二次_読み切り

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こちらのお話は以前企画で書いた先輩後輩ネタのヨンとウンスを再登場させたものです。
今回のお話ではいきなり恋人同士になっている二人。
(いずれまた恋人になるまでの過程を書くとして・・・)

********
「あらっ」
奉恩寺駅を降りたところでケータイの充電が切れていることに気づいた。
「いつから切れてたのかしら?」
久しぶりにかかってきた女友達と話が弾んだのが一時間前。そのあと電車の時間だからと慌てて
ケータイを切った。もしかしてそのとき既にバッテリー切れだったのかもしれない。
腕時計で時間を確認する。
<18:55>
『ヤバいわ。あと5分しかない』
時間にルーズなのはいつも私で、向こうはだいたい時間通りか、それよりも前に到着している。
今日は時間通りに到着しなければ、ご飯をおごる約束をさせられていた。
『取りあえず待ち合わせの場所に行こう』
おごるお金が惜しいわけじゃない。むざむざと勝負に負けるのは悔しい。すぐに会うんだから、
ケータイの充電はとりあえず後で考えよう。
ウンスはケータイをバッグにしまうと、奉恩寺の山門へと足早に歩きだした。しまう直前に、女友達
から電話がかかって来る10分程前に、公衆電話からの着歴があったことをウンスは思い出す。
『間違い電話かしら?』
特に気にもせず、ウンスはそのことをすぐに忘れてしまった。

ひっきりなしにクラクションが鳴り響く高速の渋滞を、ようやくのことで抜けて一般道に降りたかと
思えば、そこもやはり渋滞していた。暗澹たる気持ちでカーテンの隙間から、外を睨みつけるように
眺める。
既に陽は暮れて窓の外はネオンが眩しい。社内も煌々と明かりがついていて、反射した窓にはニヤ
ニヤと面白そうに見ている見慣れない男と視線が合う。
「チェ・ヨンよ。まあ、落ち着けって。事故で渋滞が余計にひどいんだとよ」
ふざけた格好と見慣れない髪型のせいだろうか。これはオレの知っている先輩じゃないから、殴っても
いいとさえ思う。すると、剣呑な空気を察知した先輩が慌てて両手を振って牽制する。
「おい、よせよ。渋滞はオレのせいじゃないだろうが」
「・・・」
「まあ、お前を誘ったのは悪かったよ」
ヨンは小さくため息をつく。こんな展開になることは、恐らくこの場の誰もが想像しなかったに違いない。
車内に目をやると、十人ほどが乗ったスタレックス(日本版ハイエース車)の中は、高麗時代のウダルチ
という近衛隊の格好をした男たちが、頭のてっぺんに丸いつけ毛を載せたまま、居心地悪そうに座っていた。
中には、鎧をつけたままでも器用に居眠りしている者もいた。
「おい、ヨンア。ここからなら歩いて行ったほうがいいかもしれんぞ」
ペ・チュンソク先輩が、運転席から振り向いて声をかけてくれた。
「あと、どれぐらいですか?」
ヨンが尋ねる。
「うーん・・・2㎞はないだろうが。あ、いや、だけどお前、その格好では難しいな。せめて鎧を脱いでいけよ」
「その格好で運転している先輩のほうがすごいです。このまま行きます。革製の鎧だからまだ軽いです」
渋滞の中、チュンソクが車を端に寄せると、ヨンが座席から立ち上がる。
「ありがとうございます。助かりました」
礼を言って車の外に出る。外は昼間の陽気をまだ含んでおり、じんわりと暖かい。車内は厚着している
自分たちにあわせてクーラーを最大限までかけていたことを思い出す。
「それじゃ」
「ああ、また明日電話する」
チュンソク先輩の言葉に頷いて、車のドアを閉める。
すぐに窓が開いて、チャン・ドルベ先輩が顔を出す。
「おい、ヨンア!今日は彼女としっぽりやれよ」
通りを歩く人達にまで聞こえるほどの大声で言われ、ヨンは居たたまれない。
『やはり、殴っておくべきだった』
物騒なことを考えながら、その言葉には返事をせず、奉恩寺のほうへむかって走り出した。

