね」
ガッツポーズをしてみせるが、それをしれっとスルーされた。
「・・・」
何か言いたげな口元だったけれど、いざ口にするとなると面倒だったらしい。歩きだした後ろ姿が少し
不貞腐れた様子で、ウンスは笑いをこらえながら後に続いた。

<つづく>

やってしまった(T_T)
前回更新した内容

誤:黒のモンス
正:赤のモンス

記憶があやふやすぎる。
そして、そして・・・
「なんで私、ウンスにモンスを被らせたんだよぉ(T_T)」
ウンスにモンスを被らせた(脱いでいたのに)・・・グスン
ウンスとモンス・・・
なんか似てる。

そしてそして・・・ヨンスとホンイ。
あとのことは二人に任せてってことで。
フェイドアウトしていくと思います。

昨日の夜、蜈蚣が出ました。
今年初の蜈蚣です。
なにかの暗示でしょうか?
(「完結、早く書けよ」とか・・・小さい字で書いてみた)
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「あっ」
ガチャン!
どんっ

その声と物音で、ヨンスは我に返る。
三年前のあの日から、妓楼の内廊下へ。
たちまちに心は引き戻される。顔を上げて気を引き締めると、妓楼の間取りを頭に思い浮かべてみる。
聞こえてきた音に曇りがなかったことから、使用人たちが行き来する奥廊下で物音がしたのではないかと
推し量る。
「もうっ、ハナ!」
「・・・ごめん、ミナ」
物音に続いて、二人の若い女の声が聞こえた。やはり、声は近くで聞こえる。己が立っている場所から
二丈(約六メートル)も離れてはいない。この部屋を出て右に曲がった内廊下の突き当たり、奥廊下と交差した
辺りに二人は居るのだろう。
手燭は持っていないのか、それとも先ほどの物音で消えたのか、そちらに煌々とした灯りの気はない。
「おい」
と、背後から声がかかる。
「どうかしたのか?」
扉の障子越しに、ヒョンが尋ねてきた。
「店の者が粗相をしたようです。何かあれば声をかけます」
振り向いて小声でそう答えると、「頼んだ」と一言だけ返ってきた。
まもなく、慌てた足音が三つ近づいてきて女たちがいる場所で止まる。足音は三つとも軽い。女ばかりのようだ。
「気をつけて。水差しを割ってしまったわ」
やってきた者たちに、ミナという若い女が注意を促す。
「大丈夫よ。灯りを持ってきたから。何があったの?」
「この子がいきなり抱きついてきて」
誰かが破片でも拾っているのだろうか。カシャン、カシャンと途切れがちに音が聞こえてくる。
「ごめん、ミナ。だって、だって・・・何か柔らかいものを踏んだのよ。ぐにゃって・・・それでびっくりしちゃって・・・」
しばらくしんと静まりかえる。
「トンニョン、灯りをこっちに向けて」
「ヘミョン、何か見つけたの?」
「ねえ、ハナ。このぺったんこの匂い袋、あんたのじゃ?」
「・・・あ」
気の抜けた声がした。
事は収まったらしい。
そう判断して視線を戻そうとしたヨンスの耳が、不意に聞き覚えのある声を拾う。
「破片は大体拾ったわ。ミナ、怪我はない?ハナも大丈夫?」

「平気よ。ありがとう。お尻がちょっと痛いだけよ」
尻餅をついた尻をさすりながらミナが答える。
「ごめん、ミナ。さすろうか?」
「結構よ」
邪険に返すと、ハナはたちまちしょぼんとする。泣き出すのではないか。そんな風にミナが思い始めたとき、
俯いて傷心の境地だったはずのハナがぱあっとにこやかに顔を上げる。
「ね、見て!これをこうやって・・・ほら、元通りになったでしょ?!」
ぺったんこになった匂い袋を手で揉んで形を整えると、それを手に乗せて見せる。
「・・・そりゃ、よかったわね」
呆れたミナはそう答えるのが精一杯で、他の三人は苦笑するしかない。
と、トンニョンが手燭を持つ右手をゆっくりとヘミョンの方へと向ける。そちらで、何かが動いた気がした。
灯りはヘミョンの背後に立つ、一人の男を照らし出す。
ヘミョンは振り向いて、「きゃっ」と驚きの声を上げると、後ろに退いて男と距離をとる。男は整った顔立ちを
していたが、灯りに照らし出されたその表情は険しかった。
ヘミョンの隣に立っていたホンイも、驚いて後ずさりしようとした。すると、男がすっと手を伸ばしてきてホンイの
腕を掴み、離れることを許さない。じっと見つめる男の視線を受け止めたホンイは、逃げることも忘れて石の
ように固まる。
そのとき、奥廊下の向こうから近づいてくる足音が聞こえた。
「メヒャン様!」
ヘミョンが気づいて声を上げる。
「貴女たち、一体どうしてここに?」
メヒャンが驚きの声を上げると、四人が一斉にメヒャンに群がる。
「あの、ごめんなさい。お水をもらいに行こうとして・・・」
「ハナ、それは後で。それよりも、ホンイが・・・」
トンニョンが目配せをする。奥廊下の壁が死角になってよく見えない。メヒャンは前につと歩み出る。
「!」

ヨンスがいない。
トルベが外の気配に気づくと同時に、小さな悲鳴が聞こえた。視線を上げて目配せすると、トクマンたちも頷く。
一斉に立ち上がって、トルベを先頭にして部屋を出る。やはり、部屋の外にヨンスの姿はなかった。薄暗い廊下に出て、
警戒しながら突き当たりまで進むと、右手に灯りとヨンスの後ろ姿が見えた。妓楼の主メヒャンと、若い女が一、二、三、四、五人。忍ばせた得物の位置を確認しながらそちらに近づくと、女たちはさっと主の後ろに下がった。
ヨンスの背後から回って見てみると、ヨンスが女を一人掴まえていた。
「おい。どうした?」
理由を訊いているというのに、ヨンスは見向きもしない。
「おいっ!」
トルベが声を張り上げると、ヨンスがようやくこちらにを見た。我に返ったのか、女を引き寄せていた手を緩めた。
それでも離すことはない。不思議なことに女のほうも、掴まれた腕を振りほどくことはなかった。
「私の・・・許婚です。なぜここに居るのかはわかりませんが・・・私の許婚、ホンイです」
ヨンスの表情が戸惑いの色に変わる。それを聞いた途端、女の目からは涙がポロポロと零れ落ちた。
「・・・えっ?」
『お前の許婚がなぜ妓楼にいるのだ?いや、待て。ここは妓楼ではないとテジャンは仰っていた。ということは・・・
どういうことだ?』

トルベの背後で様子を見守っていたウダルチもお互いに顔を見合わせる。
「なんだ?」
「ヨンスの許婚だと?」
「あいつ、許婚がいたのか?」
「お前、知ってたか?」
問いかけばかりの小声が応酬する。忙しなくやり取りしているうちに、背後への警戒は疎かになる。一番後ろに立っていた
トクマンが不意に頭を小突かれて、大仰に驚きながら振り返る。
「テ、テジャン!」
声は廊下に響き渡り、皆がこちらを向く。
「何事だ?」
問われて返事に惑う。
「それが・・・よくわからないのです。ヨンスヒョンには許婚がいて。その許婚があの方らしいのですが。でもどうしてここに
居るのかはヒョンは知らなくて、それで・・・」
語尾が口ごもる。自分が知り得ていることはそれが全てだった。すると、テジャンは後ろを振り向いて、
「だそうですが・・・」
と話す。それで初めてテジャンの後ろに女が居ることに気づく。
『医仙?』
『医仙様だよな?』
チマは華やかな装いだが、黒のモンスを被っているせいで身体の上半分が全く見えない。
「あー、なるほど。わかったわ」
聞き覚えのある声が聞こえた。
と、モンスの前を開けてウンスが顔を見せる。平素は化粧っ気のない方だけに、しっかりと入った眉墨や目元と唇の赤みに
トクマンが見とれる。
「それじゃ、後のことは私に任せて」
一番最後に現れてしたり顔でそういうウンスに、ウダルチはただぽかんとするだけだった。