道行く人がすれ違いざまに振り返る。
「えっ!?何あれ?」
「映画の撮影か?」
「ハロウィンと燃灯祝祭を間違えてるんじゃ?」
「とんだ勘違いヤローだな」
走っているときは聞こえない声が、信号待ちではまともに刺さる。早く変わってくれと睨むように信号機を
見つめる。
『誰がこんな恰好でいたいものか』
けれど選択の余地はない。
これしかなかったのだ。

割のいいバイトがある。
たった一日で○万ウォンもらえるんだ。
その代わり、朝は午前二時に集合で、解散は午後三時過ぎ。
地方の撮影所に行って、エキストラで立ってりゃいいだけだし、出番がないときには遊んでていいんだとよ。
送迎バスもついてるから交通費もかからない。
但し、若くて身体つきのいい奴を十人以上集めないといけない。
なあ、お前。後生だからつきあってくれよ。

そんなチャン・ドルベの誘いを、ヨンはにべもなく断った。
「その日は、用があるから行けません」
丁重に断ったのに、先輩は諦めてくれなかった。その時点で、既にヨンは先輩の頭数に入っていたようだった。
(勧誘の報酬を別で貰っていたのかもしれない)
結局引きずられるようにしてスタレックスに乗せられたのだった。

自分を連れていった理由はすぐに判明した。
ドラマの撮影場所で主役のカメラテストを行う際に、背格好や顔つきが似ている自分が適役だったのだ。
エキストラの仕事はただ立っているだけで、確かに割のいいバイトではあった。

ただ、トラブルは帰るときに起こった。

撮影の衣装に着替えたあと、自分たちの着替えや貴重品を置く場所がなく、載ってきたスタレックスに全て
置かせてもらっていた。そして自分たちが撮影に臨んでいる間に、ドライバーの家族に急病人が出て、慌てた
ドライバーはヨンたちの貴重品を載せたまま、ソウルに戻ってしまったのだ。
ヨンたちがそのことを知ったのは帰る直前で、チュンソク先輩がたまたまTシャツの胸ポケットに運転免許証を
入れていなければ、その車が戻ってくるまでぼんやりと待たなければならないところだった。
ドライバーとは、マポ区で待ち合わせることになっているが、そちらに寄ってからではウンスとの待ち合わせに
間に合わない。
撮影所近くの公衆電話からウンスのケータイに連絡を入れたが、知らない番号だったせいか、彼女は電話に
出てくれなかった。

<19:30>
ビルの看板に刻まれた時刻に、ヨンの心は逸る。
燃灯祝祭でにぎわう人の波を縫うように進みながら、ヨンはコエックスの前を駆け抜けて、奉恩寺に急いでいた。