<つづく>
ご無沙汰しています。
更新がないときにもお訪ねくださって有難い気持ちでいっぱいです。

妓楼の間取りはテキトーなのであまり考えないでくださいまし(^_^;)

ちょっとずつ暖かくなってきましたね。
三寒四温の「温」を感じられるようになりました。
いつも遊びに行かせて頂いている梅の画などをを見せて頂きながら、
あっという間に過ぎていく(と思われる)三月の日々を慌ただしく
過ごしていきたいとおもいます。
曲が終わると、母とホンイは一言二言言葉を交わす。稽古が終わったのか、
しばらくして二人が四阿から出てくる。ヨンスは、母とホンイが家に入るのを
見送って、小路に戻るつもりでいた。けれど、二人はヨンスの予想に反して、
庭を散策し始めた。
ホンイと会う。その為に備えていたはずの心を、急に心もとなく感じたヨンスは、
塀と庭木に一旦その身を潜めることにした。ゆっくりとした足取りで話をしながら
庭を歩く二人が、やがてヨンスが潜んでいる辺りを通りかかったとき、ホンイが
足を止める。
「お義母様は、ソルソン様をご存じなのですか?」
幾分か驚いたようにホンイが尋ねるのと同時に、緊張で息を止めていたヨンスが
そっと息を吐く。
「ええ。私とソルソン(雪松:설송)は、師は違いましたが、互いに切磋琢磨し合う
輩(ともがら)でした」
二人に背を向ける格好で、その会話を聞くともなしに聞いていたヨンスは、ソルソンと
いう名が心に留まった。確か、入隊する半年ほど前に母を訪ねてきた方だ。ちょうど
帰宅と重なって、己が母に取り次いだ覚えがある。
「<双曲>の由来については、前に話したことがありましたね」
「はい。伽耶国の旋律と異国の曲調。二つの国の音色から成ることから、<双曲>と
名付けられたと」
「伽耶国の古い文献を紐解き、古の旋律を今に甦らせる。そのような試みの中で、
ソルソンはあの曲を世に生み出したのです」
『先ほどの聞き慣れない曲は、あの方が作ったものだったのか』
ヨンスは、ソルソンと会ったときのことを思い出す。母に取り次いだ際の思い詰めた
彼女の表情も。
「謂れを伺っているからでしょうか。初めて聴いたとき、どこか懐かしい心地が身体に
広がりました」
「ホンイ」
母が優しく名を呼ぶ。
「はい」
「先ほどの演奏、とてもよかったですよ」
「ありがとうございます」
「貴女が想いを込めた調べは、風に乗ってソンアク山の麓まで届いたでしょう」
ヨンスには母の言葉がすぐには飲みこめず、振り向いて二人を窺う。母とホンイの横
顔が見えた。ホンイは少し狼狽した色を見せる。
「『<双曲쌍곡>は、<想曲상곡>でもある。』いつかの、ソルソンの言葉です。貴女の
音色に込められた、<想い>を感じました」
「双曲は想曲・・・」
『双曲は想曲』
ヨンスも心の中で呟く。
「私が出来ること。いろいろと考えました。私が男であれば、お傍で兄様をお護りする。
そのようなことができたのかもしれません」
しばらく間を開けて、ホンイがポツリポツリと話し出す。
「まあ、途方もないことを考えたものですね」
呆れた口調だが、母の声はどこまでも優しい色合いだった。
「私にできることを探してみました。それで、見つけました。私にはカヤグムがありました。
このカヤグムの音(ね)がいくばくかの慰めと安らぎになればと・・・」
母がゆっくりと頷く。
「・・・お義母様、兄様は大丈夫でしょうか?」
「ホンイ」
『ホンイ・・・』
ホンイが胸の前で合わせた両手を、母の両手が包み込む。
「祈りが込められた貴女の音色は、あの子の元まで飛んでいき、悪しき気を退けて、きっと
あの子を守ってくれます。そして、疲れた身体と痛む心を優しく包み込んで癒すでしょう。
大丈夫ですよ」
固く握りしめられていた指がゆっくりと解ける様子をヨンスは見守る。
「・・・はい」

家に入る二人を見送ったあとも、ヨンスはしばらくその場に佇んでいた。

強くなりたい。
強くなる。
聖上をお護りし、己も生きるために。

力強く一歩を踏み出したヨンスが、ふと立ち止まる。
今までは何とも思っていなかったはずの、己を過る柔らかい風に笑みが漏れる。
あの音色に包み込まれている。
そんなことを思い浮かべ、わけもなく幸せだった。

<つづく>

新しいキャラのソルソンは既出のキャラです。
そーなんです。
ソルソン=メ○○○というわけで。

ヨンスは、その日の朝、プジャンの許しを得て王宮の門外へと出た。
常ならば、その日に向かうことを遠慮していた場所に、今は歩みを
進めている。今日。朔日(ついたち:新月の日)は、自宅にホンイが
やって来る日だった。

入隊を数日後に控えたある日、母が「月に一度、ホンイにカヤグムを
教えることにした」と言い出した。気づけば、直ぐさま問いかけていた。
「何ゆえに?」と。藪から棒に飛び出した話に対する驚きと、己に断りも
相談もなく決まったことに対する反発。それらがない交ぜになって不機
嫌な声音になった。
「師妹に頼まれたからですよ」
母は、こちらの機嫌など全く意に介さず、平然と答える。「師妹」という
言葉に、そもそも双方の母親が姉弟子と妹弟子という縁があったから
結ばれた婚約だったことを思い出す。
「なぜ母上が?あちらの母上様もカヤグムはお出来になるはず」
「もちろん、日々の稽古は師妹がつけていきます。けれど、師妹も長らく
カヤグムから離れていた身。そのことを不安に思っているらしく、私の元
にも月に一度稽古に来させて欲しいと頼まれたのす。それで、「そういう
理由であれば」と、引き受けたのです」
「母上。私たちは仮初めの許婚なのです。私が帰宅した際に鉢合わせし
てしまえば、互いに気まずい思いをするのは必至。いずれ縁が切れる
間柄なのですから、疎遠なままでいるほうが両家のためではないですか」
先方にも既に「諾」と返事をしたことを、己が「否」と覆すことは難しい。
それを承知の上で、重ねて言った。己と顔を合わせれば、ホンイは居心
地の悪い思いをするに違いない。気を遣わせる存在になどなりたくなかった。
「そうかしらね。お前の顔を見れば喜ぶと思うのだけれど。それに、入隊
すれば、お前は若い頃のお父様と同じように、月に二、三度帰ってくるか
来ないかでしょう?鉢合わせすることはありませんよ」
「母上、戯れ言は結構です」
こちらが懸命になればなるほど、母はなぜか面白そうな顔つきをする。
それも歯がゆかった。
「わかりました。では、朔日をホンイの稽古日とします。会いたくなければ、
お前が心を配りなさい」
母がニコリと笑ってそう言ったとき、それもまた決まっていたことだったのだと
悟った。

それ以後朔日には家に寄らぬよう、心に留めていた。もっとも、母の言葉通り
月に二度も帰ればいいほうで、下手をすれば一度も家に戻らぬ月もあったため、
その取り決めは己にとって、さして負担に思うものではなかった。