<19:35>
『・・・何かあったのかしら』
ウンスの胸には不安が広がっていた。19時きっかりに、待ち合わせ場所だった奉恩寺の正面の灯りのところで
ヨンを待っていた。けれど、10分を過ぎても彼は来なかった。ケータイを取り出して連絡をしようにもバッテリーが
ない。急いでコンビニへ行ってモバイルバッテリーを購入した。電源を入れても着歴は残っていない。ヨンのケー
タイに掛けても呼び出し音が鳴るばかり。ここに至って、ウンスは公衆電話からの着信履歴があったことを思い
出して掛けてみたけれど、こちらからは掛け直すことができないというアナウンスが流れた。
「ふっ・・・ウッ・・・」
ヨンが来ない。ろくでもない想像ばかりが頭の中を駆け巡って、何か行動を起こさなければいけないという理性が
押し流される。そのうち喉の奥から嗚咽がせり上がって来て、心細さで今にも涙がこぼれそうになる。
『泣いたらダメよ。ウンス』
ギュッと唇を噛みしめて、顔を上げる。ゆっくりと息を吸って、吐いて。落ち着いたところで再び周囲を見回す。
と、チカチカした光が視界に入った。それは道路を隔てたコエックス側で信号待ちしている人達が、何かを撮影して
いるスマホのフラッシュの光だった。
『何だろう?』
不思議に思っていると、やがて信号が変わって大勢の人たちが横断を始めた。その先頭にいる人影に見憶えが
あった。
「ヨンア?」
だけど、何だか変だ。恰好が・・・見るからにおかしい。ウンスが目を疑っている間に、その変な格好のヨンらしき
人物がどんどん近づいてきて、目の前で立ち止まった。
「ハァハァ・・・遅くなった。ごめん」
荒い息の中でそう呟いた声は間違いなくヨンだった。
「・・・ヨンア・・・あなた、どうしちゃったの?」
来てくれた嬉しさもあるけれど、それよりも驚きと衝撃の方が大きくて、ウンスは真っ先にそのことを口にした。
「バイトでトラブって」
「トラブルって?」
「いろいろあって、ケータイも財布もない。おまけに服もないから、これで来るしかなかった」
苦々しそうに言うヨンとは逆に、ウンスは段々彼の不幸が可笑しくなってくる。無事だった。約束を守るために
急いで来てくれた。嬉しさで変なスイッチが入る。
「うんうん。フン」
頷くフリして最後に笑い声が漏れてしまったのを、ヨンは聞き逃さなかった。
「今、笑っただろ?」
「まさか」
口の端に力を込めて、笑いを堪える。
そのとき、ウンスのケータイが鳴った。画面を見てウンスが驚く。
「貴方からよ」
電話を受け取ってヨンが出る。
「もしもし?」
「あ、ヨンア。無事に彼女に会えたみたいだな」
「先輩。どうして彼女の電話番号を?」
画面は、暗証番号でロックしておいたはずだった。
「お前、わかり易いんだよ。アルファベットでウンス<eun-su>って打ったら一発だったぞ」
大学でヨンとウンスがつきあっていることは、まだ一握りほどしか知らない。その一握りの中にチャン・ドルベが
いたことを、ヨンは思い知る。
「お前のケータイと財布。あ、それから服なんだけど、本人意外には渡せないって言ってるから、明日にでも
取りに行けよ」
「先輩。なぜ明日なんですか?」
嫌な予感がした。
「就業時間が過ぎたから、明日にしてくれってよ。じゃあな、伝えたぜ」
電話は一方的に切れた。
「何て?」
「服も財布も明日取りに行くしかないらしいです」
「・・・そうなんだ」
ウンスは顎に手をやってしばらく考える。
「じゃあ、うちに行きましょ」
「え?」
「ここから近いし、その格好じゃ目立つでしょ?途中で服も買わなくちゃ」
「燃灯祝祭は?」
それを一緒に見るために待ち合わせをしていた。
「いいわ。チラッと見ることはできたし、また来年来ればいいから」
ウンスはそう言うと、ヨンに手を差し伸べた。彼女の耳朶がほんのり赤くなっているのが灯篭の灯りでわかった。
ヨンはその手を掴むと、やや勢いよく歩き出した。
「ちょ、ちょっと。ゆっくり歩いて」
「ああ・・・悪い」
すぐにヨンが歩幅を縮めてくれた。
二人は並んで歩く。
「ねえ、ところでその格好は誰なの?」
「高麗時代末期、ウダルチと呼ばれた近衛隊の隊長の衣装らしい」
「そのつけ毛はどうしたの?」
「カメラテストをする関係で、主役と同じ髪型にされた」
「へぇ~(何を着ても様になるというか、画になるのよね、ヨンて)」
「・・・何?」
「ううん。なんでもない」

画になる隣の男にドキドキしているウンス。
初めて部屋に呼ばれて期待と緊張がMAXのヨン。

そんな二人を奉恩寺の弥勒大仏が優しく見守っていた。

<おわり>

長くなっちった(汗)
単に「コエックス→奉恩寺」に向かうヨンが書きたかっただけなのヨン。
今日は旧暦の4/8。
この日は奉恩寺で燃灯祝祭が行われるそうです。
ヨンが初めて天界(ソウル)に来たのもちょうどこの燃灯祝祭の期間中でした。
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前からずっと奉恩寺に関するお話を書きたくて、どうにか間に合った。
ヨンでくださってありがとうございました。



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h-imajinさんの一枚目の画をお借りして・・・
h-imajinさんの画

「春の嵐」

王宮の高台から臨むケギョンの春霞を、足を留めてしばし眺めたのは朝のこと。
日暮れが近づくにつれて長閑だった空は暗い色を帯び、彼方の空では春雷が
放つ一瞬の光をその雲に映し出している。

『来る』

御前を下がったヨンは帰宅を急ぐ。風防けを被り、徒歩(かち)で王宮の門を
出た途端、強い風に身体が煽られる。春の嵐はもう目の前まで迫っていた。
己を両足で踏ん張らせるほどのその風は、あっという間に松嶽(ソンアク)山を
駆け上り、松の木々をあらぬ方へと揺らす。僅かに見える山桜は、優美な姿
でその木の周りに舞い落ちることを許されず、薙ぎ払われて土埃とともに宙に
巻き上げられて、空の彼方へと去っていく。