そんな母とのやりとりを思い出しながら、ヨンスは通りを黙々と歩く。大通りから
小路へ入り、しばらく歩くと、ようやく家の石塀が見えてきた。と、ヨンスの足音が
ピタリと止まった。
カヤグムの音色がかすかに聞こえる。頭を巡らせて音色が聞こえる方角を見定
める。やはりそれは、家の方から聞こえてくるようだ。
『母が弾いているのだろうか?それとも・・・』
石塀の角まで来ると、音色はより鮮やかに、幅をもって耳に届く。それは、今まで
聞いたことのない旋律だった。ヨンスはその場で身じろぎもせず聞き入る。
どれくらいの間そうしていたのか。背後からガタガタと騒々しい音が聞こえ始め、
その音は段々と大きくなると、遂にカヤグムの音をかき消してしまった。惜しい気
持ちで振り向くと、半分だけ荷を積んだ荷車がゆっくりと傍を通り過ぎていくところ
だった。荷車を目で追った先に、家の門口が見える。
カヤグムの旋律が再び聞こえてくると、ヨンスはゆっくりと歩きだした。けれど、その
足は家の門口には向かわず、石塀沿いの細い脇道へと入っていく。胸丈ほどの塀の
向こう側の庭にある四阿に音色の正体を見る。
果たして、四阿には母と若い娘がいた。二人は向かい合って座り、若い娘がカヤグ
ムを弾いていた。こちらからは横顔しか見えないが、その娘の面差しに覚えがあった。
ヨンスは瞠目する。
『もう「あの子」とは呼べぬ』
すらりとした背に、腕に、伸びた髪に、カヤグムの弦を押す細く長い指に、そう思った。

<つづく>

そうです。
続くのですヨン。

あ、ちなみに今回は企画の看板をちょっと下ろしております。
【シンイで年越し企画2015】
この看板を年末に掲げるといろいろややこしいかと思いまして^_^;

来年も「紅楼夢」をどうぞよろしくお願い致します。
 ヨンスは、テジャンを遠くに感じることがしばしばあった。

 ウダルチの鍛錬はプジャンに一任されており、テジャンは大抵宿舎の自室にこもって
いらっしゃった。テジャンが丸三日眠り続けるのだとトルベヒョンから聞いたとき
には耳を疑ったものだが、本当に部屋から一歩も出てこられないので驚いたものだ。
「なぜ、テジャンはあのように何日も眠り続けるのでしょうか?」
 その疑問をヒョンにぶつけてみたことがある。
「さあな。わからん。チョグォルテのプジャンだった頃のことは何も仰らない。前に
尋ねたとき・・・」
 トルベが言葉を切る。
「尋ねたとき?」
「・・・オレ以外は皆死んだと言われた。それ以来誰もそのことは聞かなくなった」
「・・・」
 前のウダルチテジャンを、トルベは知らない。けれど、古参のウダルチたちに言わ
せるとそりゃもうひどいものだったそうだ。そいつの命令でいつ無駄死にするかと
戦々恐々の日々だったと。
「今のテジャンは、決してオレたちの命を粗末に扱ったりしない。そんなテジャン
だから厳しい鍛錬もこなしてみせるし、テジャンに命を預けることもできるんだ」
 熱弁を奮ったことがあとになって気恥ずかしくなったのか、トルベががらりと
ふざけた口調になる。
「まあ、あれだよ。オレたちはテジャンのもとで、チョナをお守りしながらお役目を
全うし、休みのときには馬鹿やって賑やかにするだけさ」
 ニヤリと笑うトルベを、ヨンスはじっと見つめる。テジャンを遠くに感じるのは
自分だけではない。ヒョンもまた、そう感じているのだろう。だから、賑やかに騒いで
わざとテジャンの気を引いているのかもしれない。
 ふとそう思った。

 ヨンスがウダルチに入ってから、王が数年ごとに替わられた。ヨンスが初めて警護に
ついた王はまだ八歳という若さだった。王は病がちで康安殿から出る機会はほとんど
なく、政はチョナの生母とその親族が取り仕切った。そのため、ヨンスがチョナの
警護につく機会はほとんどなかった。
 幼い王は即位から四年後、十二歳という若さで早逝し、忠恵王の庶子だった慶昌君が
即位された。チョナはいつも不安そうなお顔で、何をするにもテジャンや側近の者たち
の顔色を窺い、判断を委ねておられた。
「怖い」という言葉をなんの躊躇いもなくお使いになり、その度にテジャンは優しく
諭された。チョナはテジャンに絶大な信頼をおかれており、テジャンは少し困った
表情でその御心を受け止めておられた。

 チョナは御年十二歳で、ホンイと同じ年だった。そのこともあってか、ホンイのこと
をよく考えるようになった。
『どうしているのか?』
気になった。

<つづく>