朝の春霞と同じように、その様子をじっと眺めていたヨンは、風防けの頭巾を
目深に被り直して一歩踏み出す。
それを待っていたかのように、天から大粒の雨が地上のヨンめがけて降り始めた。

心が逸るのは、春雷に慄いているだろう妻を思う故だとしたら、腹の底からわき
出す奮然とした思いは何なのか。
先ほど目にした春嵐。人知が及ばぬ強大なその力を目の前にした、畏れにも似た
武者震いのせいなのか。
雨はもう下穿きや内着にまで滲みているのに、身体の芯は燃えるように熱い。
その熱さを持て余したヨンは、間もなくぬかるんだ道を一気に駆けだした。

帰宅すると、出迎えたのは妻だけだった。
通いの者たちは嵐が来る前に皆家に帰らせたのだという。
外着を脱いだ己の傍で、濡れた髪を忙しなく布で拭いながら妻がそう言った。
ぬぐい易いようにと頭を屈めると、豊かな胸の稜線に目がいく。
妻の手がふと止まる。

目が合う。

妻の目の奥に、ちらちらと熾る熾火を見た。

妻がくぐもった声で何か言い、離れる気配を感じた。
とっさに、妻の手を掴む。
「どこへ?」
逃げる素振りに、己の焔(ほむら)は一気に煽られる。

無言で妻の手を引いて家の中を歩く。
閨にはまだ火の気はない。
寝台に組み敷いた身体が熱を帯びてきたころ、腕にすがりついてきた妻が
「冷たい」と呟いた。
濡れた内着は身体にまとわりつき、紐は思うように解けない。
もどかしい気持ちで濡れたものを床に脱ぎ落とす。

暗闇に覆われた閨に、光が差しこむ。
障子をすり抜けた雷光が、妻の肢体を浮かびあがらせる。

昼の光のような眩しさではなく、かといって夜の灯りのような温かみはない。
月明かりに似てはいるが、煌々と照らす光ではない。
夜でもなく、昼でもない。
そんな世界に二人は居た。

すぐあとに、地を響かせながら雷鳴が轟く。
春雷に惹かれた内功が、表へ出たいとせがむのをどうにか鎮める。
再び、部屋の中が雷光に包まれる。
虎のような呻き声が、己の口から漏れた。

『今日は加減が出来ないかもしれない』

誘うように伸ばされた妻の手を握り返しながら、ふとそう思った

<おわり>
先週の火曜日、仕事の帰りにときどき聴いている「五時に夢中」で、
岩下尚文さんが「嵐が来る前にムラムラする」と仰っていました。
(車を運転しながらなので、TVだけどラジオ感覚なのヨン)

この前の大きな春の嵐があったでしょう?
その嵐が来る二日ほど前にムラムラ来たそうで(笑)

何となくこの話を憶えていて、h-imajinさんの画を見た瞬間ネタがヒラめいたのです。

h-imajinさん、有り難うございました♪


以上、ヨンとウンスのムラムラ話でした~
年末年始のh-imajinさんのヨンの色気がダダ漏れな画に私もお話を書いてみました。
元記事は こちら

深くなったキスに、ウンスは目を閉じてヨンの首に腕をからませる。
と、ヨンがその腕をゆっくりと外すと、そのまま布団に縫いとめる。
唐突にキスをやめたヨンは、黙って組み敷いたウンスを見下ろす。
「なに?」
ウンスが問いかける。
「・・・イムジャが見たい」
「なにを?」
意味がわからず見つめた先、じっとこちらを見る黒い瞳とぶつかる。

<目は口ほどに物を言う。>

自分を欲しがるその瞳に、喉の渇きを覚えたウンスがゴクリと唾を飲む。
喉が嚥下する首筋から、ゆっくりと上下する胸、そして内着を押し上げるように
ツンと立った頂きへとヨンの視線が辿っていく。
隠すつもりはない。それでも羞恥でウンスの頬は上気する。

目が合う。

合っていると思ったのはウンスだけで、ヨンは半ば焦点の定まらない目で
こちらを見ている。
『ヨンア、貴方を欲しがっている私に興奮してるの?』
陶酔した顔は、整った顔立ちの男振りを引き立て、垂れた黒髪の先から
色気が滴り落ちてくるようだ。
「あ・・・」
ウンスの口から喘ぎのようなため息が漏れる。
今度はヨンの喉がゴクリと鳴る。
少しだけ開いた赤い唇のその奥に、甘く潤った蜜のような舌があることを
己はもう知っている。
ゆっくりと味わう。
そのつもりで半ば目を閉じて顔を降ろしたヨンは、次の瞬間果実にかぶりつく
ようにウンスの唇を奪う。
『・・・早く』
こらえきれずに顎を上げて迎えにきた甘い舌を、もったいぶる余裕はかけらも
残っていなかった。

<了>

きゃー書いちゃったよ
なんか恥ずかしいっ
並んで歩いているはずが、気がつくといない。
見れば、道端にしゃがみこんでいた。
「ねえ、たんぽぽよ」
「・・・(見ればわかる)」
実をつけた植物があれば、「食べられるかしら?」と立ち止まり、
花が咲いていれば、「なんて花なの?」と聞いてくる。
度々の問いかけに少々うんざりしたヨンは、石と岩だらけの荒涼とした
道はないものかと、真剣に辺りを見回す。
「ふふふ」
ウンスは嬉しそうに笑うと、たんぽぽを一本だけ摘んで立ち上がって、
それを空にかざす。
「わー、見て見て。今日は雲一つないいいお天気」
片手でたんぽぽを掲げたままで、ぐるりと一周する。
「危ない」
足の軸がフラフラしているので、ヨンはウンスの二の腕を掴んで支える。
「ありがとう」
ようやくこちらに関心が向いたことで、先ほどまでの苛ついた心が
途端に穏やかになる。

ウンスは、しばらくそれをかざしたままの姿勢で空を見上げていた。
「何をしている?」
「たんぽぽを、空と太陽に見せているのよ」
「空に?」
「ええ。あなたたちのおかげで、地上にはこんなに可愛い花が咲いている
 のよって。それに・・・」
「それに?」
「そうね・・・『亡き人たちに捧ぐ』ってところかしら」
伝えたいことがようやく言葉になって、ウンスが微笑む。
「亡き人・・・」
「そう。『届け、届け。あの世まで届け!』って」
今は亡き人たちが少しでも心安らぐように・・・ウンスは、鎮魂の思いを空に向ける。

「共に」
その言葉と同時にヨンがウンスの背後に寄り添い、ウンスの腕に手をからませて
支えてやる。
垣間見えたヨンの瞳は静かで、ウンスは安堵する。

ヨンとウンス。
同じ空の下。
二人はしばらく空を見上げていた。

たんぽぽ
by:Vince Alongi さん


キム・ジョンハク監督に捧ぐ
(監督の命日に寄せて・・・)
くまみやさんの画にお話を書かせて頂きました。

画像はこちら

 『花』

真夜(まよ)のない、光溢れる天界で、
その花は咲いていた。

天上の世界だ。
数多(あまた)の花が百花繚乱に咲き誇っていただろう。
けれど、俺にはその花しか見えなかった。

花を・・・手折った。
懐に抱いて下界へ降りた。

無理やり連れてきた下界で、花は驚き、
花は慄(おのの)いて、見る間に萎れた。

全ての責は俺にある。
手折ったのは俺だ。
罵られてもいい。蔑まれてもいい。

だから、どうか・・・
前のように笑ってくれ。
お前の笑った顔が見たいんだ。

花は・・・
花は・・・俺と生きるのだという。

花は俺が傍にいなければ枯れてしまうという。
俺は花がいなくても生きていけると答えた。

いいえ。
貴方も私が傍にいなければ生きながら死ぬのよ。
花はそう言った。

貴方がいる場所が私の生きる世界なの。

水底の見えない濁った水でも、光が届かない闇でも
そこが貴方の生きる世界だというなら、私は貴方の
心を抱いて、そこでちゃんと咲いてみせるわ。







花が咲く。
凍える水に足を浸しながら、冷たい風に身体を
揺さぶられながら。


それでも花は、幸せそうに笑いながら花弁を広げる。
俺は微笑みながら、花の前に立ち、風を受ける。





生きていく。
この世界で、この場所で、共に生きていく。
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